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ニューヨークのアーティストとギャラリーが南部から強制移送された移民を寄付活動で支援

バイデン政権が不法移民に甘いと反発する米南部の州が、この春から移民希望者を首都ワシントンD.C.やニューヨーク、シカゴといった北部の都市へバスで移送し始めた。9月半ばには、100人以上をハリス副大統領の公邸近くへ送るなど、南北の溝が深まっている。こうした政治的対立の狭間で困窮する移民の支援に、ニューヨークのアーティストが立ち上がった。

ニューヨーク・ブルックリンのルーテル教会に集まった移民希望者 Courtesy Guadalupe Maravilla via GoFundMe

テキサス州のグレッグ・アボット知事は、米国への移民希望者の即時送還を取りやめるとしたバイデン米政権の決定に反発。同州からニューヨーク市へ移送された中南米からの移民希望者は、9月1日現在で少なくとも2000人に上る。そのため市の社会福祉システムは逼迫し、住居、医療、食料など基本的なニーズに対応できなくなっている。ニューヨーク市長のエリック・アダムスは、この状況を「人道的危機」と訴えているが、打開策は見えていない。そんな中、アートコミュニティが結束し、援助のための活動に乗り出している。

アーティストのグアダルーペ・マラビジャと活動家のマリアナ・パリスカは、クラウドファンディング・プラットフォームのGoFundMe(ゴーファンドミー)で移民支援のページを立ち上げ、食料や衛生用品を調達してブルックリンの教会に届けるための寄付を呼びかけている。また、マラビジャが所属するトライベッカのPPOWギャラリーは、9月15日から17日までの間、地下鉄のプリペイドカードや衣類、古い携帯電話などの寄付を受け付ける拠点になった。

テキサス州のアボット知事は4月以来、2021年に発表した10億ドル規模の国境対策「ローンスター作戦」の一環として、米国とメキシコの国境横断を厳しく取り締まり、米国内の「聖域都市」(不法移民に寛容な自治体)に難民を強制移送。これまでに中南米からの移民10万人あまりが、ワシントンD.C.やニューヨーク、シカゴにバスで送り込まれている。

この作戦について、アボット州知事のウェブサイトでは「テキサス州への麻薬、武器の密輸や人身売買を食い止め、国境で国際犯罪行為を防止、探知、阻止する」試みと説明されている。一方、市民権団体や移民のための人権団体は、これは難民に対する懲罰的な行為で人権侵害だと批判。7月には、この作戦による市民権侵害の疑いについて米司法省が調査を開始したと、テキサス・トリビューン紙がプロパブリカ(公益を目的とした調査報道を行う非営利・独立系の報道機関)との共同取材に基づいて報じている。

マラビジャとパリスカのGoFundMeページには「テキサス州知事は、聖域都市と敵対するために難民を政治的な駒として利用している。(中略)難民は今もニューヨーク市に次々到着しているが、すでにシェルターは定員を超えた。数百もの家族が、食料、水、医療・衛生用品を持たずに、テキサスから45時間かけてバスで移送されている」と書かれている。

1980年代に難民としてエルサルバドルからニューヨークにやってきたマラビジャとパリスカは、ブルックリンにある「よき羊飼いのルーテル教会」のフアン・カルロス・ルイス牧師と協力して活動を行っている。同牧師は以前から不法滞在者の支援で知られ、コロナ禍でも幅広い救済活動を指揮した。また、強制送還の危機にある難民に社会的支援を提供するキリスト教の聖職者、弁護士、活動家の団体、ニュー・サンクチュアリ・ムーブメントの共同設立者でもある。

マラビジャはアートニュースペーパー紙にこう語った。「教会ではボランティアたちが難民を迎え入れ、温かい食事と必要なケアを提供していますが、資金はゼロです。教会は大人数を収容できるようにできていません。トイレや暖房は2度故障しました。私たちは寄付金を使って修理をしたり、自分たちの手で必要なものを作ったりしていますが、ベッドも枕も毛布もない状態で、食事はボランティアが作っています。夜間の警備員など、他にも必要なことはたくさんあるのですが……」

PPOWギャラリーの運営者は、所属アーティストであるマラビジャを通してルイス牧師が主導する難民支援活動を知り、参加するようになったという。同ギャラリーのアソシエート・ディレクター、エラ・ブランションはARTnewsにこう語った。

「グアダルーペ(・マラビジャ)と仕事をする中で、牧師の活動が不法滞在者のコミュニティに大きな恩恵をもたらしていることを直接目にしてきました。難民のコミュニティは政治的な争いの中で格好の標的になっているため、自活の手段を持たない人たちを支援する私たちのネットワークを活性化することが、これまで以上の急務になっています。予想以上の支援が寄せられていることに驚いていますが、同時にここから同じような取り組みが生まれることを期待しています」(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年9月15日に掲載されました。元記事はこちら

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