NFTアートが表舞台に躍り出た2021年、何が起きたのか?
NFTの登場は2014年だが、2021年には大ブレイクしてメインストリームの仲間入りを果たした。この一年でアート界を始めさまざまな業界に破壊的な変化がもたらされ、NFTのアートシーンは急速な進化を遂げている。以下、NFT元年とも言うべき2021年の特筆すべき出来事を時系列で振り返る。
1. CryptoPunks(クリプトパンクス):NFTアートブームの祖
2017年にマット・ホールとジョン・ワトキンソンが制作し、リリース当初は無料で配布されていた「CryptoPunks(クリプトパンクス)」。ピクセル化された1万の顔で構成されるこのシリーズは、最初期のNFTアートの一つとされる。2021年1月に価格が上がり始め、一部の作品が100万ドルの大台に乗るとすぐに、それ以下の金額で購入することはほぼ不可能となり、中には1100万ドルを超えるものもあった。
「CryptoPunks」は2021年を通してNFTの顔となり、NFTがステータスシンボルになったことを象徴する存在となった。アニメ「リック・アンド・モーティ」の共同制作者、ジャスティン・ロイランドによるNFTアート作品や、「Hashmasks(ハッシュマスクス)」シリーズなども2021年1月に注目を集めたが、「CryptoPunks」のようなアイコニックな地位を獲得するまでには至っていない。
2. Nyan Cat(ニャンキャット):インターネットミームとクラブハウス
2011年にクリス・トレスが制作したYouTube動画「Nyan Cat(ニャンキャット)」は、次々に生み出される大量のコンテンツの中で突出したバイラル動画となった。インターネット史に名を残す「Nyan Cat」だが、そのNFT版が2021年2月19日、NFTプラットフォームのFoundation(ファンデーション)で、300イーサリアム(当時の59万ドル相当)という高値で販売された。
その頃は、よく分からないが興味をそそられるテクノロジーとしてNFTの存在が知られつつあり、アート界がNFTとは何か、アートマーケットにどんな影響を与えるかについて理解し始めたところでもあった。ちょうど音声SNSのクラブハウスが一時的に流行した時期と重なったため、当時はクラブハウスでNFTの知識を得ようとする動きが盛んだった。しかし、クラブハウスが幅広い層に広まるより早く、「Nyan Cat」人気がきっかけとなってNFTに関するテキストでの解説が一般的になっていった。
3. Beeple(ビープル):NFTアートのブレイクスルー
2021年3月11日、クリスティーズのオークションで、ビープルことマイク・ウィンケルマンのNFT作品《Everydays: The First 5,000 Days(エブリデイズ:最初の5000日)》が6900万ドルで落札されたのは、まさに歴史の流れを変える出来事だった。この天文学的な価格は、存命アーティストとしては世界第3位の記録だ。すでに専門のマーケットプレイスではNFTアートに高値が付き始めていたが、大手オークションハウスがNFTを出品したのは、これが初。そしてこの結果は、当時ネット上のニッチな存在に逆戻りしそうだったNFT市場に、権威と正当性を与えることになった。
さらに、記録的な高値での落札は、NFTが一過性のブームではないことを示し、堰(せき)を切ったようにNFTというリスキーな市場への参入が起きた。2021年に初めてNFTを購入した、あるいは仕事をやめてNFTのスタートアップに参加した、という人の中には、NFTに本腰を入れようと決意したきっかけとして、この落札のニュースを挙げる人も多い。
4. Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ): JPEGの夏とPFP NFTブーム
1万点のエイプ(類人猿)の絵で構成される「Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ、略称BAYC)」のローンチは2021年5月。毛の色やアクセサリー、表情の異なるエイプたちが登場する一連の作品は、NFT市場の話題をさらうだけでなく、市場の流れを作るものにもなった。作者はゴードン・ゴナー、ガーガメル、ノー・サス、そしてエンペラー・トマト・ケチャップ(言うまでもなく、いずれも本名ではない)。
「BAYC」は、大人気のNFTシリーズ作品「CryptoPunks」を模しつつ、コミュニティという重要な要素が加えられている。エイプを所有すれば、専用のディスコード(Discord)チャンネルに参加してコレクター同士のチャットやネットワーキングを行うことが可能で、所有するエイプをツイッターのアバターとして使用することもできる。また、人気が高まるにつれ、「BAYC」はさらに多くの特典を提供するようになった。たとえば、NFT. NYCやアート・バーゼル・マイアミ・ビーチといった大型イベントでパーティーを開催したり、コレクターの会合や特別企画を実施したりしている。個々のエイプは数百万ドルにまで価格が高騰し、クリスティーズやサザビーズなど様々なオークションに出品されるようになった。
「BAYC」の成功に続けとばかりに、同じ路線のNFTアートシリーズが次々と現れた。それらは、ソーシャルメディアのアバターとしても使えるポートレート作品で構成されることから、Profile-Pic NFT(プロフィール画像NFT)またはPFP NFTと呼ばれるようになった。その大半は「BAYC」のように動物の絵柄を採用している。2021年夏にはPFP NFTがNFT市場を席巻し、あまりに活発な取引が行われたことから、「JPEGの夏」と呼ぶコレクターもいた。PFP NFTは、NFTコミュニティの顔、さらにはNFT市場の顔となったが、PFPのようなものがNFTの主流になるのは、NFTに芸術的価値がないことの証拠だと一部の批評家は主張している。
5. Fidenza(フィデンツァ):ブロックチェーン技術のアート的応用
エリック・カルデロンが、ArtBlocks(アートブロックス)を起業したのは2020年秋のこと。彼は、以前からジェネラティブアート(*1)の愛好家であり、掲示板型ソーシャルサイトのReddit(レディット)で暗号化に関するスレッドをよく読んでいた。そして、ロックダウンでできた空き時間を利用して立ち上げたのが、アーティストがジェネラティブアートのNFTを制作・販売できるプラットフォームだ。ArtBlocksは、アーティストがコードをアップロードし、購入者が作品を受け取るという仕組みで、ミント(*2)が行われた瞬間に唯一無二の作品となる。
ArtBlocksは、単にデジタルアートを販売するだけのプラットフォームではなく、ブロックチェーン技術を最大限に活用し、デジタルアートの質を高めていくことを可能にしている。カルドロンはARTnewsの取材に対し、こう答えている。「ArtBlocksでは、アーティストがアルゴリズムのすべてのアウトプットを自分の署名入りの作品としなくてはいけないので、完璧なものになるまで何度もアルゴリズムを調整しなければなりません。自分がいいと思うアウトプットだけを選ぶことはできないんです。偶然性を織り込むジェネラティブアートでは、どんな作品が生成されるかわからないうちに、世に誇れるような作品が創造されていることもある。この仕組みによってアルゴリズムのレベル向上という効果がもたらされるわけです」
ArtBlocksは2021年初頭のNFTブームで一定の成功を収めたのち、同年8月にはアーティストのタイラー・ホッブスが制作した「Fidenza(フィデンツァ)」シリーズが大ヒットして毎日数百万ドルの取引が行われ、驚異的な収益を達成した。ブロックチェーン技術やソフトウェアを用いたアートは以前から存在していたが、アートの制作現場にブロックチェーン技術の持つ可能性を取り入れ、NFTシーンの主流における成功につながったのはこれが初めてのことだ。ブロックチェーン技術を革新的なやり方で活用する他のアーティストからも、ArtBlocksは支持を集めている。
6.《White Male for Sale(白人男性売ります)》:NFTと非代替性の意味
ドレッド・スコットは2021年9月、初のNFT作品《White Male for Sale(白人男性売ります)》を制作した。多くのNFTアートが、単にアーティストが自分の過去の作品をNFTとして販売したり、デジタルアートの形に応用したりするものであるのに対して、スコットの作品はNFTの概念やテーマが示唆することを取り込んだものになっている。
忙しないブルックリンの道端で木箱の上に立つ白人男性の映像がループで流れる《White Male for Sale》は、「非代替性トークンを持ち、アートを買い、そして突然非代替的なものになることについて語るというコンセプト」に取り組んだ作品。スコットはアーティストステートメントで、狙いは「奴隷制度と資本主義の歴史」について語ることだったと説明している。他の多くのアーティストのNFTがギミックに終始する中、NFT市場へのアーティストの関わり方の基準を示したこの作品は、ARTnewsが選ぶ2021年の重要作品の一つだ。
7. アート界にNFTマーケットが登場
世界のアートギャラリーやオークションハウスは、2021年の年間を通して積極的にNFT市場に取り組んだ。同年秋には国際的なメガギャラリーのペース・ギャラリーと大手オークションハウスのサザビーズが、NFT専用のプラットフォームを立ち上げて注目を集めている。
ペース・ギャラリーのNFTプラットフォームPace Verso(ペース・バーソ)は10月にローンチされ、グレン・カイノとスタジオ・ドリフトの作品を扱っている。サザビーズのメタバースは11月、パク、MoonCats(ムーンキャッツ)、CryptoPunks、ArtBlocksといった人気の高いアーティストやプロジェクトによるNFT作品のオークションを開始した。クリスティーズはまだNFTに特化したプラットフォームは立ち上げていないものの、12月には大手NFTマーケットプレイスのオープンシー(OpenSea)と共同でオークションを行っている。
8. NFT.NYC:NFTのリアルイベント開催
2021年11月の第1週、NFTのカンファレンス、NFT.NYCが実施された。その一環で、世界中からNFTコレクターやマニアなどが集まり、ニューヨークでリアルイベントを行った。NFTのコミュニティは世界で膨大な人数が参加するエネルギッシュなものだが、ふだんはもっぱらオンラインで交流している。
4日間の会期で行われたNFT.NYCは大規模なオフラインミーティングのようで、コレクターや愛好家たちが、NFTアートの最近の人気や価格の沸騰ぶりを話題に盛り上がった。ニューヨーク各所の貸し切り会場で招待客限定の豪華なパーティーが行われ、フィンテック業界やクリプト業界の関係者、デジタルアーティスト、起業家の奇才らが一堂に会し、セレブリティも姿を見せるなど、NFTの資金力が目に見える形で示された史上初のイベントになった。
9. パク《Merge(統合)》:コンセプトとコマースの衝突
デジタルアーティストのパク(Pak)は、2021年の年間を通して好調な売り上げを記録していたが、12月初めに《Merge(統合)》でこれまでの記録を塗り替えている。これは約25万点の「マスユニット」で構成される作品で、12月2〜4日にNFTプラットフォームのNifty Gateway(ニフティゲートウェイ)で行われたオークションで合計9180万ドルを売り上げた。しかし、価格以上に注目に値するのは、ブロックチェーン技術を用いて制作されたユニークな巨大コンセプチュアル・アート作品であるという点だ。Nifty Gatewayは、これらのマスユニットの販売後、各購入者のマスユニットを統合したNFTとしてミントしている(たとえば、100点のマスユニットを購入した買い手と、1万点のマスユニットを購入した買い手とでは、異なるNFTを所有することになる)。
さらに、《Merge》のNFTが、すでに《Merge》のNFTを所有する別の人に転売されると、購入者のウォレットの中にある《Merge》のNFTと統合されるため、転売されるごとに《Merge》のNFTの全体量は減っていく。この作品の落札結果を受けて、Nifty Gatewayは、パクを「ジェフ・クーンズを超えて最も高値が付いた存命アーティスト」と持ち上げているが、オークションが通常とは異なる形式で行われたことから、市場関係者の中には異論を唱える向きもある。とはいえ、今回の落札は少なくとも、NFTアートの需要が高まる一方であることを如実に示している。(翻訳:清水玲奈)
※本記事は、米国版ARTnewsに2021年12月21日に掲載されました。元記事はこちら。