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  • 2022.08.25

コロナ禍にフェルメール作品を徹底解析。驚きの発見は米ナショナル・ギャラリーの展覧会で

ワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー(以下、NGA)は、ヨハネス・フェルメールが描いたとされる絵画4点について長期にわたる調査を行った。結果は10月に始まる展覧会で発表される(会期:10月8日〜2023年1月8日)。

ヨハネス・フェルメール《赤い帽子の女》(1666-67頃) Courtesy National Gallery of Art, Washington, DC

Vermeer’s Secrets(フェルメールの秘密)」と題された展覧会では、NGAが所蔵する作品のうち、真贋が問題になっている《赤い帽子の女》と《フルートを持つ女》(1665-75頃)、およびフェルメールによるオリジナルと認められている2点と、贋作2点が展示される予定だ。

NGAのキュレーターで、北部ヨーロッパ絵画部門責任者のマージョリー・ウィーズマンによると、この展覧会の目的は「何がフェルメールをフェルメールたらしめるのか」を探ることにあるという。

2020年、NGAはコロナ禍でのロックダウンを利用し、展示から滅多に外されることがない4点の絵画を、フェルメールの制作プロセスを解析するために同館の保存修復スタジオへ移動。そこで行われた調査は、顔料の層構造を分析する高度な画像処理技術と絵画表面の顕微鏡検査を組み合わせたものだ。

調査の過程で、《赤い帽子の女》の下には別の絵があったことが明らかになった。元々は男性の肖像画だったものを、フェルメールが描きかえたのだ。フェルメールの作品は肖像画がほとんどなく、女性が何か動作をしている瞬間や物思いにふけっているところを好んで描いている。それを考えると、驚くべき発見だろう。


《フルートを持つ女》(1665-75頃) Courtesy National Gallery of Art, Washington,

一方の《フルートを持つ女》は、1906年に発見され、42年にNGA創設を後援した1人、ジョセフ・ワイドナーから寄贈されている。しかし、50年にフェルメール研究の権威であるピーター・スウィレンスがこの絵画の真贋を疑い、歴代の専門家たちも彼の考えを支持してきた。

90年代には、NGAのキュレーターでフェルメールの専門家であるアーサー・ウィーロックもこの絵を疑問視し、「フェルメールの作とされる」ものとした。しかしウィーロックは、2018年の引退後にスタンスを変え、NGAのオンラインカタログで「《フルートを持つ女》をフェルメールの作品でないとするのは、この絵に関する複雑な保存上の問題を考慮すると、行き過ぎた判断だという結論に至った」と書いている。

真贋調査の最終的な結果は、10月8日の展覧会のオープニングに先立って発表されることになっている。


《天秤を持つ女》(1664頃) Courtesy National Gallery of Art, Washington,

この展覧会では、NGAがフェルメール作と認めた《天秤を持つ女》(1664頃)と《手紙を書く女》(1665頃)も展示される。《天秤を持つ女》の分析では、素早く、おおらかで、粗い質感のストロークが下層から発見された。これは、全ての筆跡が絵の表面に滑らかに溶け込んでいる完成作品とは非常に異なっている。NGAは声明で、「この発見は、労を惜しまず時間をかける完璧主義者だという一般的なフェルメール像に疑問を投げかけた」としている。


フェルメールの贋作《レースを編む女》(1925) Courtesy National Gallery of Art, Washington,

10月に開幕する展覧会では、明らかな贋作2点もNGA所蔵の4点と並んで展示される。パリのルーブル美術館が所蔵する《レースを編む女》(1669-70頃)を真似たものと、《The Smiling Girl(笑顔の少女)》だ。どちらも1925年ごろに制作されたと考えられる。37年にNGA設立の発案者、アンドリュー・メロンから寄贈され、80年代にNGAはこの2点を偽物と判断している。

4点の絵画は、ナショナル・ギャラリーでの展覧会終了後、アムステルダム国立美術館で行われるフェルメールの回顧展へ巡回する。(翻訳:平林まき)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年8月16日に掲載されました。元記事はこちら

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