ロシア館がヴェネチア・ビエンナーレ復帰へ。「文化はキャンセルされない」
ウクライナ侵攻を受け、過去2回にわたり参加を見送ったロシア館が、2026年ヴェネチア・ビエンナーレで再開される見通しとなった。ロシアの文化代表は、「西側によるロシア文化のキャンセルは失敗した」と語り、50人以上の若手芸術家や思想家が参加するプロジェクトを発表した。

ウクライナ侵攻を背景に、過去2回(2022年、2024年)のヴェネチア・ビエンナーレ参加を見送っていたロシアだが、今年は同国のナショナル・パビリオンで展示を行う計画であることを明らかにした。
ロシアのアーティストであるキリル・サヴチェンコフ(Kirill Savchenkov)とアレクサンドラ・スハレワ(Alexandra Sukhareva)、そして、リトアニア人キュレーターのライムンダス・マラシャウスカス(Raimundas Malašauskas)は、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻を受け、同年ビエンナーレのロシア館代表作家を降板すると発表。彼らはこの戦争を「政治的にも感情的にも耐えがたいもの」と呼び、紛争の最中に「芸術の居場所はない」と語った。
これを受け、ロシア館主催者はインスタグラムで「ロシア館は閉鎖されたままとなる」と告示していた。
2年後の2024年ヴェネチア・ビエンナーレでも、ロシアは公式参加を辞退。ジャルディーニにあるロシア館は、ボリビア多民族国が使用した。これについてロシア側は公式声明を発表せず、当時US版ARTnewsはパビリオン主催者および同国文化省にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
私たちは「常にそこにいた」

2026年版への参加に注目が集まる中、ロシアの国際文化交流担当代表で元文化相のミハイル・シュヴィドコイは3月3日、ロシアは2026年ビエンナーレに参加予定であり、他国同様、5月の芸術祭スタートと同時にロシア館を開館すると認めた。
シュヴィドコイはUS版ARTnewsのメール取材に対し、「ロシアはヴェネチア・ビエンナーレを離れたことは一度もありません」と述べ、こう続けた。
「私たちのパビリオンに何が展示されるかに関わらず、たとえばラテンアメリカの友人たちによる展覧会であれ、ビエンナーレ全体のための教育センターの設置であれ、パビリオンの物理的存在そのものが、ヴェネチアの文化空間におけるロシアの存在を意味するのです。つまり、私たちは常にそこにいたのですから、『復帰』ではないのです。現在の状況のなかで、創造的活動の新しい形を模索しているだけなのです」
シュヴィドコイによると、今回のロシア館にはロシアおよび他国から50人以上の若い音楽家、詩人、哲学者が参加する予定だという。
「これは、ロシア文化が孤立していないこと、そして、過去4年間にわたり西側の政治エリートが試みてきた『ロシア文化のキャンセル』が成功していないことを意味しています。私たちは今回、多言語的な文化のポリフォニーが響き合うプロジェクトを実現します。そうした文化は、決して西洋中心の文化秩序の周縁に位置付けられるものではないのです」
周縁文化の創造性を強調
シュヴィドコイによれば、展覧会タイトルは「The Tree is Rooted in the Sky(木は空に根を張る)」。その背景には、「政治は一時的な次元のなかに存在するが、文化は永遠の時間のなかで対話する」という考え方があると説明する。
「この新しいプロジェクトでは、永遠が一時的な問題に優越し、文化が政治に優越します。残念ながら、誰もがこれを理解できるわけではありません」
パビリオン内では、ロシア各地および他国からの音楽家が参加する「音楽フェスティバル」が開催される予定で、参加国には、アルゼンチン、ブラジル、マリ、メキシコなどが含まれるという。
また、ロシア館の主催者は、この企画は「周縁地域や周縁的な実践が持つ創造的潜在力」を示すことを目的としているとして、こう説明した。
「世界の文化的中心地から遠く離れた場所で生まれる伝統や音楽言語、実験的アプローチを紹介することで、まさにその距離ゆえに保存されてきた真に革新的な表現を示したいのです。このプロジェクトは、異なる文化の出会いを通じて対話と交流の場を創出することを目指しています。そこでは、地域に根ざした文化がグローバルなビジョンと絡まり合い、新しい芸術的視点を生み出し、国際的コミュニティの感覚を強化することになるでしょう」
シュヴィドコイはさらに、こう付け加えた。
「さまざまな制裁が科され、西側の公式機関は私たちとの協働を禁じられるかもしれません。しかし、ロシアから芸術的自己表現の権利を奪うことは誰にもできないのです」
「いかなる挑発も起こり得る」
また彼は、「ヴェネチア・ビエンナーレ全体の運営に影響を及ぼさない範囲で」と前置きした上で、ビエンナーレ運営側がロシア館を開館させるための妥協点を模索しているとの見方を示した。
その根拠として、彼は、アニメーション作家のコンスタンチン・ブロンジットが今年のアカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされているように、ヨーロッパやアメリカで開催される国際文化イベントにロシアのアーティストが参加していると述べた。
「だからこそ、ヴェネチア・ビエンナーレ運営側は、ロシア館が置かれている困難な状況の打開策を見つけようとしているのです。そしてそのために、このプロジェクトのキュレーターたちは、世界各地の同僚と協働しながらロシア美術を紹介しようとしているのです」
US版ARTnewsが、ロシア館再開についてビエンナーレ側にコメントを求めたところ、広報・メディアリレーションズ責任者であるクリスティアーナ・コスタンツォは、メールで次のように回答した。
「一般論としてヴェネツィア・ビエンナーレは、各国の参加を決定する立場にありません。参加するか否かは各国が選択します。参加国リストは3月4日に発表予定です」
ロシア館再開に対して抗議が起きる可能性について尋ねられると、シュヴィドコイは、「ロシアの文化関係者に対するいかなる挑発も起こり得ますが、常識が勝ることを願っています」と答え、こう続けた。
「これはロシア側だけでなく、参加するすべての国にとっての勝利になると確信しています。ロシアの文化関係者は、全面的に協力する意向です。現在だけでなく、未来においても」
ナショナル・パビリオンと地政学
地政学がヴェネチア・ビエンナーレのナショナル・パビリオンに影響を与えることはもはや珍しいことではないが、2024年版において軍事衝突の影響により参加しなかった国はロシアのみだった。
ガザ戦争が続くなかでも、イスラエルは2024年のパビリオン準備を進めることができた。ただし、プレビュー期間中に代表アーティストとキュレーターは、ガザ地区の紛争で「停戦と人質解放の合意が成立するまで」展覧会を開幕しないと発表。会期中、イスラエル館のドアが開くことはなかった。
今年もイスラエルは、彫刻家のベル・シミオン・ファイナルを代表作家にパビリオンを開館予定だ。しかし、ジャルディーニの常設パビリオンが現在改修工事中であることから、会場をアルセナーレの建物に移すことになっている。(翻訳:編集部)
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