出展料ゼロの異例フェアがソウルで開幕──HIVE ART FAIRが切り開く新たなビジネスモデル
ギャラリーから出展料をとらない異例のアートフェア「HIVE ART FAIR」がソウルで開幕した。作品のショーケースではなくプレゼンテーション型の展示を採用し、コレクターだけでなく企業とのコラボレーションを追求するなど、同フェアはフリーズ・ソウルやART BUSANとは異なる新たなアートフェアの形を模索している。

5月21日、ソウル西部・COEX Magokで「HIVE ART FAIR」(以下、HIVE)が開幕した(会期は5月21〜24日)。主催は、ギャラリー・ヒュンダイ代表のド・ヒョンテが2023年に設立した企業DXSS。フリーズ・ソウルやキアフ、ART BUSAN、ART OnOなど、既存フェアが層をなす韓国アートシーンに、アートフェアとして別のあり方を提示しようとする試みだ。

ショーケースではなくプレゼンテーション
最大の特徴は、参加ギャラリーから出展料をとらない点にある。国際的なアートフェアの出展料はときに数百万円に達することもあり、ギャラリーにとって少なくない負担だ。出展料をとらない代わり、運営側はいくつかの費目を出展側に転嫁してもいる。ギャラリーがクライアントを招くチケットは有料、プロモーションラウンジの利用枠もギャラリーが購入する仕組みで、参加側からは戸惑いの声も聞かれた。
HIVEでは、各ギャラリーは「プレゼンテーション」に予算を割くことが求められている。各ブースは一般的なフェアよりも面積が広く、出展ギャラリーはブースにタイトルを掲げ、空間設計まで含めた展示を組み立てている。フェアである以上、販売は当然重要な目的ではあるが、ここでは“売れる”作品を並べるというより、展覧会そのものを売るような設計がとられている。

「開かれた」思想
加えて、会場構成も特徴的だ。HIVE(蜂の巣)の名のとおりブースはハニカム状に配されており、ギャラリーのブースに囲まれた中央にはフェア側のキュレーションによる展示スペースやラウンジが据えられている。多くのアートフェアではグリッド上にブースが区切られることが多いが、HIVEの場合はすべてのギャラリーが台形状につくられるため、実スペース以上に来場者に向かって開かれたような印象を与えている。
こうした設計思想と呼応するように、出展ギャラリーの構成も、国内大手や欧米メガギャラリーが中心というより、オルタナティブ色を感じさせるものになっている。韓国国内からは、フリーズ・ソウルでも存在感を増す若手のCylinderや、気鋭の独立系ギャラリーとして知られるN/AやShower、WWNNが出展しており、マニラのThe Drawing Roomやシンガポール/ジャカルタのGajah Galleryなど、東南アジアからの参加も印象的だ。日本からは小山登美夫ギャラリー、ANOMALY、CON_など7軒のギャラリーが出展している。
会場選定に込められたフェアの戦略
出展料ゼロという姿勢をとっているように、HIVEは一般的なアートフェアとは異なるビジネスモデルへ挑戦しているように思える。現地報道によれば、HIVEはこれまでのフェアが主たるターゲットとしてきたコレクターに加え、企業をも顧客に据えようとしている。
COEX Magokという会場の選択にも、その意図が透けて見える。ラグジュアリーブランドやグローバルギャラリーが集まるカンナムのCOEXに対し、COEX Magokがある麻谷(マゴク)エリアは、150社を超える大企業・中堅企業の研究センターが集積するビジネス街区だ(たとえばCOEX Magokの斜め向かいには、LGのAI研究機関が入居する巨大なサイエンスパークが建っている)。近年、多くの企業がアートとのコラボレーションに関心を寄せるなか、HIVEは法人を明確に顧客として視野に入れており、COEX入居企業向けのツアーも予定されているという。
無論、この試みがどんな結果につながるかはまだわからない。HIVEの設計思想そのものは非常に挑戦的だが、今年は会期がART BUSANと重なったため、国内のVIPやコレクターの多くは釜山におり、初日は人の入りが控えめだった。
それでも、グローバルなフリーズ・ソウルからよりローカルなART BUSAN、新興のART OnOまで、キャラクターの異なるアートフェアが出揃っている韓国アートシーンに対し、HIVEが別の角度から切り込もうとしているのは確かだろう。結果がどうあれ、その挑戦自体がアートエコシステムの豊かさを示していると言えるかもしれない。















