湾岸地域のアート市場に暗雲。強気予想から一転、情勢悪化でラグジュアリーへの打撃が明らかに

イラン戦争による緊張が世界経済に深刻な影響を与える中、LVMHケリングの1〜3月期決算からラグジュアリー市場への打撃が明らかになった。勢いを増していた湾岸地域のアート市場へ波紋が広がることが予想される。

空爆で破壊されたイラン司法当局の建物に掲げられた国旗(2026年4月20日撮影)。Photo: Morteza Nikoubazl/NurPhoto via Getty Images

昨年末、2026年はアート市場にとって「湾岸の年」となるように見えた。サザビーズは2025年12月に第1回「アブダビ・コレクターズ・ウィーク」を開催し、1億3300万ドル(最近の為替レートで約211億円、以下同)の収益を記録した。今年2月にはアート・バーゼルが「アート・バーゼル・カタール」を初開催し、11月にはアブダビ・アートからリブランドされた第1回「フリーズ・アブダビ」が予定されている。

しかしその後、数週間にわたる警告を経て、アメリカイスラエルイランへの攻撃を開始。これに対しイランは、アラブ首長国連邦(UAE)カタール、バーレーン、サウジアラビアへの報復攻撃を行った。現状、アメリカとイランの間で停戦交渉が行われてはいるが、先行き不透明な中、湾岸地域が低税率で安全なビジネス拠点として築いてきた評判は揺らいでいるようだ。

既に大きな影響を受けたのは、湾岸地域を代表するアートフェア「アート・ドバイ」だ。今年20周年を迎え、アート・バーゼルやフリーズによる進出のはるか以前から開催されてきた同フェアは、開催時期を4月から5月に延期。アート・ニュースペーパー紙によると約75の出展者が参加を取り下げたため、規模が2025年時点の120以上から50にまで縮小された。変更後の日程は5月15日から17日までで、マディナ・ジュメイラでの開催を予定している。

一方、フリーズはアブダビでのフェア開催についてまだコメントを出していない。しかし、欧州やアジアで購買が鈍化する中、アート界と同じく湾岸地域を成長の原動力として狙っていたラグジュアリー業界でも同地域の市場に停滞の兆しが見え始めている。

ニューヨーク・タイムズ紙やCNBCなどが報じたところでは、ルイ・ヴィトンティファニーブルガリなどを傘下に持ち、パリを本拠とするコングロマリットLVMHの業績発表で、2026年1〜3月期の売上高は約191億ユーロ(約3兆6000億円)、前年同期比6%減であることが明らかになった。決算報告書によると、特にファッション&レザーグッズ部門への打撃が大きく、実質ベースの売上高は2%減となっている。

グッチボッテガ・ヴェネタイヴ・サンローランなどを擁するフランスのラグジュアリーブランドグループ、ケリングも、中東地域の1〜3月期の売上高が11%減少したことを報告し、中東事業に「危機対策ユニット」を設置したという。ニューヨーク・タイムズ紙によると、ケリングの最高財務責任者(CFO)であるアルメル・プルーは今月、投資家に対し「中東では地元住民よりも観光客流入への打撃がより深刻だ」と述べている。

LVMHの会長兼CEOであるベルナール・アルノーは、世界有数の美術品コレクターとして知られる。US版ARTnewsが選ぶトップ200コレクターの常連でもあり、ブルームバーグのビリオネア指数では2026年4月22日時点で世界9位の富豪にランクされている。また、ケリングやオークション大手のクリスティーズを傘下に抱える持株会社、アルテミス・グループを率いるフランソワ・ピノーもトップクラスのアートコレクターだ。

米フォーチュン誌が伝えるところでは、金融調査会社バーンスタインのアナリストは、今年、湾岸諸国の高級品販売額が最大50%減少する可能性があると予測している。美術品についての具体的な言及はないものの、美術品市場は概して高級品セクターと連動する傾向がある。

アメリカ・イスラエルとイランによる戦争は、湾岸地域におけるフェア等の計画のみならず、アート界全体に広範な影響を与えている。顕著なのは、紛争勃発以来この地域を通過する美術品の輸送費や保険料に起きた急騰だ。中国の美術品物流会社トップスペース・アートサービスの創業者ワン・ジエンミンによると、戦争開始直後の数週間で美術品の国際航空輸送費は最大4倍にまで跳ね上がったという。

アート市場調査会社アートタクティックの年次レポートによると、今年初めには、アート市場における専門家の76%が2026年の最も強気な地域として湾岸地域を挙げ、「下振れリスクは最小限」だと回答していた。果たして、これらの専門家は今、その考えを変えようとしているだろうか。(翻訳:石井佳子)

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