学習障害のある作家として史上初──ネナ・カルーが2025年ターナー賞を受賞
ターナー賞が史上初めて学習障害のあるアーティストを受賞者に選出した。選ばれたのは、抽象彫刻とドローイングで知られるネナ・カルー。包摂性をめぐる議論が続くアート界において、制度的前進を象徴する受賞といえる。
イギリス現代アート界で最重要の賞の一つであるターナー賞の2025年の受賞者が、ネナ・カルー(Nnena Kalu)に決定した。カルーには賞金2万5000ポンド(約500万円)が授与され、最終候補に残ったほかの3名のアーティストには各1万ポンド(約200万円)が贈られる。
本賞においてカルーは、学習障害のあるアーティストとして初の受賞者となった。また、ターナー賞が与えられた数少ないブラック・アーティストの一人でもある。
1966年、ナイジェリア人の両親のもとイギリス・グラスゴーに生まれたカルーは、ビデオテープやセロファンなどの非伝統的な素材を用いた繭状の立体作品でその名を知られるようになった。自閉スペクトラム症(ASD)で、言語による発話がほとんどないカルーは、1999年からロンドン拠点の非営利団体アクションスペースと協働し、制作を行ってきた。だが商業ギャラリーでの発表は近年になってからで、昨年にはロンドンのギャラリー、アルカディア・ミッサ(Arcadia Missa)への所属が決まっている。
現在59歳のカルーは、作業の反復動作を記録するような、密度の高い螺旋状のドローイングも制作している。アクションスペースでアーティスト育成責任者を務めるシャーロット・ホリンズヘッドは、9日夜(イギリス現地時間)にブラッドフォードで行われた授賞式で、「1999年にネナがアクションスペースで制作を始めた頃、アート界はまったく関心を示しませんでした。ネナは今日に至るまで信じがたいほどの差別に直面してきました。この受賞が、その偏見を打ち砕いてくれることを願っています。ネナ・カルー、あなたは歴史を作りました!」と語った。
「他の作家との単純な比較は意味をなさない」
ターナー賞を運営するテートは声明で、「審査員たちはカルーの大胆かつ力強い作品を評価し、表現的なジェスチャーを抽象彫刻とドローイングへと転化させる生き生きとした手腕を称賛しました。スケール、構成、色彩における独自の実践と洗練を認め、その作品が放つ圧倒的な存在感に深い感銘を受けました」と述べた。
テート・ブリテン館長のアレックス・ファーカソンが議長を務めた今回の審査員には、インディペンデントキュレーターのアンドリュー・ボナシナ、リバプール・ビエンナーレ館長サム・ラッキー、ナショナル・ギャラリー現代・近現代プロジェクト副キュレーターのプリイェシュ・ミストリー、フィッツウィリアム美術館近現代アート上級キュレーターのハブダ・ラシッド(Habda Rashid)が名を連ねた。
過去の受賞者に、アニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)、ヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans)、ルバイナ・ヒミッド(Lubaina Himid)などが名を連ねる本賞において、今年の最終候補は多様性でも注目を集めた。レネ・マティック(Rene Matić)は、友人や愛する人々の日記的な写真で知られ、ターナー賞史上2番目の若さでノミネートされた。画家のモハメド・サミ(Mohammed Sami)と彫刻家のザディ・クサ(Zadie Xa)はいずれもイギリス国外の出身で、それぞれイラクとカナダで生まれている。最終候補に残った4名の作品は、現在、カートライト・ホール・アートギャラリー(Cartwright Hall Art Gallery)で展示されており、初期レビューではサミが最有力とみられていた。
1984年に創設されたターナー賞は、挑発的な作品への授与をめぐってこれまで幾度となく論争を呼んできたが、近年は別の理由で意見が分かれることも多い。2019年には、4名の候補者が全員で賞を分け合う決断をし、議論を巻き起こした。
そして今年も、発表前からイギリス国内では賞の存在意義に疑問を呈する声も上がっていた。12月8日にテレグラフ紙に掲載されたオピニオン記事の見出しは、「ターナー賞を廃止すべき時だ」という厳しいものだった。
しかし、カルーの勝利に対する反応を見る限り、今回の受賞者は「正しい選択」だったと言えそうだ。ガーディアン紙の批評家であるエイドリアン・サールは、「カルーのアートはあまりに身体的かつ官能的で、制作し続ける身体と、その手によって生まれる形象との交渉そのものが痕跡となっている。制作行為と作品そのものの境界が曖昧になるほどだ。これは、ジャコメッティが石膏粉の舞う部屋で制作した彫像にも通じる点がある。しかしカルーの作品は、いわゆる技法と呼べるものへ還元できず、他のアーティストとの単純な比較も意味をなさない」と絶賛した。(翻訳:編集部)
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