画像解析技術でポンペイの「未記録の落書き」79点を新発見──愛の告白や戦闘シーンも
- TEXT BY ARTNEWS JAPAN
高度な画像技術を用いたフランスとカナダの研究チームの調査により、ポンペイの壁から79点の落書きが新たに発見された。グラディエーターの戦闘場面や愛の告白が、2000年前の人々の暮らしをいまに伝えている。

パリのソルボンヌ大学とカナダ・モントリオールのケベック大学の研究者らが、ポンペイの壁から79点の落書きを新たに発見した。研究成果は、ポンペイの電子ジャーナルに論文として発表されている。
アートネットが伝えるところによると、調査が行われたのは、ポンペイの劇場群と街の繁華街スタビアナ通りを結ぶ、全長約27メートルの回廊の漆喰壁だ。この場所には、かつての住民が残した多数の落書きが存在することが知られている。
研究者らは、反射率変換イメージング(RTI)と呼ばれる計算写真法を用いて壁面を調査した。RTIは、複数の角度から照明を当てて対象物を撮影する手法で、数世紀にわたる風化によって肉眼では見えなくなった微細な傷や刻みを可視化できる。調査の結果、壁からは約300の碑文や図像が確認され、そのうち79点はこれまで記録されていなかった新発見だった。






今回新たに確認された落書きの中で特に注目されるのが、劇場の観客席へと続く最初の階段付近、回廊南側の壁に刻まれていたグラディエーターの戦いを描いた図像だ。漆喰への刻みは非常に浅く、画像も部分的にしか残っていないが、RTIによって、鎧をまとった2人の人物が互いに対峙し、戦う様子がはっきりと浮かび上がった。
ポンペイの落書きにおいて、グラディエーターは決して珍しい題材ではない。しかし論文では、この図像について「生き生きとした表現力、しなやかな線、動きの表現における確かな技量」に加え、「向かい合う両足と衝突する二つの盾を中心に、画面全体が回転しているかのような構図の見事さ」を高く評価している。さらに研究者らは、この絵が実際の闘技のスケッチではなく想像に基づいて描かれた可能性を示唆し、それによって「ポンペイの一般市民の想像の世界を垣間見る貴重な手がかり」を提供していると述べている。
もう一つの注目すべき発見は、愛の告白を記した碑文だ。漆喰の風化により言葉の大部分は失われているものの、「エラトは愛す……」という書き出しを読み取ることができた。エラトは女性の名前だ。この碑文は、同じ回廊から以前発見された「アテッラ出身のコミニアの奴隷、メテはクレストゥスを愛している。ポンペイのヴィーナスが2人の心に恵みを与え、2人が永遠に調和のうちに生きられますように」という別の愛の碑文を想起させる。
今回の研究で用いられた技術は、新発見にとどまらず、既知の落書きを含むポンペイの碑文をデジタルアーカイブ化する手段としても機能している。研究チームは現在、写真測量法、RTIデータ、碑文のメタデータを統合した3Dプラットフォームを開発中で、これにより落書きの完全な可視化と注釈が可能になるという。
この調査に協力したポンペイ考古学公園のガブリエル・ズフトリーゲル館長は、成果について次のように語っている。
「テクノロジーは古代世界の新たな部屋を開く鍵です。私たちは、1万点を超える碑文という巨大な遺産を守り、その価値を高めるプロジェクトに取り組んでいます。テクノロジーの活用によってこそ、ポンペイで暮らした人々の記憶を将来に伝えることができるのです」

画像解析技術でポンペイの「未記録の落書き」79点を新発見──愛の告白や戦闘シーンも|高度な画像技術を用いたフランスとカナダの研究チームの調査により、ポンペイの壁から79点の落書きが新たに発見された。グラディエーターの戦闘場面や愛の告白が、2000年前の人々の暮らしをいまに伝えている。【続きを読む】
Photo: Facebook/@Pompeii - Parco Archeologico

新たに確認された落書きの中でも特に注目されているポンペイの回廊から読み取られたグラディエーターの図像。Photo: Facebook/@Pompeii - Parco Archeologico

ポンペイ「青の間」顔料代は、ローマ兵年収の最大9割!? 最新調査結果が発表|2024年にポンペイで発見された「青の間」の最新調査により、壁を覆う顔料の使用量と価値が明らかになった。その費用はローマ兵の年収の最大約9割に相当するとされ、当時の富裕層による豪奢な装飾の実態が浮かび上がった。【続きを読む】
Photo: Facebook/Archaeological Park of Pompeii

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2024年の発掘調査でみつかった遺骨。頭部には大きなすり鉢がある。Photo: Instagram/pompeii_parco_archeologico

遺骨とともに見つかったオイルランプ。Photo: Instagram/pompeii_parco_archeologico

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「ヘレとフリクソスの家」の食堂。Photo: Facebook/Pompeii Archaeological Park

「ヘレとフリクソスの家」の食堂。Photo: Facebook/Pompeii Archaeological Park

「ヘレとフリクソスの家」の室内。Photo: Facebook/Pompeii Archaeological Park

「ヘレとフリクソスの家」の寝室で見つかった木製ベッドの石膏型。Photo: Facebook/Pompeii Archaeological Park

CTスキャンでポンペイ「逃亡者の庭」の犠牲者の職業が判明──携えていたのは「医療箱」|西暦79年のヴェスヴィオ火山噴火の惨状を今に伝えるポンペイの遺跡「逃亡者の庭」。そこに残された14人の犠牲者のうち、うずくまった男性の職業が最新研究によって明らかになった。【続きを読む】Photo: Ivan Romano/Getty Images

「逃亡者の庭」の石膏像から発見された遺物。Photo: Facebook/Pompeii - Parco Archeologico

ポンペイにある「逃亡者の庭」のガラスケースに収められた犠牲者の石膏像。Photo: Facebook/Pompeii - Parco Archeologico

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ポンペイ遺跡にある古代ローマの円形劇場。KONTROLAB/LightRocket via Getty
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Photo: Getty images
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Photo: University of Valencia
スペイン・バレンシア大学の研究チームによるポンペイ犠牲者の調査風景。Photo: University of Valencia
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ティアソスの家の3Dデジタルモデル。Photo: Courtesy Pompeii Reset

ティアソスの家の3Dデジタルモデル。Photo: Facebook/Parco Archeologico

ティアソスの家のデジタル復元図。Photo: Facebook/Parco Archeologico
ポンペイの食堂跡からエジプト由来の陶器を発見。古代の文化交流を明かす重要な手がかりに|ポンペイの食堂跡から、約2000年前に作られた陶器が発見された。エジプト・アレクサンドリアで作られたとされるこの器が庶民が利用する食堂で見つかったことで、当時の文化交流の実態が浮かび上がる。【続きを読む】
Photo: Courtesy Archeological Park of Pompeii

ポンペイで1世紀ぶりに「デュオニソスの秘儀」の絵を発見|古代ローマの都市ポンペイの遺跡で、宴会場として使用されていた部屋の3つの壁面にまたがる巨大なフレスコ画が発見された。「デュオニソスの秘儀」を描いたと考えられ、西暦79年に発生したヴェスヴィオ火山噴火の100年以上前のものと推測されている。【続きを読む】Photo: Courtesy of the Pompeii Archaeological Park

古代ローマ以前の巨大な墓地を北イタリアで発見|イタリアの山岳地帯にあるトレントのサンタ・クローチェで、200基の墓がある大規模な埋葬地が発掘された。発見された副葬品から、埋葬地を造った人々が当時のイタリア半島における他の集団から文化的な影響を受けていたか、交流があったとをみられる。【続きを読む】Photo: Courtesy of the Press Office of the Provincial Council of Trento

炭化した巻物に「愚か」や「生命」などの文字が。AIによる古代文書の開封に進展|X線画像とAI技術を用い、炭化した古代ローマ文書を解読する試みが新たな進展を見せた。ヘルクラネウムの巻物と呼ばれる文書の「バーチャル開封」と判読に取り組んでいるのは、ヴェスヴィオ・チャレンジの参加者だ。【続きを読む】Photo: Courtesy the Vesuvius Challenge
イタリアのナポリ国立図書館が所蔵するヘルクラネウム・パピルス(2019年撮影)。Photo: Antonio Masiello/Getty Images
火山噴火の悲惨さを物語る足跡をポンペイ近くの工事現場で発見|イタリア・カンパニア州でメタンガス用パイプラインの改修工事を行っていた際に、ヴェスヴィオ火山噴火の悲惨さが伺える人の足跡や、古代末期に作られたとされる墓跡が発見された。これらの遺跡は、青銅器時代から古代末期までさかのぼるという。【続きを読む】Photo: Soprintendenza Archeologia Belle Arti e Paesaggio di Salerno e Avellino

ポンペイ最高傑作「アレクサンドロス大王のモザイク画」で新発見!|ポンペイ遺跡の中でも最高傑作と言われる、アレクサンドロス大王のモザイク画。同作の約200万個のタイルはどこから来たのか、新しい研究で明らかになった。【続きを読む】Photo: Wikimedia Commons

アレクサンドロス大王のモザイク画(部分)。Photo: Wikimedia Commons
ポンペイで有力政治家が所有した温浴施設を発見!|ポンペイ当局は豪華な温浴施設跡が発見されたとポ発表した。場所は、富裕層が住んでいた地区であるレギオ9区のノラ街道沿いの住宅で、有力政治家であったアウルス・ルスティウス・ウェルスが所有していた可能性があるという。【続きを読む】Photo: Facebook/Pompeii - Parco Archeologico

ポンペイ遺跡公園で見つかった浴場跡。Photo: Facebook/Pompeii - Parco Archeologico

Photo: Facebook/Pompeii - Parco Archeologico

Photo: Facebook/Pompeii - Parco Archeologico
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