ポンペイは「ウッディーな香り」に包まれていた? 最新研究が明かす古代都市の祭祀と交易

スイスの研究チームが、ポンペイおよび近郊ボスコレアーレの住宅で祭祀に用いられた2点の香炉に残る成分を分析し、その成果が学術誌に発表された。この研究により、ポンペイの人々がどのような香りに包まれていたのかが明らかになりつつある。

ポンペイ遺跡。Photo: Getty Images

スイス・チューリッヒ大学考古学部のヨハネス・エバー率いる研究チームが、ポンペイとその近郊のボスコレアーレの住宅で祭祀に用いられた2点の香炉に残る成分を分析し、その成果が学術誌「Antiquity」に発表された。

Greekreporterによると、調査対象は、ポンペイ市内の建物跡から出土した香杯形の香炉1点と、ボスコレアーレの農村ヴィラの家庭祭壇内から出土した装飾付き香炉1点。前者は1世紀中頃に住宅から宿屋へ転用された建物に由来する。後者の香炉には複数の女性像で装飾されており、死者を追悼する儀礼に用いられていたことを示している。

研究チームは、両香炉の縁と中央から最小限の侵襲で試料を採取し、ふるい分け、遠心分離、溶媒処理などを経て分離・分析を行った。

その結果、ポンペイの香炉に含まれていた「小石状で炭質に富む」残滓からは、オークや月桂樹などの木本植物由来の炭化物が検出された。こうした植物は、ローマ神話においてオークがユピテル、月桂樹がアポロと関連づけられている。

一方、ボスコレアーレの香炉に含まれていた「細かい灰状の」残滓からも同様の植物が確認されたほか、フランキンセンスに関連するボスウェリア属の樹脂とみられる成分と、ブドウ由来の物質が検出された。これらは乳香や酢、またはワインのようなブドウ製品が供えられていた可能性を示している。ローマでは、こうした供物を捧げる「予備儀礼(praefatio)」が広く行われており、儀礼の主宰者はトガ(一枚布の上着)を着用して神々に祈りを捧げるのが通例だった。

ローマの儀礼における香の供物については古くから文献に記録されていたが、ポンペイにおいてそれを裏付ける物的証拠はこれまで確認されていなかった。本研究はその空白を埋めるものだ。

また本研究は、家庭内の宗教儀礼において、地元産の植物と輸入品が併用されていた可能性を示している。植物残渣の多くは地元で栽培されていたと考えられる一方、ボスウェリア属は東アフリカからアラビア半島南部、インドにかけて分布する。本研究で検出された樹脂はインド起源である可能性があるという。エバーはこの結果について、「ポンペイが当時広範な交易ネットワークを築いていた証拠です」と述べている。

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