ベンヤミン所有のパウル・クレー「天使の絵」、中東情勢で足止め──「進歩という名の嵐」の中で
緊迫した中東情勢が続く中、アメリカ初公開が予定されていたパウル・クレーの絵画が輸送延期状態になっている。天使が描かれたこの作品は、20世紀ドイツの著名な哲学者ヴァルター・ベンヤミンが所有し、その著作の中で取り上げた重要性の高いものとして知られる。

哲学者で文化理論家のヴァルター・ベンヤミンが所有していたことで有名なパウル・クレーの絵画が、アメリカ・イスラエルとイランの間で行われている戦争の影響により、イスラエルで足止めされている。この作品は先週、アメリカで初公開されるはずだった。
オンラインメディアのハイパーアレジックが取り上げ、その後ニューヨーク・タイムズでも報じられた通り、クレーの《Angelus Novus(新しい天使)》(1920)は、3月20日にニューヨークのジューイッシュ・ミュージアムで開幕した企画展、「Paul Klee: Other Possible Worlds(パウル・クレー:他の可能世界)」(「可能世界」は哲学・論理学の用語)に出展が予定されていた。
現在は公認の複製画が展示され、横の説明文には「国際輸送に影響を及ぼしている情勢により、オリジナル作品の搬入に一時的な遅れが出ている」と書かれている。
ジューイッシュ・ミュージアムのジェームス・S・スナイダー館長はニューヨーク・タイムズの取材に対し、エルサレムにあるイスラエル博物館からの貸し出しは「依然として有効」であり、「適切な時期が来れば」展示は実現すると回答。「慎重かつ忍耐強く、環境が整うまで待たなければなりません」と現状を語った(企画展は7月26日まで)。
展覧会企画の一環として、ジューイッシュ・ミュージアムは公認の複製版を作成していた。それは、油彩転写と水彩を用いたオリジナル作品が「極めて光に弱い」からで、展示開始から1カ月後に、オリジナルを複製画と入れ替える予定だった。しかし現在の地政学的状況で、代役が初演の主演を務めざるを得なくなったというわけだ。一方、貸し出す側の状況についてニューヨーク・タイムズは、「イスラエル博物館の広報担当者は、美術品の輸送についてはコメントしないと回答した」と報じている。
《Angelus Novus》は、1921年にクレーの友人であるベンヤミンが購入した。最晩年の1940年に執筆された論文「歴史哲学テーゼ」の中でベンヤミンは、この絵に描かれた天使像に関する考察をこう書いている。
「クレーに《Angelus Novus》という絵画がある。そこに描かれた天使は、自らが見つめる何かから、今まさに遠ざかろうとしているように見える。彼は目を見開き、口を開け、翼を広げている。歴史の天使はこのような姿であるに違いない。その顔は過去に向けられている。私たちには出来事の連鎖に見えるものを、彼はただ1つのカタストロフ(破局)として見る。カタストロフは絶え間なく瓦礫の上に瓦礫を積み上げ、彼の足元に投げつけてくる」
そう書いた少し後で、ベンヤミンはそのカタストロフを楽園から吹き付けてくる嵐に例え、次のように述べている。
「嵐は彼を、抗うことのできない勢いで、彼が背を向けている未来へと突き進ませる。その一方で、彼の目の前の瓦礫の山は天を突くほどに高くなっていく。我われが『進歩』と呼ぶもの、それはまさにこの嵐なのだ」(翻訳:石井佳子)
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