重松象平設計の福岡新ランドマークにトマス・サラセーノ新作──地球3周した成層圏気球に着想
福岡市・天神に開業した「天神ビジネスセンターⅡ」で、トマス・サラセーノの大型新作が公開された。太陽熱と空気で浮かぶ気球に着想を得た球体群が、約30メートルの吹き抜けを彩り、化石燃料に頼らない未来を描き出す。

天神一丁目761プロジェクト合同会社と福岡地所株式会社は8月4日、福岡市中央区に「天神ビジネスセンターⅡ」を開業した。地下2階から地上5階までを繋ぐ7層の吹き抜け空間「アクセラリウム」では、トマス・サラセーノによる大型インスタレーション《エアロソーラー・リズムズ(Aerosolar Rhythms)》(2026)が公開されている。
天神ビジネスセンターⅡは、福岡市が進める都心再開発プロジェクト「天神ビッグバン」によって誕生した新たな交流拠点だ。また、アートの力によって都市の成長と生活の質の向上を目指す同市の施策「Fukuoka Art Next」の取り組みの一環として、サラセーノの作品を導入した。重松象平(OMA)が建物のデザインを手がけた地上18階、地下2階建ての複合施設には、オフィスや商業施設のほか、創業支援施設やワーカー向け共用空間などが設けられている。このうち、一般の来街者が利用できる商業ゾーンは地下2階から地上3階に広がる。
トマス・サラセーノは、1973年アルゼンチン生まれ、ベルリンを拠点に活動するアーティストだ。アート、建築、自然科学、社会学を横断し、クモ類の生態研究や、化石燃料に依存しない未来を構想するアート・リサーチ・プロジェクト「Aerocene」などを展開。環境問題や、人間と人間以外の生物との共生を問い直す作品で国際的に知られる。これまでパレ・ド・トーキョーで個展を開催したほか、ヴェネチア・ビエンナーレなど世界各地で作品を発表してきた。
今回発表された《エアロソーラー・リズムズ》は、サラセーノが2015年から継続して展開する「Aerocene」の流れをくむ作品だ。約30メートルの吹き抜けに複数の軽量な球体が吊り下げられ、光や空気の流れ、人々の動きといった周囲の環境に呼応しながら、その表情を変化させる。
サラセーノは公式のインタビュー映像で、作品の着想源のひとつとして、2012年にフランス国立宇宙研究センター(CNES)でレジデンスを行った際に知った「MIR(赤外線モンゴルフィエ)」を挙げている。MIRは、CNESが1970年代後半から開発した長時間飛行用の成層圏気球だ。アルミ蒸着フィルムを用いた上半部と、赤外線を透過する透明な下半部からなる二重構造を持ち、日中は太陽熱、夜間は地表から放射される赤外線によって内部の空気を温め、浮力を得る。
彼はその後、こうした研究を「Aerocene」へと発展させた。2020年にはアルゼンチンのサリナス・グランデスで、太陽熱と空気のみを利用するエアロソーラー・スカルプチャー《Aerocene Pacha》による有人飛行を実現。パイロットのLeticia Noemi Marquésとともに行ったこの飛行では、国際航空連盟(FAI)に認定された32の世界記録を樹立した。サラセーノはこの挑戦を通じて、化石燃料に頼らず、太陽や大気の力によって移動する可能性を示した。
MIRの形態や原理を小型の球体群として彫刻的に読み替えた《エアロソーラー・リズムズ》について、サラセーノは次のように語っている。
「福岡の作品はより小さなスケールで、構成も異なります。この作品が、文化や国、人々を結びつける可能性に向けた一歩となることを願っています。そして宇宙とは、物体が落下しなくなる地上400キロメートル上空から始まるだけではなく、私たちが異なるかたちで生きる方法を学ぶ場でもあるのだと示せればと思います」







