香港に新たな美術保管施設がオープン予定。ファミリーオフィス200件の誘致を目指す施策の一貫
香港当局が開発を進める「空港都市」の中に、美術品を保管する施設が2025年末から2026年の間にオープンする。最低200件のファミリーオフィスの誘致を試みている香港は、超富裕層がこれまでコレクションしてきた作品を管理する施設を建てることで、世界有数のアート拠点となることを目指している。

2025年末から2026年初頭の間に、香港国際空港付近に美術保管施設がオープンする。香港政府の外国直接投資担当部門であるInvestHKのファミリーオフィス部門グローバルヘッドを務めるジェイソン・フォンは、温度管理システムが備わったこの美術保管施設は「ファミリーオフィスが活用できる総合システムの一つとなる」と胸を張る。
香港は、2025年末までに超富裕層の資産を管理するファミリーオフィスを最低でも200件誘致することを目的に、8つの施策を進めている。その一つであるこの施設は、将来的にファミリーオフィスが利用することのできるエコシステムの一部を構成するもの。この案を2022年10月に発表した行政長官のジョン・リーは、サウス・チャイナ・モーニング・ポストの取材に対して次のように語る。
「相続できる財産を築くために、多くの富裕層がアートを収集しています。香港国際空港に保管設備が新設されることで、彼らは収集した作品を安全かつ温度が管理された場所に保管できるようになるのです」
HSBCのアジア太平洋地域におけるグローバル・プライベート・バンキング部門の地域責任者を務めるロク・イムは、香港を世界有数のアートハブに発展させるためには、空港からアクセスしやすい高品質な美術品を専門に扱うロジスティクスサービスを備えた総合保管施設が必要不可欠であると語り、こう続ける。
「保管施設が完成すれば、ファミリーオフィスと芸術の両面で世界をけん引する拠点として、香港の地位はさらに強固になるでしょう。近代的な保管能力を備えることは、芸術への融資を支援するだけでなく、ファミリーオフィスが価値の高い美術品コレクションをより効果的に管理できるようになるのです」
2024年に大幅拡張が発表された空港都市の構想は、2025年1月に「スカイトピア」と命名された。この施設内には独立したアート保管施設に加え、500隻のヨットやボートを係留できるマリーナやホテル、市場、そして収容人数2万人を誇る屋内パフォーマンス会場が含まれる予定だ。
香港にはすでに美術保管施設がいくつか存在するが、フォンは既存の保管設備は不十分だという。前述のサウス・チャイナ・モーニング・ポストの記事の中で、フォンはこう語っている。
「海外のバイヤーは香港に飛んで空港の保管施設で作品の状態を確認し、売り手と取引の条件をすりあわせた上で作品を購入することができます。その環境が整えば、数時間のうちに取引が成立する可能性もあり、香港のアート取引の中心地としての役割は強化されることでしょう。高い安全性と快適な環境、そして特殊貨物を安全かつ効率的に取り扱う空港の能力が組み合わさることで、世界中のアートコレクターは安心して取引に臨むことができるに違いありません」
アート・バーゼルとUBSが共同で発表した「Global Collecting 2024」によると、2022年の香港では美術品の取引が50%増加しており、アジアの都市への美術品や骨董品の輸入額は過去最高の307億ドル(現在の為替で約4兆4800億円)に達した。一方、輸出額も334億ドル(同約4兆8740億円)と、過去2番目に高い水準を記録している。
また、同報告書によれば、投資可能な資産が100万ドル(約146億円)以上のを超える香港拠点の個人投資家の69%が作品を新たにコレクションに加えたという。UBSのアジア部門を率いるエイミー・ローは、3月28日に開催されたアート・バーゼル香港の開幕スピーチにおいてこう述べている。
「アート・バーゼルと当社が共同で実施するプロジェクトは、伝統と現代が融合し、香港で培われてきた物語が世界的に共感を呼ぶ文化拠点としての役割を強調するものです」(翻訳:編集部)
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