マグリットやピカソ、草間など、近現代美術の名品がオークションへ──予想落札価格は総額85億円
シュルレアリスムやミニマリズム作品を軸に形成されてきた、ベルギー人コレクター夫妻のコレクションが、クリスティーズのオークションに出品される。草間彌生やルネ・マグリットなど、近現代美術を代表する作家の作品が揃う。
象徴主義やベルギー表現主義、シュルレアリスム、戦後アヴァンギャルド、ミニマリズム、近現代のイギリス美術まで、幅広いジャンルの作品を収集してきたベルギー人コレクター、ロジェ&ジョゼット・ヴァントゥルノー。そんな2人が半世紀以上にわたって築き上げてきたコレクションが、クリスティーズ・ロンドンのオークションに出品される。
このオークションは3月に開催され、コレクション全体の予想落札価格は総額4000万ポンド(約85億1000万円)にのぼる。これらの作品には、3月5日のイブニングセールと3月6日のデイセールに加えて、2月25日〜3月12日まで実施されるオンラインオークションから入札可能だ。
「旅と好奇心が生み出したコレクション」
デザインと装飾を学んだロジェ・ヴァントゥルノーは、家具製造業を営み、妻のジョゼットは画家として活動していた。夫妻は1950年代から盛んに旅に出るようになり、中国陶磁器とフランドル表現主義の作品を収集していた。その後、2人の関心はシュルレアリスムやミニマリズム、戦後の欧米美術へと広がっていく。クリスティーズで印象派・近代美術部門の副会長を務めるオリヴァー・コーは、オークションの発表に際して次のように述べている。
「さまざまな時代と芸術運動を網羅しているヴァントゥルノー・コレクションには、夫妻が20世紀・21世紀美術に対して向けた極めて個人的で大胆なビジョンが表れています。1950年代半ばから築き上げられた2人のコレクションは、ロジェとジョゼットが歩んできた人生と密接に結びついています。デザイナーと画家である2人は、半世紀以上にわたってコレクションをともに形成してきました。ポストモダニズム様式の2人の邸宅は、建築とデザイン、そしてファインアートが絶えず対話する真の総合芸術作品と言えるでしょう。文化が交差する地という、ベルギーの長い伝統に根差し、旅と尽きることのない好奇心によって培われた夫妻の幅広い視野が、100人以上のアーティストにわたるコレクションを生み出したのです」
マグリット作品への需要は依然堅調
今回最も高い評価額がつけられているのはベルギーのシュルレアリスム作家ルネ・マグリットの《La plaine de l’air》(1940)とイギリスを代表する彫刻家ヘンリー・ムーアの《Goslar Warrior》(1973-74)の2作品。いずれも予想落札価格は350〜550万ポンド(約7億4400万〜11億7000万円)だ。

マグリットの《La plaine de l’air》は、1枚の巨大な葉で構成された木が、曇り空を背にした山岳風景の中にそびえ立つ作品だ。画面の大半を占める一本の木の佇まいが、周囲を静かに見下ろしているかのような印象を与え、風景に不穏さを醸し出している。マグリットの作品は現在、コレクター需要が非常に高い。2024年には「光の帝国」シリーズの1点が、クリスティーズ・ニューヨークで、1億2120万ドル(当時の為替で約188億円)で落札され、シュルレアリスム作品の最高価格を更新した。
一方のムーアの作品は、横たわる男性を描いた彫刻で、このアーティストの作品群の中では珍しいモチーフだ。1951年のギリシャ旅行でギリシャ彫刻から着想を得たムーアは、戦士の死を描く3部作を構想し、1950年代に《Warrior with Shield》と《Falling Warrior》を制作した。《Goslar Warrior》はその3部作を完結させる作品となる。
抽象とミニマリズムの名品群も
このほか、パブロ・ピカソの絵画《Nu debout et femmes assises》(1939)も出品され、予想落札価格は300万〜500万ポンド(約6億3800万〜10億640万円)とされている。本作は第二次世界大戦勃発後、ピカソがドラ・マールとともにパリを離れ、沿岸部のリゾート地であるロワイヤンに滞在していた時期に制作されたものだ。椅子に座る女性と、その横に立つ女性はいずれもマールをモデルとしている。

200万〜300万ポンド(約4億2500万〜6億3800万円)の価格帯には、ヴァントゥルノー夫妻が重視してきた抽象絵画やミニマリズムの作品が並ぶ。いくつか例を挙げると、草間彌生を象徴するシリーズ作品のひとつ、《無限の網》(1960)やルーチョ・フォンタナの《Concetto spaziale, Attese》(1964)、アグネス・マーティンの《Untitled #17》(1996)などが含まれる。マーティンは本作を制作した翌年に、ヴェネチア・ビエンナーレで金獅子賞生涯功労賞を受賞している。
マックス・エルンストの絵画《Seestück》(1921)は、150万〜250万ポンド(約3億2000万〜5億3000万円)の評価額がつけられており、巨大なサモワール(ロシアの湯沸かし器)が中心となった砂漠の風景を描いている。この作品は、シュルレアリスムが芸術運動として確立される前に作られた作品だが、その感性を先取りしているペインティングだと言える。その他にも、リン・チャドウィック、ジャン・デュビュッフェ、トレイシー・エミン、バリー・フラナガン、アントニー・ゴームリーらの作品が出品される予定だ。
オークションに出品される目玉作品は、世界各地で展示される予定だ。1月27〜28日にクリスティーズ・ブリュッセルで幕を開け、2月3〜6日に香港、2月10〜13日にニューヨーク、2月18〜20日にパリへ巡回。その後、2月25日からロンドンで展示される。
ヴァントゥルノー・コレクションの一部は、2006年にサザビーズ・ニューヨークで競売にかけられ、出品された27点すべてに買い手がついた。当時のニューヨーク・タイムズ紙によれば、ほとんどの作品は「極めて高い価格で」落札され、カール・アンドレやロバート・マンゴールドの作品など、一部はオークション記録を樹立した。(翻訳:編集部)
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