「アート、スポーツ、カンフーを横断する新たな身体表現を創出したい」──小林勇輝【TERRADA ART AWARD 2025ファイナリスト・インタビュー】

寺田倉庫G3-6Fで現在開催されている「TERRADA ART AWARD 2025」のファイナリスト展(2月1日まで)。倉庫空間内には、5人のファイナリストが手がけた新作が展示されている。展示されている作品に込められた想いや今後の展望について、鷲田めるろ賞を受賞した小林勇輝に話を聞いた。

Artwork by Yuki Kobayashi. Photo: Keizo KIOKU
Artwork by Yuki Kobayashi. Photo: Keizo KIOKU

──小林さんはこれまで、スポーツにおける様々な差別を題材にしてきました。今回のプロジェクトの制作アプローチは、過去作と比べてどういった共通点、あるいは相違点があるのでしょうか。

本展示では、中国南部武術「詠春拳」を題材にした学際的パフォーマンス作品「詠春拳プロジェクト」の現在地を共有しています。

これまで私は、10〜20代前半で経験したスポーツの技能を身体表現として作品に用いてきましたが、それによって、次第にそれらが体から消失していくような感覚を抱くようになりました。そこで今後は、新たな身体技術の習得プロセスそのものを作品として提示することに挑戦したいと考えたんです。制作方法を模索する中で、幼少期からアクション映画やカンフーが大好きでいつか習いたいと夢見ていたことを改めて思い出し、出会ったのが「詠春拳」でした。

詠春拳は、特に歴史的な武術では稀である女性の拳法家によって創始され、身を守る術として発展してきました。しかし日中戦争を経る中で、詠春拳という身体表現が様々な軋轢を生んだことも事実です。だからこそ、日本にルーツを持ち、これまでスポーツにおけるジェンダーをテーマにしてきた私が今学ぶべきだという使命感を持ちました。

これまでわたしは、スポーツで「勝つため」に習得した技術をパフォーマンスに転用してきましたが、詠春拳では、「作品のため」に技術を磨き、アジア各地で人々と交流し、武術における性や現代における戦いについて向き合うことに挑戦しています。その結果、詠春拳の実践・訓練はすでにライフワークとなり、それを行う目的が自らの鍛錬やコミュニティの拡張へと変化してきました。これは、これまでとは大きく異なる点です。

──展示プランを考案するにあたって、このアウォードだからこそ挑戦できたこと/したかったことはありますか?

2019年以降に積み重ねてきた鍛錬や交流の記録を共有するため、空間を「作品展示の場」だけでなく実際に「稽古する道場」に転化することに挑戦しました。つまり、「完成形」を発表する場ではなく、常にプロジェクトが発展・変化し続ける生きた空間をどう作るか、ということを模索しています。会期中には、展示、ソロパフォーマンス、公開稽古などの複合的な表現媒体を同時に披露します。

さらに今回の展示では、本プロジェクトのリサーチ過程で2022年に1カ月半、2024年には6カ月ほど香港に滞在し、毎日練習をつけていただいた詠春拳師傅を初めて日本にお招きします。これまでは自らが各地を訪問することで交流が叶いましたが、今後は各地でお世話になった方々を日本に招き、鑑賞者の方々との交流を促すことで、異なる可能性を広げていくことができるのではないかと考えています。

Artwork by Yuki Kobayashi. Photo: Keizo KIOKU
Artwork by Yuki Kobayashi. Photo: Keizo KIOKU

──ファイナリスト展では、倉庫という特殊な空間を使って展示を構築することが求められますが、空間の使い方や作品の見せ方など、キュラトリアルな工夫を施した点があれば教えてください。

香港、中国本土では、街中のオフィスや雑居ビルの一室に道場があることが多いんです。今回、そういった環境を参照し、倉庫という無機質な空間に突如道場が出現するような設えを創出しました。

展示構成においては、伝統的な練習を体験できる空間、「詠春堂」という場の歴史背景の紹介と現代における再解釈、そして詠春拳を通した武術コミュニティとの交流記録を同時に共有することを目指しました。展示スペースに物を置きすぎると練習場所がなくなってしまうため、彫刻の配置を常に変えられるようにしています。また、写真や記録映像などを通じて、パフォーマンスが行われない時間でも来場者が身体的な動きや痕跡を垣間見ることができるよう工夫しました。

──審査員との対話のなかで、新たな発見や気づきにつながったアドバイスや会話があれば教えてください。

審査員の鷲田めるろさんには、長年継続してきた鍛錬や、美術と他分野の横断への敬意や配慮を評価いただいたとともに、アートとパフォーマンスの境界や、地域・文化圏を横断した制作などについても講評で言及いただきました。それは、時間をかけて自分の生活に浸透させてきたことがライフワークとして身体に記述されてきたことを実感する機会でもあり、これまでの出会いや学びの意義を再認識しました。

展示空間における、木人(人型の練習器具)、動物(詠春拳の由来である蛇と鶴)、そして人間(私自身の身体)の関係性についても指摘いただき、実際のパフォーマンスの中では、如何にその関係性をクィアの視点から解放できるかを試みたいと考えています。そして今後は、武術を通じた脱人間中心主義的な表現の探求を、さらに深めたいと思います。

Artwork by Yuki Kobayashi. Photo: Keizo KIOKU
Artwork by Yuki Kobayashi. Photo: Keizo KIOKU
Artwork by Yuki Kobayashi. Photo: Keizo KIOKU

──今回の受賞を機に将来的に挑戦してみたいことや、展望があれば教えてください。

今回、都市空間で作品を発表できた経験を、あらためて自然環境の中での鍛錬や制作へとつなげていきたいと考えています。そうした往復を通して、あらゆる場所がパフォーマンスの場へと変容しうることを身体的に体現し、表現の可能性をより重層的に探っていきたいです。将来的には正式な道場兼スタジオとなる空間を見つけ、これまで交流のあった練習生や師傅の方々と、都内で継続的に集い、鍛錬できる拠点を築くことも視野に入れています。

また、今年は詠春拳の由来の一つとされる永春白鶴拳の発祥地である福建省永春市を再訪する予定です。現地の文化や人々と交流しながら、永春白鶴拳の師傅のもとで長期的な鍛錬に取り組みたいと考えています。最終的には、永春白鶴拳が影響を与えたとされる琉球発祥の空手文化への理解を深めるため、沖縄を訪れることも展望しています。

こうした継続的なリサーチを通じて、スポーツ社会における性や人種の問題、競技会がもつ権威性を主題としてきた《Life of Athletics》(2014–)との関連性をあらためて深めていくつもりです。将来的には、アート、スポーツ、カンフーを横断する身体性を独自のパフォーマンス・メソッドとして理論化し、新たな身体表現を生み出すことが、長期的な挑戦になると考えています。

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