米大学のAIが通説揺るがす新解釈──《キリストの洗礼》はエル・グレコ単独制作の可能性
米大学の研究チームは、絵画の筆致や質感のから描き手の違いを見極めるAIを開発した。エル・グレコの《キリストの洗礼》を分析した結果、複数人による制作とする従来説を覆す可能性が浮上した。
何世紀も前に制作された美術品を対象に、関与した画家の数を特定する機械学習プログラムが開発された。開発を担ったのは、オハイオ州クリーブランドのケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究チームだ。この研究成果は学術誌『サイエンス・アドバンシズ』に発表されており、13人にのぼる著者の専門分野は物理学や情報科学から美術史、人類学まで幅広い。
「PATCH(*1)」と名付けられたこのAIは、単独の画家が描いたと確認されている作品から、1平方センチメートルの断片を抽出して分析する。近世ヨーロッパでは、工房の弟子や職人のグループによる共同制作が一般的だったが、PATCHは単独の画家が制作した作品を学習データとして扱う。抽出した断片に見られる筆致や絵の具の質感を、作家の特定が難しい別作品と比較することで、その作品が単独制作なのか、別の作家によるものなのか、あるいは共同制作なのかを判別できる。
*1 Pairwise Assignment Training for Classifying Heterogeneity(不均一性を分類するためのペアごとの割り当て学習)の略称。
今回の論文で研究チームは、スペイン・ルネサンス末期の巨匠、エル・グレコ本人が描いたとされてきた《十字架のキリスト》(1600-1610頃)と、「エル・グレコと複数の画家による共同制作」と考えられてきた《キリストの洗礼》(1608-1614頃)を比較した。後者は一般的に、エル・グレコの死後、息子や工房の弟子たちによって10年ほどかけて仕上げられたと考えられてきた。しかし、PATCHによる比較検証では、《キリストの洗礼》に工房の関与はほとんど、あるいはまったく認められず、エル・グレコ単独の制作である可能性が示された。
とはいえ、論文の執筆者たちは、PATCHのようなAIが、近世美術史の研究において決定的な答えを導けるとまでは位置づけていない。実際、AIが2023年1月に真作と断定したラファエロの絵画については、美術館関係者から不正確である可能性が高いと疑問の声が上がっていた。研究チームは論文のなかで、PATCHは既存の美術史的手法を補完するものとして、研究に大きく貢献しうると述べている。(翻訳:編集部)
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