画像解析技術でポンペイの「未記録の落書き」79点を新発見──愛の告白や戦闘シーンも

高度な画像技術を用いたフランスとカナダの研究チームの調査により、ポンペイの壁から79点の落書きが新たに発見された。グラディエーターの戦闘場面や愛の告白が、2000年前の人々の暮らしをいまに伝えている。

調査が行われた、全長約27メートルの回廊。Photo: Facebook/@Pompeii - Parco Archeologico

パリのソルボンヌ大学とカナダ・モントリオールのケベック大学の研究者らが、ポンペイの壁から79点の落書きを新たに発見した。研究成果は、ポンペイの電子ジャーナルに論文として発表されている

アートネットが伝えるところによると、調査が行われたのは、ポンペイの劇場群と街の繁華街スタビアナ通りを結ぶ、全長約27メートルの回廊の漆喰壁だ。この場所には、かつての住民が残した多数の落書きが存在することが知られている。

研究者らは、反射率変換イメージング(RTI)と呼ばれる計算写真法を用いて壁面を調査した。RTIは、複数の角度から照明を当てて対象物を撮影する手法で、数世紀にわたる風化によって肉眼では見えなくなった微細な傷や刻みを可視化できる。調査の結果、壁からは約300の碑文や図像が確認され、そのうち79点はこれまで記録されていなかった新発見だった。

ポンペイの回廊から読み取られたグラディエーターの図像。Photo: Facebook/@Pompeii - Parco Archeologico
漆喰の壁に書かれた落書き。Photo: Facebook/@Pompeii - Parco Archeologico
反射率変換イメージング(RTI)を用いた調査の様子。Photo: Facebook/@Pompeii - Parco Archeologico

今回新たに確認された落書きの中で特に注目されるのが、劇場の観客席へと続く最初の階段付近、回廊南側の壁に刻まれていたグラディエーターの戦いを描いた図像だ。漆喰への刻みは非常に浅く、画像も部分的にしか残っていないが、RTIによって、鎧をまとった2人の人物が互いに対峙し、戦う様子がはっきりと浮かび上がった。

ポンペイの落書きにおいて、グラディエーターは決して珍しい題材ではない。しかし論文では、この図像について「生き生きとした表現力、しなやかな線、動きの表現における確かな技量」に加え、「向かい合う両足と衝突する二つの盾を中心に、画面全体が回転しているかのような構図の見事さ」を高く評価している。さらに研究者らは、この絵が実際の闘技のスケッチではなく想像に基づいて描かれた可能性を示唆し、それによって「ポンペイの一般市民の想像の世界を垣間見る貴重な手がかり」を提供していると述べている。

もう一つの注目すべき発見は、愛の告白を記した碑文だ。漆喰の風化により言葉の大部分は失われているものの、「エラトは愛す……」という書き出しを読み取ることができた。エラトは女性の名前だ。この碑文は、同じ回廊から以前発見された「アテッラ出身のコミニアの奴隷、メテはクレストゥスを愛している。ポンペイのヴィーナスが2人の心に恵みを与え、2人が永遠に調和のうちに生きられますように」という別の愛の碑文を想起させる。

今回の研究で用いられた技術は、新発見にとどまらず、既知の落書きを含むポンペイの碑文をデジタルアーカイブ化する手段としても機能している。研究チームは現在、写真測量法、RTIデータ、碑文のメタデータを統合した3Dプラットフォームを開発中で、これにより落書きの完全な可視化と注釈が可能になるという。

この調査に協力したポンペイ考古学公園のガブリエル・ズフトリーゲル館長は、成果について次のように語っている。

「テクノロジーは古代世界の新たな部屋を開く鍵です。私たちは、1万点を超える碑文という巨大な遺産を守り、その価値を高めるプロジェクトに取り組んでいます。テクノロジーの活用によってこそ、ポンペイで暮らした人々の記憶を将来に伝えることができるのです」

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