「呪いのごとく染みついた『彫刻』とは何なのかを確かめたかった」──黒田大スケ【TERRADA ART AWARD 2025ファイナリスト・インタビュー】

寺田倉庫G3-6Fで現在開催されている「TERRADA ART AWARD 2025」のファイナリスト展(2月1日まで)。倉庫空間内には、5人のファイナリストが手がけた新作が展示されている。展示されている作品に込められた想いや今後の展望について作家たちに話を聞いた。

Artwork by Daisuke Kuroda. Photo: Keizo KIOKU
Artwork by Daisuke Kuroda. Photo: Keizo KIOKU

──黒田さんは近年、彫刻史との対話を軸としたプロジェクトに取り組まれています。今回、ブランクーシの作品を対象にした理由を教えてください。また、彫刻家や彫刻作品そのものを「演じる」というアプローチは、ご自身の実践の中でどのように発展してきたのでしょうか。

私は近年、特に戦時中や戦前の彫刻家について調査し、対象にした彫刻家を即興的に演じるビデオ作品を制作しています。今回は1950年頃から活発になる日本の彫刻の抽象表現について、ブランクーシなどの彫刻家を取り上げて制作しました。

ブランクーシを中心的に取り上げた理由は、もともと関心を持っていたことと、漠然と彫刻の抽象はブランクーシから展開したと思い込んでいたことがあります。もう一つ決定的な要因は、作品の中でも言及していますが、韓国の抽象彫刻のパイオニア的存在だったキム・ジョンヨンが1953年に制作した《鳥》というタイトルのブランクーシっぽい作品を見たことです。彫刻に関する情報を得ることも作品を制作することも簡単ではない状況の中で、どうしてこの作品が生み出されたのかに強い興味を持ちました。また、国内では、堀内正和が京都市立芸術大学の先生になって抽象をやり直し始めた頃のことであり、同時代的な抽象の展開についての興味もあって、調査と制作に取り組むことにしました。

私は長く「彫刻」を学び、学んだことや経験を拠り所にして作品制作に取り組んできました。しかし、あるきっかけで、「彫刻」と言われているものに対する、それまで持っていた疑念や違和感が無視できないものとなり、様々な調査や制作を通して「『彫刻』とは何か?」を考えて直してみようと思うようになりました。自分に呪いのごとく染みついてしまった「彫刻」とはいったいなんなのか? 自分ごと取り出して確かめてみたいと思う中で自然と彫刻家を演じる作品へと展開しました。一連の作品は「『彫刻』とは何か?」という彫刻家であれば誰でも一度は向き合う問いに対する、私なりの答えのようなものだと思って制作しています。

しかしながら、私は特に演技を勉強したわけでもないし、台本を書くわけでもないので、自然に、もしも自分がその人だったらという気持ちで演じています。私は、人格は出会った人々の影響により形作られると考えていて、私自身についてもそれまで出会った人々の寄せ集めのようなものだと思っています。だから、私の場合は演じることは誰かになり変わるというよりも、自分に染みついた何か、別の顔をみせるような、そんな感じで考えています。その意味で、私の作品制作における事前の調査は、自分とまざりあった何者かの輪郭を明らかにし、描き出す手がかりのようなものだと考えています。

──展示プランを考案するにあたって、このアウォードだからこそ挑戦できたこと/したかったことはありますか?

いつでもその時その環境でしかできないことがあり、自分も変わり続けるもの。ですから、かけがえのない今をどう活かすかを常に心がけています。今回は、その意味でも、私にしかできないことと、この環境でしかできないものが、作品として示せたと自負しています。

──ファイナリスト展では、倉庫という特殊な空間を使って展示を構築することが求められますが、空間の使い方や作品の見せ方など、キュラトリアルな工夫を施した点があれば教えてください。

特に特殊な空間とは感じませんでした。天井が高くてさっぱりしていて、展示は難しくありませんでした。設営前に気にしたところがあるとすれば、他のファイナリストの展示からの影響についてでしたが、アウォード事務局の皆さんに導線をうまく設定していただき、他のファイナリストとも調整していただいて、作品が干渉しあうということもありませんでした。

Artwork by Daisuke Kuroda. Photo: Keizo KIOKU
Artwork by Daisuke Kuroda. Photo: Keizo KIOKU

──審査員との対話のなかで、新たな発見や気づきにつながったアドバイスや会話があれば教えてください。

普段あまりお話しする機会のない審査員の方々との対話は、全体を通してとても有意義でした。私の長ったらしい映像作品を楽しんで見てくださり、励みになりました。審査員の寺瀬由紀さんからは、私が調査・制作の対象としている彫刻家の作品が海外のマーケットやアートシーンでどう評価されているか、あるいは、日本の彫刻の歴史的な空白についてお話しすることができ、大変刺激になりました。

──今回の受賞を機に将来的に挑戦してみたいことや、展望があれば教えてください。

私は西日本を主な活動拠点にしているので、東京での作品発表の機会は多くありませんが、今回を機に、活動・発表の場を広げていきたいという思いが強くなりました。

彫刻関係の作品については、これまで積み重ねた作品をまとめてみせる機会を作りたいと考えています。また、リサーチも論文ではない形で読めるものがあってもいいかもしれません。どれも一人ではできないし労力のかかることなのですが、進めていきたいと思います。

もともと、社会の中で忘れられた幽霊のような、皆がなんとなく認識しているものの、無視されたり忘れられたりしている存在に注目して作品を制作していました。彫刻の調査に取り組む中でも、不意にそうした存在に出会うことがあり、そのときは、立ち止まってしまったり、それまで考えていたことが一気に別のことにスライドしてしまうような感じがあります。でも、立ち止まった時こそ新しいことを始めるチャンス。機会があれば、彫刻も含めた大きな物語を作品として描きたいと思っています。

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