ヌードパフォーマーがMoMAを提訴。美術館は「性暴力への対処を怠った」
2010年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催されたマリーナ・アブラモヴィッチの回顧展、「The Artist Is Present」にヌードパフォーマーとして参加したアーティストが同館を提訴した。1月22日にマンハッタンの裁判所に提出された訴状によると、MoMAが来館者による性暴力を防ぐのを怠ったとしている。
提訴を行ったのは、ニューヨークを拠点とする画家・パフォーマンスアーティストのジョン・ボナフェデ。彼は、美術館来場者から繰り返し性的暴行を受けたとし、MoMAが「何人ものパフォーマーに対する継続的な性暴力を知りながら(中略)意図的かつ職務怠慢により再発防止のための是正措置を取らなかった」と主張している。
2010年当時、ニューヨーク・ポスト紙の記事では、ある女性パフォーマーが痴漢行為を経験したと明かし、他のパフォーマーも「押されたり、突かれたり、たたかれたりした」と答えている。一方のMoMAは同紙に対し、展覧会でヌードパフォーマーがさらされている「問題は十分把握している」として、こうした行為を行った者はMoMAの警備員が退館させたと説明。この件は、ニューヨーク・タイムズ紙などにも取り上げられていた。
MoMAの「Marina Abramović: The Artist Is Present」は、同館初のパフォーマンス・アートの回顧展で、総勢38人のパフォーマーが参加。彼らは、8人ずつ2時間ごとに交代し、骸骨の下に横たわる、特設された展示室の狭い出入り口で2人が向かい合う、他のパフォーマンス作品の中に立つなどのパフォーマンスを行った。
ボナフェデの訴訟では特に、2人のヌードパフォーマーが狭い距離で向かい合う作品《Imponderabilia》が取り上げられている。1977年にアブラモヴィッチ自身とかつてのパートナー、ウーライによって初演されたこのパフォーマンスは、来場者が2人のパフォーマーの間をなんとか通り抜けようとする際、彼らの裸体に触れることになるというものだ。同作品は、その後もロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツなど数多くの会場で再演されてきた。
ニューヨーク州では、2022年11月末に「成人サバイバー法」が成立。これによって、性暴力の被害に遭ったときに18歳以上だった者が、それがいつ発生したかにかかわらず、1年間の期限つきで加害者への提訴を行えることになった。昨年末、この期間の満了が近づくと、著名なセレブによる性暴力や不適切行為への告発が相次ぎ、トランプ前大統領、ヒップホップ界の大物ショーン・“ディディ”・コムズ、俳優のラッセル・ブランドなどが訴えられている。
ボナフェデの提訴もこの法律を利用したもので、彼が経験した性暴力が「長年にわたる精神的苦痛をもたらし、心身の健康、イメージ、キャリアに大きなダメージを与えた」と主張。補償的損害賠償、懲罰的損害賠償、弁護士費用の支払いなどの救済を求めている。
US版ARTnewsではMoMAの広報担当者にコメントを求めたが、記事掲載時点で回答はない。(翻訳:石井佳子)
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