ジェフ・クーンズの木彫クマに12億円。ミッドシーズンセール史上最高額を樹立
2月下旬、ニューヨークで開催されたオークションで、高さ120cmほどの2体のクマがにっこり微笑む木彫作品が760万ドル(約12億円)で落札された。この結果は、大手オークションハウスのミッドシーズンセールにおける価格帯の上昇を示す兆しともいえそうだ。

2月26日、ニューヨークのクリスティーズで開かれたオークションに、ジェフ・クーンズの彫刻《Winter Bears(ウィンター・ベアーズ)》(1988)が出品された。結果は予想落札価格の380万から500万ドル(約6億〜8億円)を大きく上回る760万ドル(最近の為替レートで約12億円、以下同)で、この時期のオークションの史上最高額を樹立。普通なら主要なイブニングセールでしか見られない数字だ。
このクマの彫刻は、1988年の伝説的なギャラリー個展「Banality(バナリティ)」のためにロココ美術の手法を用いて制作されたもので、エディション3点とアーティストプルーフ1点が存在する。今回バーバラ・ヤコブソン・コレクションから出品され、落札されたのはそのうちのエディション#1で、エディション#2はテートが所蔵している。#3とアーティストプルーフは、2011年にクリスティーズで470万ドル(約7億4000万円)で落札され、個人蔵となっている。
年2回行われるミッドシーズン・オークションは、近年徐々に売り上げを伸ばしている。今回クリスティーズの売上総額は3400万ドル(約53億円)で、229ロットが落札された。出品取り下げは3ロットで、全体の約8%にあたる42ロットは不落札となっている。2025年9月には史上最高となる293ロット/売上総額3500万ドル(約55億円)を記録し、2022~23年の売上総額1500万~1700万ドル(約23億〜26億円)から大幅な伸びとなった。
クリスティーズのスペシャリスト、レイチェル・ンはUS版ARTnewsの取材に、「より多くの人々が、本格的な美術品の獲得につながる場として、わが社のミッドシーズン・オークションに注目するようになっています」と答えている。
クリスティーズとサザビーズ、異なる戦略
売上高と取引数両方の増加を追求するクリスティーズに対し、サザビーズは異なる戦略を取っている。101ロットで行われた2025年3月のコンテンポラリー・キュレーテッド・セールの後、サザビーズのスペシャリスト、ヘイリー・ストッダードは、「高価格帯の作品を数を絞って売る。ミッドシーズン・オークションでは、この方向で行きたい」と語っていた。
実際、同社はその方針を実行に移している。昨年9月の同セールでは出品点数をやや増やし、結果は132ロット/売上総額3270万ドル(約51億円)だったが、ロット数は2024年3月の276の半分以下だ。今年2月25日に新社屋であるマディソン・アベニューのブロイヤービルで開催された初のコンテンポラリー・キュレーテッド・セールでは、113ロットが落札され、総額1940万ドル(約30億円)を売り上げた(出品取り下げ7点、不落札21点、セルスルー率81%)。
同セールで最高値を付けた作品は、アルマ・トーマスの絵画《Snoopy Sees Sunrise on Earth(スヌーピーが地球の日の出を見る)》(1970)だ。48年間市場に出たことのなかったこの作品は380万ドル(約6億円)で落札され、トーマスの作品としては史上2番目の高値を記録している。
この日2番目の高額落札は、ヘレン・フランケンサーラーの《Mauve Hill(モーヴ色の丘)》で、金額は99万8400ドル(約1億5700万円)。また、2人のアーティストが新記録を樹立し、ミヨコ・イトウの絵画《Nagisa(ナギサ)》(1977)は予想最高落札額の2倍に当たる64万ドル(約1億円)、パット・パスロフの《Fanfare(ファンファーレ)》(1973-74)は53万7600ドル(約8400万円)で決着している。
このほかサザビーズで予想額を大幅に上回った作品には、ゲルハルト・リヒターのフォト・ペインティング作品《無題(5.2.89)》がある。落札額は40万9600ドル(約6400万円)で、予想最高額の実に8倍だった。クリスティーズでは、メアリー・アボットの絵画が、予想額の3万から5万ドル(約470万〜780万円)をはるかに超える20万9000ドル(約3300万円)で落札された。
予想落札価格の20分の1程度に終わった作品も
一方、注視すべきなのは、サザビーズでもクリスティーズでもリザーブ・プライス(最低売却価格)を設定せずに出品された作品の落札額が非常に低かったことだ。クリスティーズでは、ダグ・エイケンの2011年のライトボックス作品《here comes the night(ヒア・カムズ・ザ・ナイト)》(エディション4、アーティストプルーフ2のうちエディション#1)が、2万5000ドルから3万5000ドル(約390万〜550万円)の事前予想に対し、わずか889ドル(約14万円)という結果に終わっている。
サザビーズでも、落札額が最低だった作品は価値が決定されるメカニズムの複雑さを示唆している。オークション当日、評論家のグレッグ・アレンは自らのウェブサイトでレイチェル・ハリソンの《Mustard and Ketchup(マスタードとケチャップ)》(2008)を絶賛し、サザビーズのプレビュー展示以前には1回しか一般の目に触れたことがないと書いていた(*1)。この作品には2万から3万ドル(約310万〜470万円)の予想落札額が付けられていたが、落札額は1152ドル(約18万円)止まりだった。
*1 ハリソンの所属ギャラリーであるグリーン・ナフタリは展覧会に出さずにこの絵を販売したが、フランスのディジョンにあるル・コンソーシアムで2008年に開催されたハリソンの回顧展「Lay of the Land(情勢)」で展示されたことがある。
実は、アンジェラ・ハイシュの版画は2495ドル(約39万円)で入手可能で、売り上げの一部は寄付される。しかし、2月26日のクリスティーズのオークションでは、予想落札額600から800ドル(約9万4000〜12万6000円)のところ、落札額は127ドル(約2万円)に終わった。
フィリップスでは意外な出品作も
ミッドシーズン・オークションの最後を飾ったフィリップスのモダン&コンテンポラリーアート・セールでは、149ロットが出品され、850万ドル(約13億円)を売り上げた(出品取り下げ3点、不落札15点、セルスルー率はロットベースで91%、金額ベースで94%)。
最高落札額となったのは、インクドローイングに金箔と銀箔を施したアンディ・ウォーホルの《Molly(モリー)》(1956)。予想落札価格10万から15万ドル(約1570万〜2360万円)のところ、41万2800ドル(約6500万円)で落札されている。ちなみに、クリスティーズで6万5000ドル(約1000万円)で落札されたウォーホル作品は、カイロプラクティックの施術料の支払い代わりに渡されたものだった。
フィリップスでも複数の好結果が出ており、アリス・ベイバーの《Ladder over and under(はしごの上と下)》(1972)が予想の6倍を超える38万7000ドル(約6100万円)で落札され、ベイバーの作品としては史上2番目の高値を記録した。
もう1つのサプライズは、「モダン&コンテンポラリー」と銘打たれたセールには異例の古い作品が登場したことだ。その作品は、テキサス州のコレクター、キャロリン・ファーブが所蔵していたサラ・ベルナールの絵画《La Dormeuse(眠る女)》(1878)で、予想落札価格5000から7000ドル(約79万〜110万円)のところ、落札額はそれをはるかに超える13万5450ドル(約2100万円)に達している。(翻訳:清水玲奈)
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