アーティストが「キャンセル」されるとき──最新研究が示す、“揺れる”鑑賞者の評価

アーティストの不祥事は、作品の価値や評価をどこまで左右するのか。アメリカで発表された最新研究は、「キャンセル・カルチャー」をめぐる鑑賞者の判断には、一見矛盾するような“揺れ”が存在することを示した。

性暴力に反対する集会でプラカードを掲げる学生たち。Photo: Jeremy Hogan/SOPA Images/LightRocket via Getty Images
アメリカ・インディアナ州で開催された、性暴力に反対する集会でプラカードを掲げる学生たち。Photo: Jeremy Hogan/SOPA Images/LightRocket via Getty Images

SNSなどで批判を受けたアーティストや作品に対するキャンセル・カルチャーが、芸術作品の評価にどのような影響を与えるのか──これを調べた研究結果が、アメリカ心理学会が発行する『Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts』に掲載された

「Canceling Creativity? Exploring Artist Censure As a Function of Crime Type(創造性はキャンセルされるのか? 犯罪の種類に応じたアーティストへの制裁を探る)」と題された研究によると、回答者は殺人容疑をかけられたアーティストよりも、性暴力容疑をかけられたアーティストに厳しい反応を示したという。この傾向は、対象が無名のアーティストでも自分が好きなアーティストでも変わらず、保守/リベラルといった政治的立場によっても左右されなかった。一方、公には制裁を求めながらも、私的には作品を楽しみ続けるという態度のずれも浮かび上がった。

性暴力容疑に対する反応とねじれ

この研究を主導したのは、性をめぐる対立や道徳判断を研究するインディアナ州立大学心理学科のレベッカ・ハーネル=ピーターズだ。研究は、2019年にアメリカの参加者を対象としてオンラインで実施された予備実験と3つの本調査で構成されている。

予備実験では、270人の参加者に、架空の男性アーティストによる抽象画と簡単な経歴を示し、作品を評価させた。続いて、その作家が「殺人(意図的に相手を殺害した)」「性暴力(同意なしに性的接触を行った)」「物理的な暴力(女性を平手打ちした、あるいは男性を殴った)」「セクハラ(交際を断られた女性に、再び交際を迫った)」などの疑いにかけられた過去があると設定した。その上で、作品への好感度や、他者が作品にどう反応すべきか、展示や公開の中止といった制裁を支持するかという観点から作品を再評価させたところ、殺人や物理的な暴力、セクハラと比べ、最も強く制裁を求められたのは性暴力容疑だった。

この傾向は本調査でも変わらなかった。217人の参加者に、自分が最も好きな男性アーティストと、その作家による好きな作品を挙げて評価させた上で、その作家が上記の犯罪の疑いをかけられたと想定した場合の再評価を求めたところ、同様の結果が得られたという。

作品価値にも大きく影響

2度目の調査では、予備実験と同じ抽象画を使い、159人の参加者に複数の容疑を順番に示した。参加者は、各容疑を知るたびに作品を評価し直すとともに、それぞれの行為が道徳的にどれほど問題か、被害がどれほど大きいかを順位付けした。その結果、参加者は、殺人のほうが性暴力より重大な道徳的過ちだと評価した一方で、性暴力の疑いをかけられた作家の作品には、より厳しい評価を下すというねじれが確認された。

最後の調査では、同じ抽象画を見た845人の参加者に、性暴力、殺人、女性への物理的暴力、セクハラという4種類の容疑のいずれかをランダムに割り当てた。参加者には、作品が通常4万ドル(約640万円)で取引されると説明した上で、容疑を知る前後に作品の経済的価値を見積もらせた。その結果、性暴力容疑を示された作品に対する平均評価額は、容疑を知る前の約1万9928ドル(約320万円)から約9680ドル(約155万円)まで下落した。容疑を知った後の下落幅は4種類のなかで最も大きく、作品の価値はほぼ半減した計算になる。共同研究者で、ハミルトン大学准教授のキーラ・ウィリアムズは、この結果を次のように分析する

「性暴力容疑をかけられた人物の作品が、容疑を知る前の半分ほどの価値しかないと判断されたことは、現実社会にも通じる結果です。さらに、参加者はそれでも作品を変わらず好むと回答する一方、他人は作品を見るべきではない、対価を支払うべきではない、価値も下がったと判断している点は、興味深いです」

「キャンセル」の裏側にある葛藤

この結果についてハーネル=ピーターズは、独立系サイエンスニュースメディアのPsyPostに対し、今後の最大の課題は、なぜ性暴力容疑に対してこれほど強い制裁を要求するのかを明らかにすることだと語った。一方、今回の調査は仮想的な状況への自己申告に基づいており、実際の行動と一致するとは限らず、対象がアメリカの回答者に限られている点にも留意が必要だという。ハーネル=ピーターズは、今回の結果をこう総括している。

「人々は、すべての作品を一律に『キャンセル』しているわけではありません。回答者はおそらく、作品を私的に楽しむことと、それを公に支持することを分けて考えているのでしょう。人々は作品を完全に拒絶しているのではなく、多くの場合、葛藤を抱えているのです」

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