ミケランジェロの真作か。聖堂の胸像と640万円の絵画に新たな帰属説

ローマの聖堂にある大理石の胸像と、コレクターが約640万円で購入した絵画が、ミケランジェロ(1475–1564)作の可能性を示す新たな研究報告が美術界を賑わせている。

ミケランジェロ作の可能性があるとされる胸像。 Photo: Filippo Monteforte / AFP via Getty Images.

ローマのサンタニェーゼ・フオーリ・レ・ムーラ聖堂に設置されていた大理石の胸像が、ミケランジェロ作の可能性があるとロイター通信が伝えている。

この胸像は「救世主キリスト」を表したもので、19世紀初頭まではミケランジェロ作とされていたが、その後は長らく無名の作者による作品と考えられてきた。

しかし、独立研究者のヴァレンティーナ・サレルノは、自身が10年以上にわたり公証人記録、財産目録、遺言書、書簡などの文書調査を行った結果、この彫刻をミケランジェロに再帰属できる可能性があると主張している。

ミケランジェロの「秘密の部屋」

88歳まで生きたミケランジェロは、晩年に自らの作品の多くを破棄したと長く考えられてきた。しかしサレルノの調査は、この見方に疑問を投げかけている。ある文書に記述された「施錠された部屋」はミケランジェロが晩年に設けたもので、素描や習作、さらには大理石彫刻などが保管されていた。そして、その部屋は複数の鍵がなければ開けられない仕組みだった。

彼が秘密の部屋を作った理由について、AFP通信の取材に対しサレルノは、「自身が嫌っていた甥に作品を相続させないための入念な計画の一部」であると同時に、「貧しく弱い立場にある非貴族の弟子たちに学び続けるための資料を残し、彼の芸術を未来の世代へ伝えることでもあった」と説明している。

調査によれば、この施錠された部屋は後に空になったが、ミケランジェロの作品は信頼する人々によって慎重に引き継がれていた。今回の胸像も、宗教施設や別の保管場所へと密かに移された1点と考えられている。こうした作品は美術市場に出ることなく、数百年にわたりひそやかに存在してきたのだ。

ただし、サレルノの研究論文はまだ査読を経ておらず、歴史家や専門家は現時点で公式な評価を示していない。現在、この胸像はイタリア国家憲兵隊カラビニエリの美術品保護部隊によって、警報装置付きで保護されている。

640万円の「ピエタの絵画」

ミケランジェロ作とされるピエタの絵画。Photo: X/La Tribune de l'Art

もう一つ、ミケランジェロ作と考えられる絵画がある。死んだキリストを抱く聖母マリアを描いた「ピエタ」の作品は、2020年6月にジェノヴァのワンネネス・アート・オークションに「ミケランジェロの様式に触発された」16〜17世紀の無名画家の作品として出品された。イタリア紙『La Repubblica』によると、予想落札価格は2000〜3000ユーロ(現在の為替で約36万6000円~54万9000円)だったが、パンデミックの影響もあり不落札に。その後、ベルギーのコレクターが3万5000ユーロ(同・約640万円)で購入し、2024年4月に手元に届けられた。

コレクターは、この作品に「M」の署名が2カ所あることに気付き、ベルギー王立文化遺産研究所(KIK-IRPA)に調査を依頼した。分析の結果、絵画の制作年代は1520年から1580年の間と推定され、ミケランジェロの生存期間と一致することが判明。また、顔料も同時代のものだった。例えば、深紅の顔料コチニール・レッドレイクは1540年頃にメキシコ産のものがメディチ家によって輸入されており、青色顔料のスマルトはシスティーナ礼拝堂のフレスコ画でミケランジェロが使用したものでもある。

さらに蛍光X線分析によって、キャンバス上の署名の一つがミケランジェロと関連する可能性が示された。KIK-IRPAのスティーヴン・サヴァーウィンスは、「署名は当時の絵の具層に描かれており、ひび割れが走っています。つまり、絵の具のひびが形成された後に描き加えられたものではないことは確実です」と説明する。また署名の近くにある謎めいた線の連なりも、ミケランジェロの書簡に登場する暗号的な数字「1-5-4」と関連する可能性があるという。

醜聞めいた描写が問題に?

一方、図像学的な観点からもミケランジェロとの関連が指摘されている。「ピエタ」という主題はミケランジェロが繰り返し扱ったテーマであり、代表的な作品としてサン・ピエトロ大聖堂の《ピエタ》(1498–99)や、ミラノのスフォルツァ城に残る晩年の未完作品《ロンダニーニのピエタ》(1552–64)が知られている。

研究チームは、この絵画の中にミケランジェロ特有のモチーフも確認している。例えばキリストの胴体は《夢》(1533頃)から引用されたものとされ、腕の形は《子供たちのバッカナール》(1533)の右下に描かれたギリシャ神話の精霊シレノスの姿に対応するという。

調査に参加した美術史家で王立美術館名誉館長のミシェル・ドラゲは、この作品を次のように評価している。

「ミケランジェロが追求した、イエスはあらゆる点で人間であるという本質に迫っています。《バンディーニのピエタ》(1547–55)と《ロンダニーニのピエタ》という2つの後期彫刻を結びつける、欠けていたピースと言えるでしょう。ですが、ミケランジェロの晩年に起こった反宗教改革の美術規制と道徳派の新教皇パウロ4世の登場により、肌の露出が多いこの絵画はスキャンダラスなものとみなされた可能性があります。その時にミケランジェロと親しかったアレサンドロ・ファルネーゼ枢機卿によって隠され、無名の絵画となったと考えられます」

これらの調査結果は、2025年に再発見されたミケランジェロの素描に続くものだ。その素描は2026年2月5日に行われたクリスティーズのオークションに出品され、2720万ドル(約42億2000万円)で落札。オークションで売却されたミケランジェロの素描として史上最高額を記録した

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