ソウルのポンピドゥー・センター分館、開館目前。狙いは韓国と世界をつなぐエコシステムの構築

2023年から準備が進められていた、ポンピドゥー・センターによるアジア初の分館がいよいよ韓国・ソウルにオープン。6月4日から始まる大規模キュビズム展に向け、現地では記者会見が開催された。本館が海外著名アーティストによる貴重な作品を紹介するだけでなく、韓国のアーティストを世界とつなぐエコシステムを目指していることが明らかとなった。

Photo Courtesy of Centre Pompidou Hanwha

ポンピドゥー・センターによるアジア初の本格的な海外分館「ポンピドゥー・センター ハンファ(Centre Pompidou Hanwha)」がいよいよオープンを迎える。6月4日の開館とともに始まるこけら落とし展「The Cubists: Inventing Modern Vision」(6月4日〜10月4日)に向け、現地では記者会見が開かれた。

ポンピドゥー・センターと韓国・ハンファ文化財団との合意に基づくこの美術館は、ソウル・ヨイドの象徴的な高層ビル「63ビル」の旧コンベンション棟を改装してつくられた。設計を担当したのは、フランスの建築家ジャン=ミシェル・ヴィルモット。4階建ての館内2フロアには約1,650平方メートルのギャラリーが2室つくられ、最上階には漢江を見渡せるレストランとルーフトップが設けられている。

63ビルが位置するヨイドは政治や金融、メディアの中心地と言われる。Photo Courtesy of Pompidou Centre Hanwha
「光の箱」というアイデアから空間は設計されたという。Photo Courtesy of Pompidou Centre Hanwha
ルーフトップからは漢江の風景も一望できる。Photo Courtesy of Pompidou Centre Hanwha
館内にはシアタールームも。Photo Courtesy of Pompidou Centre Hanwha

過去50年でアジア最大級のキュビズム展

ハンファ文化財団の理事長を務めるイ・ソンスによれば、今回の分館オープンはソウルに新たな文化芸術のプラットフォームをつくることを目的としているという。同財団はこれまでもアート事業を手掛けており、韓国人アーティストの制作と交流を支援する海外レジデンシープログラムを数年前から実施しているほか、昨年にはニューヨーク・トライベッカ地区に「Space Zero One」と題した非営利スペースをオープンし新進アーティストが作品を発表できる場を整備してきたことで知られる。ポンピドゥー・センターとの連携は、こうした取り組みと重なるものでもある。

そんなポンピドゥー・センター ハンファのオープニングを飾る「The Cubists: Inventing Modern Vision」は、キュビズムにフォーカスした大規模展だ。記者会見に登壇したポンピドゥー・センター館長ローラン・ル・ボン(Laurent Le Bon)が「この50年でアジア最大規模のキュビズム展になるでしょう」と語ったとおり、1907年前後の黎明期から1920年代の展開までを9つのセクションで構成し、パブロ・ピカソやジョルジュ・ブラック(Georges Braque)、フェルナン・レジェ(Fernand Léger)、フアン・グリス(Juan Gris)、ロベール・ドローネー(Robert Delaunay)など43作家による91点が出品される。

展示は9つのセクションから構成されている。Photo Courtesy of Pompidou Centre Hanwha
Photo Courtesy of Pompidou Centre Hanwha
KOREA FOCUSセクションでは1920〜30年代の文献がデザインされて展示されるエリアも。Photo Courtesy of Pompidou Centre Hanwha

キュビズムと韓国近現代美術を接続

ポンピドゥー・センターが収蔵する貴重な作品が集まり、キュビズムの歴史を一望できることももちろん重要だが、ソウルの分館ならではの取り組みと言えるのがキュビズムと韓国近現代美術を接続する特別セクション「KOREA FOCUS: A Dream Map Toward the Avant-Garde」だ。

同館のチーフ・キュレーターを務めるチョ・ジュヒョンは、本セクションの設計意図を「韓国のキュビズムを移植の一種として理解するものではなく、当時のアーティストたちがどのような時代的条件のなかで新しい感覚と造形言語を試みたのか見ていくことを目的としています」と説明する。当時の朝鮮半島は日本の支配下に置かれていたため、フランスのキュビズムがそのまま輸入されるのではなく、日本を経由することでさまざまな様式が総合的・混合的に現れながら多くの実験が行われていたという。会場ではキム・ファンギ、ユ・ヨングク、パク・レヒョンら近現代作家による絵画21点に加え、1920〜30年代のモダニズムに関する文献をグラフィカルに表現する作品など現代のアーティストによるコミッション・ワークも展示されており、グローバルな文脈と韓国近現代美術を接続しなおそうとする試みだと言えるだろう。

ハンファ文化財団 理事長 イ・ソンスPhoto Courtesy of Pompidou Centre Hanwha
ポンピドゥー・センター 館長 ローラン・ル・ボンPhoto Courtesy of Pompidou Centre Hanwha
ポンピドゥー・センター ハンファ 展示統括ディレクター イム・グネ Photo Courtesy of Pompidou Centre Hanwha
記者会見では、ポンピドゥー・センター近代コレクション総括キュレーターのクリスチャン・ブリエンド(Christian Briend)によるギャラリーツアーも行われた。Photo Courtesy of Pompidou Centre Hanwha
KOREA FOCUSセクションのキュレーションを努めたチョ・ジュヒョン。Photo Courtesy of Pompidou Centre Hanwha

韓国美術を世界と接続するエコシステム

イによれば、ポンピドゥー・センター ハンファは自前のコレクションを当面もたず、海外美術館とのパートナーシップを基盤としたプログラムを展開していく予定だ。今回の展示の統括ディレクターを務めたイム・グネは今後も「KOREA FOCUS」のようなプログラムを続けていくと語っており、ポンピドゥー・センターのコレクションと韓国人アーティストの作品を接続したり世界的なアーティストと国内の新進アーティストを併置するような取り組みが広げられるという。

記者会見の質疑応答においては、これまでもルイ・ヴィトンやカルティエなどグローバルブランドの財団による展覧会が韓国で行われてきたなかで、ポンピドゥー・センター ハンファがどのように韓国のアートシーンに貢献しうるのか問う声も上がった。そんな問いに対し、イムは単なる作品の紹介やアーティストとの交流を進めるだけでなく、アート・エコシステムの構築を重視していると応答。今後はポンピドゥー・センターとのネットワークを活用し、韓国のアーティストが海外にも紹介されていくようなエコシステムをつくりたいと続けた。

ソウルでは昨年9月にFriezeによる常設施設「Frieze House」がオープンするほかデザイン・マイアミの新イベントも始まるなど国際的な機関やイベントとの連携が増加しており、つい先日発表された「ロエベ クラフトプライズ 2026」の大賞を陶芸家のジョンジン・パクが受賞するなど、韓国のアーティストと世界がつながる機会はますます増えている。ポンピドゥー・センター ハンファはこうした流れを加速させていくのかもしれない。

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