MoMA元館長が愛したロスコ作品、初オークションへ──予想落札価格は120億円超
昨年9月に逝去したアグネス・ガンドのコレクションから、マーク・ロスコの大作を含む3点が5月のクリスティーズ・ニューヨークに出品される。MoMA元館長として知られる彼女が長年自宅に飾っていたロスコ作品が、市場に登場するのは初めてだ。
昨年9月に亡くなった、ニューヨーク近代美術館(MoMA)元館長、アグネス・ガンドのコレクションから3作品が、今年5月に開催されるクリスティーズ・ニューヨークのオークションに出品される。なかでも注目されるのは、マーク・ロスコの《No. 15 (Two Greens and Red Stripe)》(1964)だ。本作がオークションにかけられるのは今回が初めてで、ガンドは1967年にロスコのスタジオで直接購入した。予想落札価格は8000万ドル(約122億4300万円)とされている。
このほかに出品されるサイ・トゥオンブリーの《Untitled》(1961)には4000万〜6000万ドル(約61億〜92億円)、ジョセフ・コーネルの《Untitled (Medici Princess)》(1948)には300〜500万ドル(約4億6000万〜7億7000万円)の評価額がついている。
ガントの日常とともにあった名作たち
出品数は少ないが、質はきわめて高い。ロスコ、トゥオンブリー、コーネルはいずれも戦後美術を再構築した重要な作家であると同時に、MoMAの理事・館長を務めたガンドが深く関わった存在でもあった。これらは単なるコレクションの一部ではなく、彼女の日常とともにあった作品でもある。こうした明確な来歴は、コレクターの関心を集める要因となるだろう。
今回のオークションの目玉作品となるのは、ロスコの《No. 15 (Two Greens and Red Stripe)》だ。高さ2メートルを超える大型作品で、深緑とインディゴの画面を、下部を横切る赤橙色の帯が引き締めている。ロスコから直接購入後、個人所蔵されてきた点も特筆される。
1961年にローマで制作されたトゥオンブリーの作品は、渦巻き状の線や飛散する顔料による表現が成熟期に達した時期の重要作だ。同規模の代表作の多くはすでに主要美術館に収蔵されている。一方、コーネルの《Untitled (Medici Princess)》は対照的に繊細な魅力をもつ。1948年頃に制作されたこのシャドーボックスは、ルネサンス絵画の断片と収集物を組み合わせ、舞台装置のような世界を構築している。オークションに出品される3作品は、記念碑的な抽象画から精緻なアサンブラージュまで、コレクターとしてのガンドの幅広さを示している。
現在のオークション市場では、来歴の透明性が高く、市場に初めて登場する作品への関心が高まっている。今回の3作品はいずれもその条件を満たすものだ。売り手と買い手が慎重な姿勢を強めるなか、作品の美術史的意義や所有者との関係性といった物語性もまた、価格形成に影響を与える要素となる。
早くから女性や有色人種アーティストを支援
1938年にクリーブランドで生まれたガンドは、1960年代に収集を開始した。1967年にMoMA国際評議委員会に参加し、1976年から理事、1991〜2002年には館長を務めた。生涯で1000点以上を同館に寄贈し、さらに数百点を他機関へ寄贈している。1999年にはPS.1とMoMAの統合を後押しし、MoMA PS1の理事も死去まで務めた。
ガンドはただ単に先見の明があったコレクターではない。美術館がコレクションに多様性をもたせようとするはるか前からガンドは、女性や有色人種アーティストの作品を購入し、美術機関にも同じ姿勢をもつよう働きかけていた。ガンドは生前、会議室で過ごすのと同じくらいの時間をアーティストのスタジオで過ごしており、作品をコレクションすることは彼女にとって生活の一部でもあったと言える。
2017年にはロイ・リキテンスタインの《Masterpiece》(1962)を1億6500万ドル(現在の為替で約253億円)で売却し、そのうちの1億ドル(同約153億2400万円)を刑事司法改革に焦点を当てた基金「Art for Justice Fund」に寄付したことで、彼女の名は美術界を超えて知られるようになった。彼女の行動は、一枚の絵画がもつ力についてコレクターたちの認識を変えた。
今回の3作品は、社会的活動のために出品されるわけではなく、長年にわたり公的機関へ数多くの作品を寄贈してきた彼女のコレクション整理の意味合いが強い。5月のオークションに先立ち、ロスコとトゥオンブリーの作品は世界各地を巡回する予定だ。かつてパークアベニューの自宅に掛けられていた作品が、人々に公開されることになる。(翻訳:編集部)
from ARTnews



