ホックニー「抽象絵画が多すぎる」と異議──ロンドン新作展で具象の可能性を再提示
イギリスの現代美術家デイヴィッド・ホックニーが、タイムズ紙のインタビューで現代美術における抽象偏重に異議を唱えた。今月始まったサーペンタイン・ギャラリーでの個展でも、具象絵画の意味をあらためて提示している。
現在88歳のイギリスを代表する現代美術家、デイヴィッド・ホックニーが、このほど行われたインタビューで、美術界には「抽象絵画があまりにも多すぎる」と率直に語った。
現在、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリーでホックニーの個展「A Year in Normandie and Some Other Thoughts About Painting」が開催中だ(8月23日まで)。ホックニーは感染症で体調を崩したため会場を訪れることはできなかったが、ロンドン・ケンジントンのスタジオで英紙タイムズのインタビューに応じ、本展について語っている。
ホックニーはその中で、「写真は絵画の代わりには決してなりません。ですが、絵画は何か具体的な対象を描いたものでなければならないのです」と述べた。
本展では、ノルマンディの自宅の庭を四季にわたりiPadで描いた《A Year in Normandie(ノルマンディでの1年)》が、約90メートルの壮大なフリーズ状に展開されている。ホックニーの作品は、観察と描写を重視する点に特徴があり、それは現代美術を席巻する抽象表現への明確な対抗でもある。
この展示には、連作の風景画に加え、市松模様のテーブルクロスを逆遠近法で描いた静物画や肖像画も含まれる。これらの作品にはマーク・ロスコやゲルハルト・リヒターらの抽象絵画を想起させる要素が見られるが、あくまで具象表現に根ざしている。さらにホックニーは、絵の具が乾かないうちに点描的に重ねていく新たな技法にも取り組んでいる。これはiPadでの制作経験から着想を得たものだ。「この筆触は少し違う」と説明するホックニーは、主題を手放すことなく新たな表現を追求し続けている。
また、ホックニーは長年パブロ・ピカソ(1881-1973)を敬愛しており、とりわけ晩年に具象的表現へと向かった点に強い共感を寄せている。そして、自身とピカソの歩みを重ね合わせ、抽象が美術界の主流となった時代においても、両者は野心的な具象作品を作り続けていたと指摘する。
ホックニーは当時について、「1984年に私が講演した頃でさえ、そんな話(具象の価値や重要性)に耳を傾ける人はいませんでした。抽象が美術界を支配していたからです」と振り返る。
今回の個展で披露されている《A Year in Normandie》は、ロンドンの大英博物館で今年9月に大規模展示が予定されている《バイユーのタペストリー》への応答としても位置づけられる。過去3年間だけでも20回以上、バイユー・タペストリー美術館を訪れているほどのファンであるホックニーは、全長70メートルを超える極めて脆弱なタペストリーをフランスからイギリスへ運ぶ計画について、「狂気じみている」と批判している。
ホックニーの《A Year in Normandie》と《バイユーのタペストリー》の関係は、単なるスケールの類似にとどまらない。戦争と征服を描く《バイユーのタペストリー》に対し、《A Year in Normandie》は自然や色彩、そして穏やかな日常のリズムを称えるものであり、意図的に人間の争いを排している。彼はタイムズに、「私の絵には戦争も死もありません」と語り、「忘れてはなりません。春を取り消すことは誰にもできないのです」と付け加えた。(翻訳:編集部)
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