今週末に見たいアートイベントTOP5:マルジェラが日本初の大規模個展、リナ・バネルジーが描く「移動する身体とアイデンティティ」

関東地方の美術館・ギャラリーを中心に、現在開催されている展覧会の中でも特におすすめの展示をピックアップ! アートな週末を楽しもう!

リナ・バネルジー「“You made me leave home…」(エスパス ルイ・ヴィトン東京)より、RINA BANERJEE – “You made me leave home… エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2026年) Photo credits: Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

1. 「飯川雄大 大事なことは何かを見つけたとき」(水戸芸術館 現代美術ギャラリー)

飯川雄大《デコレータークラブ―ピンクの猫の小林さん》2022年、彫刻の森美術館(神奈川県)での展示風景、Photo: Takafumi Sakanaka, courtesy of the artist
飯川雄大《デコレータークラブ―配置・調整・周遊》2020年、「ヨコハマトリエンナーレ 2020」(PLOT48)での展示風景、Photo: Takehiro Iikawa, courtesy of the artist
飯川雄大《デコレータークラブ―新しい観客》2022年、「感覚の領域 今、「経験する」ということ」展(国立国際美術館、大阪)と個展「デコレータークラブ:メイクスペース、ユーズスペース」(兵庫県立美術館)での連携実施、Photo: Takehiro Iikawa, courtesy of the artist

日常の隙間から現れる、思いがけない出来事

兵庫県生まれで神戸を拠点に活動するアーティスト、飯川雄大(1981-)は、時間の相対性や知覚のゆらぎに着目し、日常の風景や身近な物事の中に潜む認識の不確かさを探る作品を制作してきた。2007年より展開する「デコレータークラブ」シリーズでは、公共空間や展示の仕組みに目を向けながら、観客の身体感覚や想像力、場の偶発性によって変化する作品を発表している。シリーズ名は、海藻や貝殻などを体に付けて周囲に擬態する蟹に由来し、見え方や解釈のズレへの関心がその発想の背景にある。そのほか飯川は、巨大なピンクの猫を街中に出現させるプロジェクトなど、立体、絵画、写真、映像を横断しながら、空間の特性を生かした作品を発表してきた。

本展では、これまでの実践を紹介するとともに、鑑賞者を巻き込む新作インスタレーションを発表。情報の曖昧さや感覚の不完全さを出発点に、思いもよらぬ出来事に出会ったときの衝撃やリアリティを、他者とどのように共有できるのかという問いを提示する。観客の行為や想像力によって変化する空間のなかで、日常とは異なる風景が立ち上がる瞬間を体験することになるだろう。

「飯川雄大 大事なことは何かを見つけたとき」
会期:2月28日(土)〜5月6日(水)
場所:水戸芸術館現代美術ギャラリー(茨城県水戸市五軒町1-6-8)
時間:10:00〜18:00(入場は30分前まで)
休館日:月曜(5月4日を除く)


2. リナ・バネルジー「“You made me leave home…」(エスパス ルイ・ヴィトン東京)

RINA BANERJEE – “You made me leave home…
エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2026年)
Photo credits: Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton
RINA BANERJEE – “You made me leave home…
エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2026年)
Photo credits: Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton
RINA BANERJEE – “You made me leave home…
エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2026年)
Photo credits: Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

華やかな幻想世界に潜む政治性

南アジア系ディアスポラのアーティスト、リナ・バネルジーの個展。1963年にインド・コルカタで生まれ、幼少期に渡米したバネルジーは、現在ニューヨークを拠点に活動する。移民としての経験や多文化的背景を出発点に、植民地主義の歴史やグローバルな移動、女性性やアイデンティティの複雑な関係をテーマに作品を制作してきた。

本展では、インスタレーション、彫刻、絵画など19点を通して、物や身体、人の移動が交錯する世界の複雑な関係性を浮かび上がらせる。フォンダシオン ルイ・ヴィトンのコレクションとして初公開される2008年の大型インスタレーション《In an unnatural storm a world fertile,…》をはじめ、近年の絵画や立体作品も展示。ポストコロニアル・フェミニズムの視点から神話的な女性像を再解釈するとともに、人毛の国際取引を扱った近作《Black Noodles》(2023)などを通して、グローバルな流通と身体、アイデンティティをめぐる関係を多層的に示す。華やかなオブジェに惹きつけられる視覚的魅力の背後には、歴史や政治、身体をめぐる問いが潜んでいる。魅惑と違和感が交錯するその体験こそが、バネルジーの作品世界の核心といえるだろう。

リナ・バネルジー「“You made me leave home…」
会期:3月19日(木)〜9月13日(日)
場所:エスパス ルイ・ヴィトン東京(東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道ビル7F)
時間:12:00〜20:00
休館日:ルイ·ヴィトン 表参道店に準じる


3. 創設90年記念 河井寬次郎と濱田庄司(日本民藝館)

鉛釉象嵌鉢
1930年 河井寬次郎 8.7×39.6cm
白掛彫絵色差注瓶
濱田庄司 1928年 14.0×16.9×14.5cm
辰砂丸文角瓶
河井寬次郎 1937年 28.8×13.3×13.3cm

民藝を生んだ2人の陶芸家に迫る

陶芸家の河井寬次郎(1890-1966)と濱田庄司(1894-1978)は、東京高等工業学校(現・東京科学大学)の窯業科で出会い、生涯にわたって親交を結んだ。卒業後はともに京都市立陶磁器試験場に勤めるなど作陶の道を歩むなかで、思想家・柳宗悦と出会い、その思想に共鳴。1925年には柳とともに「民衆的工藝」を意味する言葉として「民藝」を提唱し、日常の器に宿る美を見出す民藝運動を推進していった。

日本民藝館創設90年を記念して開催される本展では、民藝運動の出発点に立っていた2人の作品を紹介する。京都で作陶した河井は、型作りによる簡素で重厚な形と、色鮮やかな釉薬や躍動的な文様を特徴とする作品を制作。一方、栃木・益子を拠点に活動した濱田は、土地の土と釉薬を用い、流掛や赤絵、塩釉などの技法による力強く健康的な器を生み出した。日常の器に宿る美を見出した2人の仕事を通して、民藝が目指した「用の美」の精神に触れられる機会となる。

創設90年記念 河井寬次郎と濱田庄司
会期:3月20日(金祝)〜5月27日(水)
場所:日本民藝館(東京都目黒区駒場4-3-33)
時間:10:00〜17:00(入場は30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合は開館、翌日休館)


4. クリスチャン・マークレー「LISTENING」(ギャラリー小柳)

Christian Marclay, Concentric Listening (Red and Blue), 2024
Christian Marclay, Eccentric Listening (Eight Ears and Scarf), 2024
Christian Marclay, Oculi (Listening Trio), 2026

「聴く」をめぐるマークレーのコラージュ

1955年アメリカ・カリフォルニア州サンラファエル生まれ、スイス・ジュネーヴで育ったクリスチャン・マークレーは、1979年にレコードとターンテーブルを楽器として用いたパフォーマンスを開始し、実験音楽の分野で先駆的な存在となった。1980年代以降は映像、写真、彫刻、絵画、版画など多様なメディアを横断しながら、聴覚と視覚の結びつきを探る作品を発表してきた。2011年の第54回ヴェネチア・ビエンナーレでは映像作品《The Clock》で金獅子賞を受賞。日本では2021年に東京都現代美術館で「クリスチャン・マークレー トランスレーティング〔翻訳する〕」が開催されている。

1996年に始まったギャラリー小柳との協働から数えて4回目の個展となる本展では、「LISTENING(聴くこと)」を主題としたオリジナル・コラージュの新作シリーズを発表する。雑誌から切り取った顔の輪郭のみを残し放射状に重ねた《Concentric Listening》、耳のイメージが集合的な構造を形成する《Eccentric Listening》、そしてヴィンテージのレコードジャケットのスリーブの円形の開口部から断片的なイメージが覗く《Oculi》の最新作が並ぶ。音と視覚の境界を軽やかに横断してきたマークレーの実践は、本展でも「聴く」という行為そのものを新たな視覚体験へと変換する。

クリスチャン・マークレー LISTENING
会期:4月4日(土)〜6月30日(火)
場所:ギャラリー小柳(東京都中央区銀座1-7-5 小柳ビル9F)
時間:12:00〜19:00
休館日:日月祝


5. MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE(九段ハウス)

マルジェラ日本初の大規模個展

1957年ベルギー・ルーヴェン生まれのマルタン・マルジェラは、アントワープ王立芸術学院卒業後、ジャン=ポール・ゴルチエのアトリエを経て、1988年にジェニー・メレンズとともにパリで「メゾン マルタン マルジェラ」を設立した。2008年にファッション界を退いた後はビジュアルアートに専念し、人間の身体や痕跡、時間、不在といったテーマを軸に、コラージュ、絵画、ドローイング、彫刻、アッサンブラージュ、映像など多様な手法を用いた表現を展開している。2021年にはパリのラファイエット・アンティシパシオンで初の個展を開催し、その後北京のMWoods、ソウルのロッテ美術館へと巡回した。

本展は、マルジェラのアーティストとしての実践を日本で初めて包括的に紹介する大規模個展だ。会場となる九段ハウスは、1927年竣工のスペイン様式の洋館を改修した登録有形文化財で、旧山口萬吉邸として知られる歴史的建築。私的で親密な空間が、マルジェラの創作観と深く共鳴する。展示構成とキュレーションはすべてアーティスト自身が手がけており、日常への鋭い観察から生まれた作品群が邸宅全体に展開。平凡なものを非凡なものへと転化させるマルジェラの視点を、作品と極めて近い距離で体感できる。

MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE
会期:4月11日(土)〜4月29日(水)
場所:九段ハウス(東京都千代田区九段北1-15-9)
時間:10:00〜19:00(4月29日は17:00まで、入場は1時間前まで)
休館日:なし

あわせて読みたい