ポール・アレンの遺産、ボッティチェリの聖母像が4000万ドルでクリスティーズで売却へ。
マイクロソフトの共同設立者である故ポール・アレンがかつて所有していたサンドロ・ボッティチェリの聖母マリア像が、今年11月にクリスティーズでオークションに掛けられる。落札額は4000万ドル(約59億円)以上と同社は予想しており、競売に掛かるアレンの遺産の中でも最も高額な作品のひとつとなる。
クリスティーズは8月下旬、アレンが所有していた10億ドル(約1470億円)の美術品の売却計画を発表し、話題を呼んだ。売却予定作品には、クロード・モネ、ジョージ・スーラ、ジャスパー・ジョーンズ、ポール・セザンヌらが挙げられた。売却益は、アレンが2018年に65歳で亡くなる前に設立していた慈善活動に充てられる予定だ。
クリスティーズ・ロンドンの古典絵画の専門家アンドリュー・フレッチャーは、聖母像を「壮大かつ親しみやすい」と評し、「芸術家としてのボッティチェリの一般的な概念を定義する一枚だ」とARTnewsに語る。
直径24インチ(約61センチメートル)のこの絵は「マニフィカトの聖母」と題され、ボッティチェリの工房が成功していた1480年代後半に制作された。クリスティーズの専門家は、裕福なパトロンが、礼拝用に私邸に飾るために注文した可能性が高いと見ている。ボッティチェリによる類作は、フィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されている。
この作品は、アレンが1999年に価格非公開の個人取り引きで入手以来、プライベートコレクションになっていた。
「マニフィカトの聖母」は、これまで美術館の展覧会で広く紹介されてきた。最後に登場したのは、2020年の展覧会「肉と血:シアトル美術館のイタリア名画」。アレンのコレクションに入る前、1960年から1978年までは、ロンドンのナショナル・ギャラリーに長期貸与され展示されていた。
ボッティチェリの絵画は、市場で再販されれば、巨万の富を生む可能性がある。2020年には、故シェルドン・ソロウのコレクションから「ラウンドエルを持つ青年の肖像」がサザビーズで売りに出され、記録的な9200万ドル(約96億円)で落札された。今年1月には、ボッティチェリの「悲しみの人」(1500年頃)という、いばらの冠を被ったキリストの肖像画が4550万ドルで売却された。
「マニフィカトの聖母」が落札予想額に届けば、ボッティチェリ作品のオークション売却トップ3に入ることになる。
フレッチャーによると、ボッティチェリの重要作品のうち、個人所有は「ごくわずか」という。
今回、ボッティチェリ作品は、落札価格1億ドル以上と予測されるスーラやゴッホと並んで登場する。
フレッチャーは、古典絵画市場にとっても、アレンの遺品競売は重要なセールになりそうだと述べる。「ボッティチェリは、19世紀、20世紀の美の巨人たちと肩を並べることになる」と彼は言う。「それは、普通なら(古典に)見向きもしなかった(近現代アートファンの)コレクターたちの前に、ボッティチェリとその作品を押し出すことだ」
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年10月7日に掲載されました。元記事はこちら。