MoMAが香港のM+とアジア初となる包括的な協力関係を締結。「M+はもう孤島ではない」
2月19日、ニューヨーク近代美術館(MoMA)と香港の現代美術館M+は、包括的なパートナーシップを締結した。これにより両者間での研究や研修、展覧会やプログラムの共有などが可能になる。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)と香港の西九龍文化地区にある現代美術館M+は、2月19日、正式に提携を締結したと発表した。1年にわたる協議の末に結ばれたこの合意は、MoMAにとってアジアでは初となる包括的なものとなる。今後2館は、キュレーターや保存修復部門の研究のほか、職員の研修、コレクションの貸し出し、展示およびプログラムの交換など、6つの分野での協力が予定されている。
M+は、コレクターのウーリー・シッグから寄贈された中国現代美術の充実したコレクションをもとに2021年に開館した。設立されて間もない同館は今回の提携により、96年の歴史を持ち2023年には推定270万人の来場者を記録したMoMAの貴重なノウハウにアクセスできるようになる。
この合意は、M+や香港故宮文化博物館などを管轄する西九龍文化区管理局(WCKDA)が世界20以上の美術館とのネットワークを拡大する取り組みの一環だ。2024年3月、香港で開催された文化サミットで、WCKDAはポンピドゥーセンター、テート、ピカソ美術館など、10以上の国際機関と提携を結んだことを発表。M+関係者によると、今回のMoMAとの合意は、これまでで最も包括的なものとなる。
2月19日にMoMAで開催された提携発表式でM+館長のスハーニャ・ラッフェルは、「私たちは孤島ではありません」と述べ、美術館が「限られたリソース」に対応するため、国際的なパートナー機関との作品貸出合意を活用していることを説明した。一方、MoMAのグレン・ローリー館長は声明で、「M+との提携により、新たな学芸的方向性を探求し、世界的に観客との関係を広げることができます」と述べた。

MoMAにとってこの提携は、ニューヨークやロンドンと並ぶ金融センターである香港での足場を強化することにもなる。香港は活発な商業活動が行われているにもかかわらず、これらの国際都市よりも美術館は少なく周囲とノウハウを共有しにくい。M+側にとっても今回の提携はメリットのあるものになるだろう。
M+側にはさらなる目的もあるようだ。2月19日の提携発表式で、M+とWKCDAの関係者は、M+をはじめとする施設が運営コストの上昇に直面しており、来場者数もパンデミック前の水準に回復していないことを明らかにした。
2025年2月、2021年からWCKDA最高経営責任者を務めるベティ・フンは地元メディアに対し、2008年に香港立法会が設立した27億5000万ドル(約4120億円)の基金が、外部からの資金投入なしには枯渇する可能性があると警告した。2022年から23年にかけてM+には270万人、隣接する香港故宮文化博物館には125万人、合計で約400万人が訪れたが、WCKDAは2023年度に5億7800万香港ドル(約111億円)の赤字を計上している。
式典でUS版ARTnewsの取材に応じたベティ・フンは、欧米の大規模な美術館に近い形での資金調達や、個人寄付者との関係構築を発展させる方法を模索中だと語った。フンは今回の提携によって資金獲得のノウハウが得られることを期待している。(翻訳:編集部)
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