ポンペイ「青の間」顔料代は、ローマ兵年収の最大9割!? 最新調査結果が発表
- TEXT BY ARTNEWS JAPAN
2024年にポンペイで発見された「青の間」の最新調査により、壁を覆う顔料の使用量と価値が明らかになった。その費用はローマ兵の年収の最大約9割に相当するとされ、当時の富裕層による豪奢な装飾の実態が浮かび上がった。

2024年夏、イタリアのポンペイ考古学公園で部屋全体が青く塗られた「青の間」が発見された。ポンペイ考古学公園とマサチューセッツ工科大学(MIT)はこの部屋に塗られた顔料を調査し、その結果を3月3日に学術誌Heritage Scienceに発表した。
「青の間」は、ポンペイ中心部にあるレジオIXと呼ばれる区画の調査中に、ポンペイでも屈指の富裕な一家が所有していた二階建て住宅の一部として見つかった。Hyperallergicによると、部屋は青い顔料で覆われ、女神やスフィンクス、有翼のグリフィンなどが精緻に描かれていた。この不思議な部屋について研究者たちは、家人が儀礼を行ったり神聖な品を保管したりする聖所であった可能性が高いと考えている。部屋の壁際には15個の大型アンフォラが並び、建材の山が残されていたことから、79年のヴェスヴィオ火山噴火時には改修工事中であったことがうかがえる。

ポンペイ考古学公園とマサチューセッツ工科大学(MIT)は、部屋に使用された顔料の種類を調査した。その結果、青はエジプシャンブルー、赤・緑・黄・白は天然由来のものと判明した。
エジプシャンブルーは紀元前3300〜3200年頃の古代エジプトで誕生した、人類史上初の合成顔料とされる。砂、炭酸カルシウム、銅を含む鉱物を800度以上で焼成することで生まれるこの顔料は、非常に高価なラピスラズリの代替品として数千年にわたって地中海世界および西アジアで広く用いられた。1世紀頃のローマ帝国における主要な生産地はポンペイから約30キロ離れた商業港プテオリだった。
彼らは、「青の間」におけるエジプシャンブルーの使用量と当時の価値も推定した。可視光励起発光法および分光分析・電子顕微鏡分析を組み合わせて、室内の青色分布を解析した結果、この部屋の壁面を覆うためには約2.7〜4.9キログラムの顔料が必要と分かった。
そして、噴火時に近隣スタビアエで命を落とした博物学者プリニウスの価格記述に基づいて価値を計算したところ、この量の顔料は93〜168デナリウスに相当すると見積もられた。これは当時のパン1000個以上、ローマの歩兵の年収の50〜90パーセントに相当する。
顔料も高額だが、労働コストがそれに加わる。壁画制作において労働は費用の大部分を占めていた。エディンバラ大学のフランチェスカ・ボローニャによる先行研究では、奴隷や解放奴隷が小さな塊で届く顔料を粉砕するのに要する時間が推定されており、その計算を「青の間」に適用すると、31〜56時間の労働が必要であったとされている。
今回の調査結果は、ポンペイの富裕層が高価なエジプシャンブルーを用いて自邸を装飾し、その財力を誇示していた可能性を示すとともに、色彩の使用実態から当時のポンペイ市民の生活や価値観を読み解く重要な手がかりを提供している。

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「ヘレとフリクソスの家」の食堂。Photo: Facebook/Pompeii Archaeological Park

「ヘレとフリクソスの家」の食堂。Photo: Facebook/Pompeii Archaeological Park

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Photo: Facebook/Pompeii - Parco Archeologico

Photo: Facebook/Pompeii - Parco Archeologico
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