中国の大物コレクター復活によりアート・バーゼル香港は希望ある結果──香港アートウィーク売上報告

3月26日のVIPプレビューを皮切りに、アート・バーゼル香港が30日まで開催された(一般公開日は28日〜30日)。同じ週末には、香港のクリスティーズサザビーズでも近現代アートのオークションが行われた。アート市場の不透明感が拭えない中で実施された香港アートウィークのセールス結果をまとめた。

香港で大型イベントが集中した3月下旬、アート・バーゼル香港と並行して7人制ラグビーの国際大会「香港セブンズ」も開催された。Photo: Getty Images

アート業界関係者が香港からの帰国便に搭乗し始めた3月28日、今回のアート・バーゼル香港と、複数のイベントが同時期に開催されたアートウィークの大方の結果は既に見えていた。それは、「会場は熱気に包まれていたが、コレクターたちは慎重で、熟慮の末に最上級の作品だけを厳選して買う」というものだ。

大手ギャラリーでは26日のVIPプレビューからトップクラスの作品が売れる一方、中小ギャラリーは同じ成果を得るのに数日を要していた。28日から30日にかけての一般公開日にさほど目立った動きは見られず、その週末に開かれた大手オークションハウスのセールも同じような状況だった。

二大オークションハウスの売上は2018年秋以来の低調

香港のクリスティーズは、3月28日に20世紀・21世紀アートのイブニングセールを開催。昨秋、ザハ・ハディド・アーキテクツ設計のオフィスビル「ザ・ヘンダーソン」に移転オープンしたアジア太平洋地区本社でこの分野のセールを開くのは2度目だが、アート・バーゼル香港に合わせての実施は今回が初めてだ。それが大きな話題となったものの、いまひとつ精彩を欠く結果に終わっている。全43ロットの売上総額は手数料込みで7330万ドル(直近の為替レートで約110億円、以下同)、セルスルー率は95%(出品取下げが2点、不落札が2点)だった。

この日の主役となったジャン=ミシェル・バスキアの《Sabado por la Noche(土曜の夜)》(1984)は、予想最高額の1610万ドル(約24億円)に近い1450万ドル(約22億円)でアジアのコレクターに落札された。ちなみに、前回この作品が登場したのは2019年のクリスティーズ・ロンドンのセールで、落札額は1000万ドル(約15億円)。今回の結果は驚くほどの高値ではないが、クリスティーズ香港のプレジデント、フランシス・ベリンがアートニュースペーパー紙の記事で強調したように、今のところ2025年のオークションでは最高額だ。

バスキアのほかにも、ピエール=オーギュスト・ルノワールとルネ・マグリットの作品が予想落札価格を上回る額で落札されたが、大きなサプライズがないままセールは1時間強で終了した。

ジャン=ミシェル・バスキア《Sabado por la Noche》(1984) Photo: Christie’s Images Ltd. 2025

翌29日のサザビーズのイブニングセールも似たような展開だった。同社の発表によると、セール前に行われた出品作の展示会には3万5000人もの来場者が詰めかけたという(クリスティーズによるセール前展示会の来場者数の約5倍)。この盛況ぶりには、サザビーズの新拠点が入るセントラル地区の高級ショッピングモール、ランドマークチャーターの立地の良さも貢献しているだろう。

サザビーズの近現代アート・イブニングセールは、42ロットで3830万ドル(約57億5000万円)を売り上げ、セルスルー率は95%(出品取下げが4点、不落札が2点)。売上予想額の上値とされた4620万ドル(約69億3000万円)には届かなかったものの、健闘した作品も複数あった。

3月29日にサザビーズ香港で開かれた近現代アート・イブニングセールの様子。Photo: Courtesy of Sotheby’s

特に強かったのはヨーロッパの巨匠たちの作品だ。マルク・シャガールの《Fleurs de printemps(La Cruche aux fleurs de printemps)(春の花 [水差しと春の花] )》(1930)は444万ドル(約6億7000万円)で落札され、アジアにおけるシャガールのオークション記録を更新した。この作品が前回取引されたのは2018年のサザビーズ・ニューヨークで、落札額は254万ドル(約3億8000万円)だった。

パブロ・ピカソによる砂を混ぜた油彩画《Le Miroir(鏡)》は、予想落札価格190万ドルから310万ドル(約2億9000万~4億7000万円)のほぼ中間にあたる240万ドル(約3億6000万円)で落札され、ルノワールの《Baigneuse accoudée(椅子に寄りかかって水浴びする女性)》は予想最高額の280万ドル(約4億2000万円)を超える303万ドル(約4億5000万円)で買い手が付いた。アート・バーゼル香港でも何点かの作品が売れたゲオルク・バゼリッツの大型絵画は、予想落札価格110万から190万ドル(約1億6500万~2億9000万円)のところ、146万ドル(約2億2000万円)で決着している。

また、李黑地(リー・ヘイディ)と季鑫(ジー・シン)も、それぞれのオークション記録を更新。李の《Drifted Petals on Her Lifted Mound(彼女の丘の上に漂う花びら)》は予想最高額の2倍を超える18万ドル(約2700万円)で、季の《Dawn(夜明け)》は予想が10万から19万ドル(約1500万~2850万円)のところ、32万7000ドル(約4900万円)で落札されている。なお、サザビーズがセール終了後に出したプレスリリースには各ロットの入札件数が記されており、それによるとルノワールに18件、李の作品に20件、クリスティン・アイ・チョーの作品に12件の入札があった。

こうした明るいトピックもあるが、全体の結果を見ると現状がより鮮明に浮かび上がってくる。アート市場を専門とする調査会社アートタクティックによると、2つのイブニングセールの売上合計は手数料抜きで8920万ドル(約134億円)。これは、昨春の同カテゴリーのセールや、両オークションハウスがそれぞれアジア本部のリニューアルオープンに合わせて開催した昨秋のセールを約40%下回っている。また、2社のセールの合計売上額が10億香港ドル(約190億円)を下回るのは2018年の秋以来だという。

中国のメガコレクター復活でアート・バーゼル香港はまずまず

アート・バーゼル香港のVIPプレビューが行われた3月26日、US版ARTnewsは会場のディーラーたちに取材を行った。そのとき彼らが口々に答えていたのは、市場が明らかに軟調であるにも関わらず大勢のコレクターが会場を訪れていること、そして、成約には2~3日かかるかもしれないが商談は活発だということだった。多くの商談は首尾よくいったようで、30日にフェアが終了するとアート・バーゼルは長文のセールスレポートを発表。ディーラーたちも、それぞれの成果についてそれなりに満足しているようだった。

VIPプレビュー後に成立した特筆すべき取引を見てみると、まずハウザー&ワースでは、曾梵志(ゾン・ファンジ)が2024年に手がけた無題の絵画が150万ドル(約2億2500万円)で売れている。なお、サザビーズのオークションにも曾の《Mask Series 1995 no.12(仮面シリーズ 1995 no.12)》が出品され。予想落札価格が100万から190万ドル(約1億5000万~2億9000万円)のところ、140万ドル(約2億1000万円)で競り落とされた。同ギャラリーではまた、ジェフリー・ギブソンの絵画《Your spirit whispering in my ear(私の耳元で囁くあなたの魂)》(2025)が40万ドル(約2億1000万円)、マーク・ブラッドフォードの無題のミクストメディア作品が30万ドル(4500万円)で売れている。どちらも買い手はアジアのコレクターだった。

Paceは、フェアの終了間際に李禹煥の絵画に110万ドル(約1億6500万円)で買い手が付いたと報告している。同ギャラリーでは、一般公開日に別の李禹煥作品が95万ドル(1億4250万円)で売れていた。グザヴィエ・ユフケンスは、ミルトン・エイブリーの作品を80万ドル(1億2000万円)、ニコラ・パーティーの作品を50万ドル(約7500万円)で販売(その後サザビーズで落札された別のパーティー作品のおよそ4分の1の金額)。ティナ・キム・ギャラリーでは、パシータ・アバドの作品2点が売れた。うち1点は50万ドル(約7500万円)で東南アジアの美術館が購入し、もう1点の販売額は25万ドルから50万ドル(約3750万円~7500万円)の間との回答だった。

ペロタン村上隆の新作《Tan Tan Bo: Wormhole(たんたん坊:ワームホール)》を135万ドル(約2億円)で販売し、マッシモ・デ・カルロではジェニファー・グイディの絵に50万ドルから60万ドル(約7500万~9000万円)の間で買い手が付いた。ギャルリー・ルロンでは、デイヴィッド・ホックニーの作品が81万1000ドル(約1億2200万円)で、ジャウメ・プレンサの作品が40万ドル(約6000万円)で売れている。

タデウス・ロパックで全体の売り上げを押し上げたのは3点の高額作品で、ロイ・リキテンスタインの《Water Lily Pond with Reflections(反射のある睡蓮の池)》(1992)が150万ドル(約2億2500万円)、アレックス・カッツの《Ada by the Sea(海辺のエイダ)》(1999)が90万ドル(1億3500万円)で売れたほか、1989年にロバート・ラウシェンバーグが紙にアクリル絵の具で描いた作品が20万ドル(約3000万円)で中国の美術館に買われている。

この最後の点に集約されているのが、香港アートウィークで見えた先行きへの希望だ。それは中国本土のメガコレクターの復活で、3月26日と27日に話を聞いたディーラーたちは、昨年は不在が目立った中国本土の大物コレクターたちが作品を買い求めていると話していた。その多くは中国の財団や私設美術館の創設者で、彼らへの販売を報告した出展者には、ティナ・キム・ギャラリーやデイヴィッド・ツヴィルナーなどがいる。さらにサザビーズも、29日のオークションの上位5ロットのうち3ロットの買い手が中国本土のコレクターだったことを公表している。(翻訳:野澤朋代)

from ARTnews

あわせて読みたい