「思い通りにならない応答の中にこそ、共存の余白や小さな喜びが現れる」──藤田クレア【TERRADA ART AWARD 2025ファイナリスト・インタビュー】
寺田倉庫G3-6Fで現在開催されている「TERRADA ART AWARD 2025」のファイナリスト展(2月1日まで)。倉庫空間内には、5人のファイナリストが手がけた新作が展示されている。展示されている作品に込められた想いや今後の展望について、真鍋大度賞を受賞した藤田クレアに話を聞いた。

──藤田さんの展示空間には、振り子装置に設置された植物や、監視下に置かれた多肉植物など、一見するとディストピア小説に登場するような管理的なシステムが広がっているように見えます。「共存の余白と喜びを見つけ出すきっかけ」という制作意図と、このシステマティックな印象との関係について教えていただけますか。
今回の作品は「他者とどう関わり続けられるか」という問いを軸に、支配でも放置でもない関係の在り方を探るものです。植物をモチーフに、時間と余白を持ったり、相手の反応を伺いながらバランスを見出すことの重要性を示す3作品を展示しています。その背景には、効率や最適化を優先する関係性ではなく、時間をかけて育まれる関係の可能性を問い直したいという思いがありました。
栄養にならない刺激に反応し続けるハエトリ草は人間の一方的なエゴを、止まることなく受粉を強いられるユリは選択や合意のない関係を、揺らぎの中で直立を保つ枝は強制と抵抗のせめぎ合いと、その均衡を表しています。「管理」や「制御」といった、一見ディストピア的に見える構造にあえてしたのは、私たちが無意識のうちに他者との関係の中で行っている行為を極端な形で提示し、鑑賞者に違和感や問いを投げかけると同時に、制作を通して私自身がそれらをより深く理解したいと考えたからです。
振り子装置《Auto-Pollination》や、監視下に置かれたハエトリ草《Reaction ~ver. Dionaea muscipula~》は、効率や最適化を求める社会の構造を反映しています。しかし、そのようなシステムの中でも、植物は完全には従順にならず、揺らぎや予期せぬ反応を見せ続けます。私はその「制御しきれなさ」や、思い通りにならない応答の中にこそ、共存の余白や小さな喜びが立ち現れる可能性があると考えています。管理的なシステムは対立するものではなく、むしろ余白を浮かび上がらせるための装置として作ったのかもしれません。
──展示プランを考案するにあたって、このアウォードだからこそ挑戦できたこと/したかったことはありますか?
制作に集中できる時間の確保と、他者との協働を前提とした作品づくりです。制作費など手厚いサポートがあったことで、制作期間中は仕事をせず、腰を据えて作品に向き合うことができました。また、自身では対応しきれない音源制作や認識システムの構築を信頼する友人に依頼し、専門性を取り入れることもできました。普段は自分の技術や時間の制約の中で完結させてしまう部分を、あえて他者に委ねることで、作品の構造や表現の精度が高まり、展示全体のクオリティーを一段引き上げることができたと感じています。
──ファイナリスト展では、倉庫という特殊な空間を使って展示を構築することが求められます。空間の使い方や作品の見せ方など、キュラトリアルな工夫を施した点があれば教えてください。
倉庫というホワイトキューブではない空間だからこそ、空間そのものの性質を取り込むことを意識しました。コンクリートの柱や剥き出しのダクト、軽鉄など、スケルトン状の構造は、作品に含まれる機械装置の構造と親和性が高く、装置としての存在感を強める要素になると考えました。あえて隠さず、空間と作品の骨格が呼応できていると思います。
また、鑑賞者の動線を重視し、作品の配置にもキュラトリアルな順序を持たせました。導入として《Reaction ~ver. Dionaea muscipula~》を配置し、「観察」という行為から鑑賞が始まるように設計しています。次に、管理や制御による「違和感」を感じる作品へと進み、最後に揺らぎの中で成り立つ「バランス」を示す作品へと至る構成にしました。この流れによって、鑑賞者が段階的に作品世界へ入り込み、空間と作品の関係性を身体的に体験できる展示を目指しました。

──審査員との対話のなかで、新たな発見や気づきにつながったアドバイスや会話があれば教えてください。
審査員の真鍋大度さんから、「暗黙知は曖昧さではなく、断定を急がず観察を続けることで育つ判断の精度だ」というコメントをいただきました。そこで初めて「暗黙知」という概念を知ったのですが、曖昧さを否定せず、関係や状況を見守り続ける態度そのものが知となるという考え方は、これまで感覚的に行ってきたことです。これまでの制作姿勢を言語化してくれる言葉との出会いは、今後の制作や思考の大きな指針になると思います。
──今回の受賞を機に将来的に挑戦してみたいことや、展望があれば教えてください。
本展で扱った「他者と関わり続けるための余白」というテーマを展示空間の中だけで完結させるのではなく、日々の営みの中にも実装するべく、「牧場づくり」を構想しています。
牧場は、馬との関わりを軸に、心身の不調や生きづらさを抱える方も含め、さまざまな人が安心して滞在できる場を目指します。ホースセラピーには、言葉以前のコミュニケーションや身体感覚に働きかける効果がありますが、そこにアートが得意とする「見る、聴く、触れる」の感覚、「作る」といった経験を重ね合わせる試みです。成果や効率を求める場ではなく、断定を急がず観察を続けることで少しずつ精度が育っていくプロセス自体が、人の回復や調整を支えると強く信じています。
馬と暮らす中では、日々変化する状況に応じて相手の反応を受け取り、折り合いを探し続けなければなりません。こうした積み重ねが、他者と共にいることの現実と喜びを、最も誠実に教えてくれるはずです。私はその学びを、牧場という場所と、そこで行われる体験として訪れる方にも感じてもらいたいと思っています。 まだ構想の初期段階で、関東近郊での土地探しや資金調達など、ゼロ地点からのスタートになります。それでも、時間をかけて関係を育てていく場として、必ず形にしたいプロジェクトです。



