ヴァレンティノ・ガラヴァーニ所有のバスキア作品がオークションへ。予想落札価格は60億円
イタリアファッション界の巨匠、ヴァレンティノ・ガラヴァーニが所蔵するジャン=ミシェル・バスキアの大型絵画が、5月にクリスティーズのオークションへ出品されることになった。落札価格は4500万ドル(約60億円)を超えると予想されている。
出品されるのは、バスキアが1983年に制作した幅4メートル近い大作、《El Gran Espectaculo (The Nile)》(以下、《The Nile》)だ。落札価格の予想通りにいけば、これまでオークションで販売されたバスキア作品の中でも最高の価格帯に達する。
この絵に描かれているのは浮遊する頭蓋骨や人物で、背景にはファラオや古代エジプトの遺跡を暗示する言葉が書き込まれている。また、3つのパートで構成される絵の中央には、古代エジプトの死と復活の神、オシリスに導かれてナイル川を下る黄色い船がある。
《The Nile》は、18年前からガラヴァーニの個人コレクションになっており、2010年に発売されたヴァニティ・フェア誌には、この絵の前に座るガラヴァーニの写真が掲載された。その4年前の2006年、ガラヴァーニはバスキアへのオマージュとして、バスキア財団のライセンスを得たグラフィティプリントのコレクションを発表している。
ちなみに、ヴァレンティノブランドの共同創設者であるジャンカルロ・ジャンメッティは、バスキアが1983年に制作した別の作品を、2021年5月に9310万ドル(当時の為替レートで約101億円)で売却している。
《The Nile》は、ニューヨークのブルックリン美術館で開幕し、各地を巡回した2005年のバスキア展で展示された。同年、サザビーズ・ニューヨークでガラヴァーニが520万ドル(約5億7000万円)で落札したものが貸し出されたと見られる。
今回、同作品は5月15日にニューヨークのロックフェラーセンターで行われるクリスティーズの21世紀アート・イブニングセールで、第三者保証付きで出品される。カタログの記載には、「著名なコレクション」から出品されるとあり、予想落札価格は前述した2005年の落札額の8倍以上だ。
クリスティーズの20世紀・21世紀美術部門長、アレックス・ロッターは、バスキアが22歳でこの作品を完成させたとき、キャリア初期にあった彼の最も重要な問題は「人種というものが歴史的にどう作られてきたかを解き明かす」ことだったと述べている。作品にはスペイン語で「大いなるショー」を意味するタイトルがつけられているが、カンバスの裏側に書かれた言葉にちなんで《The Nile》と呼ばれている。
バスキアの絵は、成功者が自らの富をアピールするためのものと見なす向きもある。アート市場での需要は常に安定していたが、近年はオークションで最高レベルの値がつくようになるなど、バスキアは確立されたブランドとなった。1988年の死から35年を経て、バスキア作品がラグジュアリーの象徴となったことは、今回のオークションでも明らかだ。
《The Nile》は、ポップカルチャーのメインストリームとも言えるテレビドラマ、Showtimeネットワークの「ビリオンズ」シリーズにも複製で登場したことがある。2016年に放映されたこのドラマは、ヘッジファンド界の大物でアートコレクターのスティーブ・コーエンが、著名な弁護士と派手な争いを繰り広げた実話に基づいている。あるインタビューでドラマの制作者は、金融の世界でトップに昇り詰めたことを象徴するラグジュアリーなアイテムとしてバスキア作品を採用し、ドラマの演出に用いたと説明していた。
5月に開催されるオークションの収益の一部は、ローマにあるアカデミア・ヴァレンティノに寄付される。アカデミアはファッションブランド、ヴァレンティノの傘下にはなく、広報担当者によると「アート、ファッション、教育に専念すること」を使命とする組織だ。売却益の一部は、本部に新しいスペースを増設するプロジェクトの資金に充てられる。
クリスティーズの現代アートスペシャリスト、イザベラ・ローリアは、US版ARTnewsにこう説明している。
「ファインアートとラグジュアリーの世界は、歴史的につながっています。特にバスキアは、美術史からストリートアートまで幅広く作品に取り入れたことで、我われが共有している文化的意識に深く刻み込まれています。ある意味バスキアは、未来を見ていたのです。彼が作品に取り入れた要素は、今の時代により重要なものになったと言えるでしょう」(翻訳:清水玲奈)
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