バナナと粘着テープの問題作が盗作疑い! 訴訟続きのマウリツィオ・カテランまとめ

物議を醸す作品で毎度アート界を賑わすアーティスト、マウリツィオ・カテラン。最近では訴訟が相次ぎ、法曹界を巻き込んでの場外乱闘となっている。今後のコンセプチュアル・アートを考える上で大事な内容でもある、2本の記事をまとめてお届けする。

マウリツィオ・カテラン《Him(彼)》(2001)。同作を含む数点の作品に関する訴訟請求が、フランスの裁判所で棄却された Photo Michael Euler/AP

彫刻家が作品の著作者を主張、裁判所は訴えを棄却

フランス人彫刻家のダニエル・ドルエが提訴したのは、カテランが所属するギャラリーのペロタンと、2016年にカテランの展覧会を開催したパリ造幣局博物館だ。彼は、カテラン作品のうち、ひざまずくアドルフ・ヒトラーの彫刻《Him(彼)》(2001)を含む9点の作品について、真の作者は自分だと主張していた

訴えを棄却したパリの裁判所は、カテランに作品制作を手伝うよう依頼されたドルエは、実質的には請負人として作業に携わっていたため、これらの作品の著作者とは言えないと判断。判決文の一部は次のようなものだ。

「ダニエル・ドルエは、当該の彫像を展示する際の演出に関する選択(建物の選択や、それぞれの像を配置する部屋のサイズ、視線の方向、照明、ガラス天井や寄木張りの床を破壊するなど展示をリアルで印象的にするための工夫)にも、こうした演出を通じて伝達されうるメッセージの内容にも関与する立場になかった。また、関与しようと働きかけることもなかった」

ドルエと、カテランの所属ギャラリーの創設者エマニュエル・ペロタンは、ドルエとカテランの間で交わされた契約内容が曖昧であった点については同意。しかし、問題とされた作品の真の作者が誰であるかを判断する際に、そのことが最終的に問題となるかどうかについて、2者の意見は分かれていた。

ル・モンド紙によると、敗訴したドルエはペロタンとパリ造幣局博物館に1万ユーロを支払わなければならないという。また、彼がこの判決を不服とするかどうかは、すぐには明らかにされなかった。

ペロタンの代理人である2人の弁護士、ピエール=イブ・ゴルチエとピエール=オリビエ・シュールは声明で次のように述べている。「今回の判決で、今後コンセプチュアル・アートが法の下で保護されるようになる」


バナナの問題作が盗作で訴えられる

こうして、フランスではとりあえず一件落着ということになったカテランだが、米国では盗作で訴えられている。問題となっているのは、2019年のアート・バーゼル・マイアミ・ビーチに出展された《Comedian(コメディアン)》。本物のバナナを粘着テープで壁に貼り付けたこの作品は、同フェアで騒動を巻き起こした


マウリツィオ・カテラン《Comedian(コメディアン)》 Wiktor Dabkowski/picture-alliance/dpa/AP Images

アーティストのジョー・モーフォードが訴えたのは、カテランのバナナの作品が自分の《Banana & Orange(バナナ&オレンジ)》(2000)の盗作だということだ。モーフォードの作品も、カテランのバナナの彫刻と同じように果物を壁に粘着テープで貼り付けたもの。カテランの弁護団は、この申し立ての棄却を働きかけていたが、フロリダ州南部地区連邦地方裁判所は7月6日、《Comedian》と《Banana & Orange》の間には十分な類似性が認められるため、訴訟の手続きを進めるとの判断を下した。

同裁判所のロバート・N・スコラJr.判事は、7月6日の判決文の中で次のように書いている。「モーフォードは、カテランが《Banana & Orange》を見る機会があったことについて妥当性をもって申し立てなければならない。また、《Banana & Orange》を詳細に吟味し、著作権で保護されない構成要素を差し引いた(あるいはフィルタリングした)上で、それでもなお2つの作品の間に相当の類似性があるということを、妥当性をもって申し立てなければならない」

ジョー・モーフォード《Banana & Orange》(2000) 画像引用元:モーフォードのフェイスブックhttps://www.facebook.com/joemorfordartist/photos/a.936040206435195/934579329914616/?type=3

モーフォードは、作品はフェイスブックとユーチューブで公開されていたと主張しているが、カテランが実際にこれらのソーシャルメディアで作品を見たかどうかは明らかになっていない。また、カテランの代理人にコメントを求めたが、回答は得られていない。

アート・バーゼル・マイアミ・ビーチで《Comedian》が展示された時の観客の反応は、怒りと称賛が入り混じったもので、地元のパフォーマンス・アーティストがバナナを食べてしまうという事件もあった。この作品3点を合計39万ドルで販売したペロタンは、観客が殺到したため、最終的に作品の撤去を余儀なくされている。

なお、《Comedian》の別バージョンは、深センの海上世界文化芸術中心で10月16日まで開催されているカテラン展で展示中だ。(翻訳:野澤朋代)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年7月8日と7月11日に掲載された記事をまとめたものです。それぞれの元記事はこちら(7月8日7月11日)。

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