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パリ・ファッションウィーク、バレンシアガの泥だらけのショーはアート界の“問題児”、サンティアゴ・シエラがデザイン。元カニエ・ウェストYeがモデル出演

  • 2022年10月7日
  • INTERNATIONAL

Text: Alex Greenberger

10月2日(現地時間)、パリ・ファッションウィークのバレンシアガのショーが、泥だらけのランウェイで行われた。会場をデザインしたのは、挑発的な作品で常に物議を巻き起こすスペインのアーティスト、サンティアゴ・シエラだ。これに対し、ファッション界、アート界から賛否さまざまな声が上がっている。

バレンシアガのパリ・ファッションウィークのショーに出演したイェ Courtesy Balenciaga

バレンシアガのショーには、ニューヨーク・タイムズ紙のヴァネッサ・フリードマンなど、ファッション評論家からの称賛が寄せられた。フリードマンの記事によれば、シエラが作ったセットには、フランスの泥炭地からトラックで運んできた275立方メートルの泥が使われたという。

これについてバレンシアガのアーティスティックディレクター、デムナ・ヴァザリアは、客席に置いたメモに「真実を掘り起こし、地に足をつける」という意味を込めたと書いている。

フリードマンはまた、記事でこう評している。「デムナにとって、クチュールはバレンシアガのレガシー(遺産)を用いた実験である一方、プレタポルテは社会批判の手段になっている。世の中は汚れている。だから泥だらけのショーを見せたのだ」

このショーにモデルとして出演したのが、ラッパーのイェ(Ye、カニエ・ウェストから改名)だ。バレンシアガのロゴが刺しゅうされたマウスガードやレザーパンツなど、重厚感のある黒ずくめのコーディネートで泥道を闊歩し、オープニングを飾った。

ショーでは他にも、腕をすっぽり通せるスリーブのある大ぶりのバッグや、バレンシアガのロゴが裾にプリントされた下着とボディス(コルセットのように身体にピッタリしたベスト状のもの)の組み合わせなど、奇抜なアイテムが多数披露されている。

シエラによるショーのセットは、対立の時代であっても美と革新は可能だというメッセージを示しているようにも見える。しかし、バレンシアガの「戦場シック」とでも言うべき演出については、ネット上に賛否両論があふれた。中には、どこまでの挑発が許容されるか試しただけという声もある。

ツイッターに、「バレンシアガの社会実験はあまりにも長く続き過ぎ」とポストしたのはkiraというアカウント名のユーザー。その投稿には2万件の「いいね」がついた。

ソーシャルメディア上では、アート界の一部がシエラの会場デザインに憤慨しているのも見受けられる。ベルリンの新ナショナルギャラリー館長、クラウス・ビーゼンバッハがインスタグラムでシエラを称賛したところ、そのポジティブな評価に異議を唱えるコメントの嵐になったのだ。ビーゼンバッハのコメントには、「戦争ではなく愛を」というデムナのメッセージは時代を象徴していると書かれていた。

これに対し、アートディーラーのロビー・フィッツパトリックは「『戦争ではなく愛を』だって? 世界有数の攻撃的なナルシストで、ファシストのSWATユニフォームに身を包んだトランプ支持者を、ショーの冒頭に登場させることが?」とコメント。

やはりアートディーラーでコレクターでもあるステファン・シムコウィッツは、「新自由主義的なグローバリズムマシンは絶好調だ」と書いている。「行く手にあるもの全てを食い物にしてひたすら売りまくる。ハリケーンのように、進む先にあるものを全て破壊するのだ。1950年代の冷戦下のバレンシアガの方が私は好きだ」

ビーゼンバッハ館長のインスタグラムには、シエラが先住民文化を搾取しているという以前からの批判に触れたコメントがいくつも寄せられている。この批判は、2021年に行われたオーストラリアのアートフェスティバル、ダークモフォでシエラが作品のために先住民の献血を求めたプロジェクトの騒動に端を発している。英国の植民地主義に対する意見表明のため、英国の国旗を先住民の血に浸すという作品だったが、ダークモフォ側は抗議の高まりを受けてこのプロジェクトを中止した。

シエラのアートは、過去にも激しい批判を引き起こしている。18年には、スペインのアートフェア、アルコ・マドリードで、投獄されたカタルーニャ人の写真にモザイクを入れた《Presos politicos en la España contemporánea(現代スペインの政治犯服役者)》が、他の展示作品の視認性を損なうという理由で撤去された。また、06年には、ドイツのケルン近くの街、プルハイムのシナゴーグに自動車の排気管を連結してガス室に見立てた作品でドイツのユダヤ人社会から猛反発を受け、やはり公開中止となっている。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年10月3日に掲載されました。元記事はこちら

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