「身体の不確かさや制御不能感を、経験を通じて立ち上げたい」──谷中佑輔【TERRADA ART AWARD 2025ファイナリスト・インタビュー】

寺田倉庫G3-6Fで現在開催されている「TERRADA ART AWARD 2025」のファイナリスト展(2月1日まで)。倉庫空間内には、5人のファイナリストが手がけた新作が展示されている。展示されている作品に込められた想いや今後の展望について、金島隆弘賞を受賞した谷中佑輔に話を聞いた。

Artwork by Yuske Taninaka. Photo: Keizo KIOKU
Artwork by Yuske Taninaka. Photo: Keizo KIOKU

──谷中さんは、作品を通じて「身体を科学の実証性や生産性の枠組みだけで捉えること」への問いを投げかけています。今回の作品において、その問いはどのような形で提示されているのでしょうか。

今回発表した新作《迷走の作法》は、楽器であり彫刻であり、同時にインタラクティブな作品です。3人が揃わなければ成立しないという構造をあえて設定すると同時に、「うまく演奏できない」ように作ることで、効率や正確さのために身体を整列させるのではなく、ずれ、迷い、うまくいかなさそのものを、身体の経験として立ち上げることを目指しました。つまり、科学的合理性が求める「再現性/均一化」の対極にあるといえる、身体が持つ不確かさや可笑しさ、意図どおりにいかない感触を、鑑賞者が実際に触れて経験するかたちで提示しています。

また本作では、3人の科学者が3つの覗き穴から同じ物質を見つめている19世紀の科学雑誌に掲載された図像も参照しました。ただし、複数の身体のコミットによる正確さを求める制度のあり方(その機械化とハイブリット化を伴う現代的な状況も含む)を逆手に取るように、同じ対象を見ても揃わないこと/行為の重層化によって結果が均一化されず安定しないことを、作品の成立条件として組み込みました。鑑賞者が演奏によってこの仕組みに参加し、迷走しながら成立に関与することそのものが、身体を捉え直すための場として立ち上がることを目指しています。

Artwork by Yuske Taninaka. Photo: Keizo KIOKU
Artwork by Yuske Taninaka. Photo: Keizo KIOKU

──展示プランを考案するにあたって、このアウォードだからこそ挑戦できたこと/したかったことはありますか?

彫刻やパフォーマンスで使うための道具を作ってきましたが、楽器を作ったことは今までありませんでした。応募の際、このプランを実現できる環境はTERRADA ART AWARD以外ないと感じていたので、受賞により実現できたことを嬉しく思っています。楽器制作は調律を含む、複雑で繊細な工程でした。その上で複数の人が同時に演奏しなければならないという特殊な形態の作品が制作可能になったのは、アウォードのサポートと、コラボレーターたちの協力があってのことです。心から感謝しています。

──ファイナリスト展では、倉庫という特殊な空間を使って展示を構築することが求められますが、空間の使い方や作品の見せ方など、キュラトリアルな工夫を施した点があれば教えてください。

当初、ファイナリスト5組に用意される展示「区画」がアートフェア的な雰囲気になるのではないかという懸念がありました。そこで、自分が展示や公演をする際に意識している「リプレゼンテーション(表象=出来上がった像を提示すること)ではなく、プロセスをどのように共有するか」ということを、展示空間に落とし込みたいと考えました。ダイアグラムや過去作を新作に組み合わせたのは、そのような経緯からです。

──審査員との対話のなかで、新たな発見や気づきにつながったアドバイスや会話があれば教えてください。

身体を主なテーマとメディウムとしているわたしは、作品のビジュアルとは、制作のプロセスが持つエネルギーが複合的に絡まり、バランスを取り合っている均衡あるいは崩壊の状態であると考えています。それは、身体が本来持つ生っぽさや、予想不可能に脆弱であること、そして怪我をしたり病気になったりするという性質を、作品に抱え込ませるための実践でもあります。展示計画のプレゼンテーションの場でそういった微妙なバランスを伝えることは容易ではありません。しかし、審査員の金島隆弘さんが授賞式で講評下さったように、「結果ではなく、そのプロセスから立ち上がる可能性」を評価していただけたことがとても嬉しかったです。

Artwork by Yuske Taninaka. Photo: Keizo KIOKU
Artwork by Yuske Taninaka. Photo: Keizo KIOKU
Artwork by Yuske Taninaka. Photo: Keizo KIOKU

──今回の受賞を機に将来的に挑戦してみたいことや、展望があれば教えてください。

最近は色々なアジアの国や地域を訪れながら、漢方/中医学がどのように知識や技術として地域に伝播しているのか、地域ごとの違いはなぜ生まれるのか、ということに興味があり、リサーチを行っています。またそこから、時間と治癒の関係を考えています。現代社会では、「治りさえすればいい」というように結果や効率が重視されるのは仕方がないと思う一方、その価値観が「Ableism(エイブリズム)」(健常者主義、能力主義)を推し進めてしまうのではないかという疑問があります。その世界観/宇宙観をどのように書き換えうるのか、という可能性を探求したいと考えています。

芸術は世界の反射でありながら、それらを創造していく重要な政治的な役割を担っています。作品と実践の双方から、その両面に深く関わっていきたいと思っています。あと、今年はシンガポールのシアターでのレジデンスも控えており、パフォーマンス/ダンス作品にも挑戦する予定です。

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