ローマ のサンタニェーゼ・フオーリ・レ・ムーラ聖堂に設置されていた大理石の胸像が、ミケランジェロ 作の可能性があるとロイター通信 が伝えている。
この胸像は「救世主キリスト」を表したもので、19世紀初頭まではミケランジェロ作とされていたが、その後は長らく無名の作者による作品と考えられてきた。
しかし、独立研究者のヴァレンティーナ・サレルノは、自身が10年以上にわたり公証人記録、財産目録、遺言書、書簡などの文書調査を行った結果、この彫刻をミケランジェロに再帰属できる可能性があると主張している。
ミケランジェロの「秘密の部屋」
88歳まで生きたミケランジェロは、晩年に自らの作品の多くを破棄したと長く考えられてきた。しかしサレルノの調査は、この見方に疑問を投げかけている。ある文書に記述された「施錠された部屋」はミケランジェロが晩年に設けたもので、素描や習作、さらには大理石彫刻などが保管されていた。そして、その部屋は複数の鍵がなければ開けられない仕組みだった。
彼が秘密の部屋を作った理由について、AFP通信 の取材に対しサレルノは、「自身が嫌っていた甥に作品を相続させないための入念な計画の一部」であると同時に、「貧しく弱い立場にある非貴族の弟子たちに学び続けるための資料を残し、彼の芸術を未来の世代へ伝えることでもあった」と説明している。
調査によれば、この施錠された部屋は後に空になったが、ミケランジェロの作品は信頼する人々によって慎重に引き継がれていた。今回の胸像も、宗教施設や別の保管場所へと密かに移された1点と考えられている。こうした作品は美術市場に出ることなく、数百年にわたりひそやかに存在してきたのだ。
ただし、サレルノの研究論文はまだ査読を経ておらず、歴史家や専門家は現時点で公式な評価を示していない。現在、この胸像はイタリア国家憲兵隊カラビニエリの美術品保護部隊によって、警報装置付きで保護されている。
640万円の「ピエタの絵画」
ミケランジェロ作とされるピエタの絵画。Photo: X/La Tribune de l'Art
もう一つ、ミケランジェロ作と考えられる絵画がある。死んだキリストを抱く聖母マリアを描いた「ピエタ」の作品は、2020年6月にジェノヴァのワンネネス・アート・オークションに「ミケランジェロの様式に触発された」16〜17世紀の無名画家の作品として出品された。イタリア紙『La Repubblica 』によると、予想落札価格は2000〜3000ユーロ(現在の為替で約36万6000円~54万9000円)だったが、パンデミックの影響もあり不落札に。その後、ベルギー のコレクターが3万5000ユーロ(同・約640万円)で購入し、2024年4月に手元に届けられた。
コレクターは、この作品に「M」の署名が2カ所あることに気付き、ベルギー王立文化遺産研究所(KIK-IRPA)に調査を依頼した。分析の結果、絵画の制作年代は1520年から1580年の間と推定され、ミケランジェロの生存期間と一致することが判明。また、顔料も同時代のものだった。例えば、深紅の顔料コチニール・レッドレイクは1540年頃にメキシコ産のものがメディチ家によって輸入されており、青色顔料のスマルトはシスティーナ礼拝堂 のフレスコ画でミケランジェロが使用したものでもある。
さらに蛍光X線分析によって、キャンバス上の署名の一つがミケランジェロと関連する可能性が示された。KIK-IRPAのスティーヴン・サヴァーウィンスは、「署名は当時の絵の具層に描かれており、ひび割れが走っています。つまり、絵の具のひびが形成された後に描き加えられたものではないことは確実です」と説明する。また署名の近くにある謎めいた線の連なりも、ミケランジェロの書簡に登場する暗号的な数字「1-5-4」と関連する可能性があるという。
醜聞めいた描写が問題に?
一方、図像学的な観点からもミケランジェロとの関連が指摘されている。「ピエタ」という主題はミケランジェロが繰り返し扱ったテーマであり、代表的な作品としてサン・ピエトロ大聖堂の《ピエタ》(1498–99)や、ミラノのスフォルツァ城に残る晩年の未完作品《ロンダニーニのピエタ》(1552–64)が知られている。
研究チームは、この絵画の中にミケランジェロ特有のモチーフも確認している。例えばキリストの胴体は《夢》(1533頃)から引用されたものとされ、腕の形は《子供たちのバッカナール》(1533)の右下に描かれたギリシャ神話の精霊シレノスの姿に対応するという。
調査に参加した美術史家で王立美術館名誉館長のミシェル・ドラゲは、この作品を次のように評価している。
「ミケランジェロが追求した、イエスはあらゆる点で人間であるという本質に迫っています。《バンディーニのピエタ》(1547–55)と《ロンダニーニのピエタ》という2つの後期彫刻を結びつける、欠けていたピースと言えるでしょう。ですが、ミケランジェロの晩年に起こった反宗教改革の美術規制と道徳派の新教皇パウロ4世の登場により、肌の露出が多いこの絵画はスキャンダラスなものとみなされた可能性があります。その時にミケランジェロと親しかったアレサンドロ・ファルネーゼ枢機卿によって隠され、無名の絵画となったと考えられます」
これらの調査結果は、2025年に再発見されたミケランジェロの素描に続くものだ。その素描は2026年2月5日に行われたクリスティーズのオークションに出品され、2720万ドル(約42億2000万円)で落札。オークションで売却されたミケランジェロの素描として史上最高額を記録した 。
ウフィツィ美術館で見るべき名作23選──古代ローマ・ルネサンスの至宝やマニエリスムの代表作など
ボッティチェリの《ヴィーナスの誕生》など、誰もが何かで一度は目にしたことがある有名絵画をはじめ、圧倒的な質と量の所蔵品を誇るウフィツィ美術館。イタリアの芸術・文化の豊かさを肌で感じられるこの美術館で見逃せない名作23点を紹介する。
1. ジョット《オグニサンティの聖母》 (1300-05年)Photo: Uffizi Gallery
ルネサンス の先駆けとも言えるこの作品は、西洋美術が新たな段階へと進むきっかけを作り、1世紀以上にわたってフィレンツェの画家たちに影響を与え続けた。【作品の詳細はこちら 】
2. シモーネ・マルティーニ《受胎告知》(1333年)Photo: Uffizi Gallery
上部に華麗な彫刻が施され、金箔とテンペラで描かれたこの大作は、ルネサンスへの移行期における傑作の1つ。【作品の詳細はこちら 】
3. パオロ・ウッチェッロ《サン・ロマーノの戦い:ニッコロ・マウルジ・ダ・トレンティーノは、ベルナルディーノ・デラ・カルダを倒した》(1435-40年頃)Photo: Uffizi Gallery
1432年のサン・ロマーノ(ピサ)の戦いを描いた3連作の板絵の1枚。【作品の詳細はこちら 】
4. ピエロ・デッラ・フランチェスカ《ウルビーノ公夫妻の肖像》(1473-75年)Photo: Uffizi Gallery
ルネサンス期の最も有名な肖像画の1つであり、傭兵隊長として活躍したフェデリーコ・ダ・モンテフェルトロ公爵と、出産後に26歳で命を落としたその妻バッティスタ・スフォルツァを描いた作品。【作品の詳細はこちら 】
5. ピエロ・デル・ポッライオーロ、サンドロ・ボッティチェリ 《7つの美徳》(1469-72年)Photo: Uffizi Gallery
仮想の最高裁判所のようにも見える威風堂々たるこの連作絵画には、7つの美徳を擬人化した女性像が描かれている。【作品の詳細はこちら 】
6. サンドロ・ボッティチェリ《ヴィーナスの誕生》(1485年)Photo: Uffizi Gallery
さまざまな雑貨に、この作品が印刷されているのを見たことがある人は多いに違いない。彼女はリーボックのスニーカーの売り上げに貢献し、著名アーティストのインスピレーションの源泉になってきた。【作品の詳細はこちら 】
7. イノシシ(紀元前2-1世紀)Photo: Uffizi Gallery
このリアルなイノシシは、無名のローマ人彫刻家による大理石の彫刻で、ヘレニズム時代のブロンズ像を参考にしたものと考えられている。【作品の詳細はこちら 】
8. バッチョ・バンディネッリ《ラオコーン》(1520-25年)Photo: Uffizi Gallery
叙事詩『アエネーイス』の一場面を表現した古代ギリシャの 彫刻は、1506年にローマ のエスクイリーノの丘で発見されて以来、数多くの芸術家たちに影響を与えている。【作品の詳細はこちら 】
9. ピエロ・ディ・コジモ《アンドロメダを救うペルセウス》(1510-15年)Photo: Uffizi Gallery
翼のあるサンダルを履いたペルセウスが空を飛び、尻尾の先がくるくる巻いた巨大な海の怪獣がアンドロメダを襲おうとする場面を描いている。【作品の詳細はこちら 】
10. レオナルド・ダ・ヴィンチ 《東方三博士の礼拝》(1482年)Photo: Uffizi Gallery
1481年にダ・ヴィンチは、フィレンツェ近郊のサン・ドナート教会に飾るための絵を、アウグスチノ会の修道士たちから依頼された。【作品の詳細はこちら 】
11. ラファエロ 《ヒワの聖母》(1506年2月以前)Photo: Uffizi Gallery
ラファエロの《ヒワの聖母》は、ミケランジェロの《聖家族》の近くに展示されている。2人の画家がともにフィレンツェに住んでいた時期に制作されたことを考えると、納得できる組み合わせだ。【作品の詳細はこちら 】
12. ミケランジェロ 《聖家族(別名:トンド・ドーニ)》(1505-06年)Photo: Uffizi Gallery
ミケランジェロが完成させた板絵の中で唯一現存するトンド(家庭に飾る目的で描かれた円形宗教画)。【作品の詳細はこちら 】
13. ヘルマプロディートス(紀元2世紀)Photo: Uffizi Gallery
元前2世紀の古代ギリシャのブロンズ像をもとにしてローマ時代に作られたこの作品は、ギリシャのパロス島で採掘された大理石から彫られている。【作品の詳細はこちら 】
14. エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン《自画像》(1790年)Photo: Uffizi Gallery
画家ルイ・ヴィジェの娘で、有名な画商ジャン=バティスト=ピエール・ルブランの妻だったエリザベートは、肖像画で成功を収めた作家だ。【作品の詳細はこちら 】
15. パルミジャニーノ《長い首の聖母》(1534-40年)Photo: Uffizi Gallery
聖母の長い首と指、そして乳首とへそが見える薄布の衣服が描かれたこの絵には、典型的な聖母子像にはない官能性がある。【作品の詳細はこちら 】
16. ポントルモ《エマオの晩餐》(1525年)Photo: Uffizi Gallery
ポントルモの《エマオの晩餐》は、復活したイエスが旅人に扮し、2人の弟子とともに食卓にいる様子を描いている。【作品の詳細はこちら 】
17. ロッソ・フィオレンティーノ《エテロの娘たちを守るモーセ》(1523-27年)Photo: Uffizi Gallery
筋骨隆々の男たちが、カンバスから飛び出そうな勢いで前面に押し出されている混乱したシーンは、聖書の物語の一場面で、そこに登場するモーセが活劇のヒーローのように描かれている。【作品の詳細はこちら 】
18. ティツィアーノ 《ウルビーノのヴィーナス》(1538年)Photo: Uffizi Gallery
16世紀のヴェネツィアでは横たわる裸婦像が大流行した。【作品の詳細はこちら 】
19. カラヴァッジョ 《バッカス》(1598年)Photo: Uffizi Gallery
カラヴァッジョは、たびたび暴力沙汰を起こしただけでなく、(殺人を含む)より重大な犯罪に関わったことでも知られる。【作品の詳細はこちら 】
20. ヘリット・ファン・ホントホルスト《Supper Party With Lute Player》(1619年頃)Photo: Uffizi Gallery
オランダ のカラヴァッジスティ(カラヴァッジョの追従者、カラヴァッジョ派)のリーダーだったホントホルストは、キアロスクーロ(陰影法)を極限まで追求した画家だ。【作品の詳細はこちら 】
21. アルテミジア・ジェンティレスキ《ホロフェルネスの首を斬るユディト》(1620年頃)Photo: Uffizi Gallery
この有名な物語は多くの画家が題材として取り上げているが、その中でも最も真に迫ったものの1つがこの作品だ。【作品の詳細はこちら 】
22. ユストゥス・スステルマンス《Madonna “Domenica delle Cascine,” la Cecca di Pratolino, e Pietro Moro》(1634年)Photo: Uffizi Gallery
人物同士がやり取りをしている瞬間をカメラで捉えたかのように描写されている。【作品の詳細はこちら 】
23. レンブラント 《Portrait of an Old Man (The Old Rabbi)》(1665年)Photo: Uffizi Gallery
無数のキリスト教 美術が並ぶ中、ユダヤ教 の聖職者であるラビを描いた肖像画。【作品の詳細はこちら 】
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