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初開催ART SGのベストブース7選。大胆な抽象画や消費社会の風刺、ネズミにかじられたような作品も!?

第1回ART SGが、数度の延期を経てついに開催された。プレビューが行われた1月11日は、シンガポールでは2018年以来の大規模アートフェア開幕という記念すべき日になった。そこで注目されたギャラリーや作品を紹介しよう。

第1回目のART SGプレビューの様子。Photo: Debbie Y

ART SGの会場は、シンガポールを象徴するマリーナペイ・サンズ展示ホールの2フロア。160を超えるギャラリーは熱気に包まれ、人気のブースはコロナによる渡航制限が緩和された中国から訪れた人々を含め、大勢の来場者で混み合っていた。

初日の売上を発表したギャラリーもいくつかある。メガギャラリーのガゴシアンは、2022年11月に死去したアシュリー・ビカートンの作品を2点、彼が長く拠点としていたインドネシアのジャカルタにある美術館、Museum MACANに売却。また、エリック・ファイアストーン・ギャラリーのブースでは、FUTURAとして知られるグラフィティ・アーティストのレオナルド・ヒルトン・マクガーがファンのためにサイン会を行っていた。

以下、ART SG 2023のベストブースをリストアップした(各見出しは、アーティスト名/ギャラリー名の順に表記)。

1. Anila Quayyum Agha/Sundaram Tagore

Anila Quayyum Agha《Hidden Diamond – Saffron》(2022) Photo: Karen K. Ho/ARTnews

57歳のパキスタン系アメリカ人作家Anila Quayyum Aghaのインスタレーションは、ART SGで最も印象的な作品の1つだ。《Hidden Diamond – Saffron》と題された作品は、レーザーで文様をくり抜いた金属板を組み合わせた立方体と光を使った彫刻。複雑な花柄とスペインのアルハンブラ宮殿を参照したイスラム的モチーフを投影するカラフルで没入感のあるインスタレーションは、瞬く間に来場者を惹きつけていた。

Aghaの作品はほかにも、紙にビーズを刺繍した《Kaaba (Blue and Pink) 》という手の込んだものがある。また、韓国のアーティストChun Kwang Youngや、1995年に第46回ヴェネチア・ビエンナーレの絵画部門でアジア人として初めて名誉賞を受賞した千住博の作品も出展されている。

2. KEA TSAI/ホワイトストーン・ギャラリー

ステッカーをモチーフにしたKEA TSAIの作品 Photo: Karen K. Ho/ARTnews

ホワイトストーン・ギャラリーのブースでは、台湾のグラフィティ・アーティスト、KEA TSAIの作品を出展。2022年に同ギャラリーで開催されたTSAIの個展で発表されたもので、ステッカーをモチーフに、資本主義やブランド崇拝などのテーマをドラマチックかつユーモラスに表現している。

ストリートカルチャーにインスパイアされた作品は、ミッキーマウスやシュプリームの破れたロゴ、コストコの会員証(展示作品では「Costco Wholesale(コストコ・卸売)」をもじって「Cocaine Wholesome(コカイン・健康的)」となっている)など、長く人々に親しまれてきた有名なデザインを、抗うつ薬や十字架上のイエス・キリスト、銃と弾丸などに重ねている。ちなみにKEAは、IKEAのロゴから「I」を抜いたマークをサインとして使っている。

3. Park Minjoon/Gallery Hyundai

Park Minjoon《X》 Photo: Karen K. Ho/ARTnews

韓国人アーティストPark Minjoonは、古典的な絵画技法を用いながらドラマチックで奇抜な情景を描く。シュルレアリスム風の作品《X》では、サーカスを思わせるカラフルな縞模様の柱がドイツの噴水の背後に描かれている。それは竜巻状に空と地面を結ぶ幻想的な円柱だ。また、やはり韓国の画家Kim Sung Yoonが、動物の剥製やジョン・シンガー・サージェント(*1)をゾンビハンターとして描いた作品などが出品されている。


*1 19世紀後半から20世紀初頭にかけて活動したアメリカの画家。上流社交界の人々を描いた優雅な肖像画で知られる。

4. Tseng Kwong Chi/Eric Firestone Gallery

Tseng Kwong Chiの作品 Photo: Karen K. Ho/ARTnews

このブースでは、1980年代のニューヨークを撮影したTseng Kwong Chi(1990年没)の印象的な写真が6点、出品されている。写真家、そしてコンセプチュアル・アーティストとして活躍したChiは、ジャン=ミシェル・バスキアキース・ヘリングアンディ・ウォーホルといった同時代のアーティストたちの姿を、彼らの自宅やスタジオ、地下鉄の中などで撮影した。展示作品は、アメリカ美術史の一コマを切り取った親密なスナップショットを大きく引き伸ばしたもので、伝説的作家たちの静かでプライベートな瞬間を捉えている。

5. グオリャン・タン/オオタファインアーツ

オオタファインアーツのブースの中央に展示された、グオリャン・タンの抽象画。Photo: Karen K. Ho/ARTnews

グオリャン・タンはシンガポール出身の作家。その抽象画は、薄い半透明の布に描かれている。木枠に貼られた布は専用の台座の上に設置され、どちら側からも鑑賞できる仕掛けだ。反対側から透けて見える影や、さまざまな色調のグラデーションが重なり合う様子は、静寂に満ちた奥行きのある空間を感じさせる。

6. Zhao Zhao、Wang Xiyao/Tang Contemporary Art

Zhao Zhao(左)とWang Xiyao(右)の作品。Photo: Karen K. Ho/ARTnews

Tang Contemporary Artには、大胆な色彩と動きを表現した2点の大きな作品が出展された。油絵《Sky》はZhao Zhaoが2009年に制作を開始したシリーズからの1点。このシリーズは、彼がこれまで住んできたさまざまな街の空の色を観察して描いたもので、展示作品の鮮やかなプルシアンブルーはエネルギーと変化を象徴している。また、スモッグで空が霞んでいる北京では滅多に見られない色だということも、特別な意味を持っている。

青のモノトーンで描かれたこの作品の隣にあるのは、ベルリン在住の中国人アーティスト、Wang Xiyaoの抽象画《Autumn Wishes No.1》だ。こちらはZhao Zhaoと対照的に、多くの色彩を使って激しく躍動するエネルギーが表現されている。

7. Tursic & Mille/Almine Rech

Tursic & Mille《Still life, eaten by the mouse》(2021) Photo: Karen K. Ho/ARTnews

Tursic & Milleの《Still life, eaten by the mouse》は、絵画がネズミに食い荒らされたらどうなるかを表現した、いたずら心あふれる作品だ。2019年のマルセル・デュシャン賞にノミネートされたこの2人組が共同制作を始めたのは、20年以上も前のこと。彼らは、映画や雑誌、小説などを引用した作品を多く発表している。(翻訳:野澤朋代)

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