訃報:画家の中村宏が93歳で死去。ルポルタージュ絵画の第一人者、晩年は自身の空襲体験に向き合う
戦後日本の「ルポルタージュ絵画」 の代表的画家として知られる中村宏が1月8日、膵臓がんのため東京都内の病院で死去した。93歳だった。

画家の中村宏(ひろし)が1月8日、膵臓がんのため東京都内の病院で死去した。93歳だった。葬儀は近親者のみで執り行われる。
中村は1932年、静岡県浜松市に生まれ、1951年に日本大学芸術学部美術学科に入学。戦後の混乱と急速な社会変動のなかで絵画制作を開始した。在学中から前衛的な表現を志向し、学生運動に関わるとともに、前衛美術会をはじめとする美術家グループに参加。1955年には、米軍立川基地拡張に反対する砂川闘争の現場を取材し、基地の街の日常と緊張関係を克明に描いた《砂川五番街》(1955)を発表。社会的事件を現地取材にもとづいて描く「ルポルタージュ絵画」によって注目を集め、戦後日本の社会派絵画を代表する存在となった。
1960年代以降は作風を大きく転換させ、飛行機や蒸気機関車、セーラー服姿の少女、望遠鏡といったモチーフを用いた、象徴性と寓意性の強い絵画世界を構築。シュルレアリスム的要素やモンタージュ的構成を取り込みながら、現実と記憶、時間の層を横断する独自の表現を追求した。
1970年代には、美術教育の実践の場として美学校(現代思潮社)の創設に参加し、絵画ワークショップを担当。後年には東京造形大学の非常勤・客員教授を務めるなど、後進の育成にも力を注いだ。
近年も精力的に制作を続け、自身の空襲体験を主題とした作品群「戦争記憶絵図」(2022-)など、ルポルタージュとして戦争を描くことに取り組んでいた。2026年1月20日からは静岡県立美術館で回顧展「中村宏展 アナクロニズム(時代錯誤)のその先へ」が開催予定で、その準備が進められていた。