イラン戦争で輸送滞ったパウル・クレー《新しい天使》、ニューヨークで公開へ

ニューヨークで開催されているパウル・クレー展で、展示が延期されていた天使の絵がようやく公開された。この作品は、エルサレムのイスラエル博物館からの輸送が中東情勢の緊迫化で足止めされていた。

パウル・クレー《Angelus Novus》(1920)。2025年にベルリンのボーデ美術館で行われた天使がテーマの企画展における展示風景。Photo: Adam Berry/Getty Images

ニューヨークのジューイッシュ・ミュージアムでは、3月20日からスイス生まれのドイツ人画家、パウル・クレーの展覧会「Paul Klee: Other Possible Worlds(パウル・クレー:他の可能世界)」(「可能世界」は哲学・論理学の用語)を開催中だ。同展は、1940年に死去したクレーの晩年10年間に制作された作品に焦点を当てている。この10年間、つまり1930年代は、政治的混乱や紛争が世界を揺るがし、緊迫した地政学的状況が続いた時代だった。

展覧会には、エルサレムのイスラエル博物館から貸し出される《Angelus Novus(新しい天使)》(1920)の出展が予定されていた。しかし、2月28日の大規模空爆で始まったイスラエルとアメリカによるイランへの軍事行動の影響で、これまでイスラエルからの輸送が滞っていた。それがニューヨークに到着し、高さ約30センチの小ぶりな作品がようやく展示されることになった。

ジューイッシュ・ミュージアムでは5月11日まで公認の複製版が展示されており、壁面の説明文には「国際輸送に影響を及ぼしている情勢により、オリジナル作品の搬入に一時的な遅れが出ている」と書かれていた。油彩転写と水彩を用いたオリジナル作品は「極めて光に弱い」ため、当初は展覧会開始から1カ月後にこの複製版への入れ替えが予定されていた。

天使を描いた《Angelus Novus》は、ドイツの哲学者ヴァルター・ベンヤミンが所有していたことで知られる。1936年に発表された画期的な論考『複製技術時代の芸術』を代表作とするベンヤミンは、1921年にこの絵を購入した。最晩年の1940年に執筆された『歴史哲学テーゼ』の中でベンヤミンは、この天使像に関する考察を次のように書いている。

「クレーに《Angelus Novus》という絵画がある。そこに描かれた天使は、自らが見つめる何かから、今まさに遠ざかろうとしているように見える。彼は目を見開き、口を開け、翼を広げている。歴史の天使はこのような姿であるに違いない。その顔は過去に向けられている。私たちには出来事の連鎖に見えるものを、彼はただ1つのカタストロフ(破局)として見る。カタストロフは絶え間なく瓦礫の上に瓦礫を積み上げ、彼の足元に投げつけてくる」

イラン戦争の状況は、関係各国の矛盾した発言によって不透明なままだ。5月10日、ドナルド・トランプ米大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、それぞれ異なるニュース番組のインタビューに応じ、戦争はまだ終わっていないと発言した。

この紛争で、主にイラン国内で9000人もの死者と4万人以上の負傷者が出ており、レバノンイラク、イスラエル、クウェート、サウジアラビアカタールアラブ首長国連邦(UAE)にも被害が及んだ。トランプ大統領は11日、イランがアメリカによる最新の和平案を拒否したことを受け、停戦は「生命維持装置につながれているような状態だ」と述べている。

ニューヨークのジューイッシュ・ミュージアムがベルンのパウル・クレー・センターおよびベルン美術館と共同で企画・運営し、約100点の絵画や素描を展示中のパウル・クレー展は7月26日まで開催される。キュレーターは同ミュージアムの名誉シニア・キュレーター、メイソン・クラインで、6月4日にはシカゴ美術館附属美術大学の美術史教授アニー・ブルヌフが《Angelus Novus》をテーマとする講演を行う予定。(翻訳:石井佳子)

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