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家にあった宗教画が32万ドルになり介護費に。ウクライナ支援でクーンズ作品が1260万ドルで落札。女性作家の好調な落札続く~6月のオークション記事まとめ

ARTnewsが6月に報じたオークション情報をまとめてお届けする。イギリスでは、90歳の女性宅にあったルネサンス期の絵画が、オークションで約32万ドルで競売され、彼女の介護資金に充てられるという。ウクライナ兵の医療支援のために同国出身の大富豪ピンチュクが出品したジェフ・クーンズの「バルーン・モンキー」は約1260万ドルで売却された。また、女性作家の作品が見積額を大きく超えて落札される傾向は6月も続いた。主な高額落札は、フランシス・ベーコンが描いたルシアン・フロイドの肖像画が約5200万ドル、イブ・クラインの絵が約3340万ドル、ルネ・マグリットの絵が約1970万ドル、ウォーホルの自画像が約1550万ドル、モネの風景画が約1430万ドル。女性作家では、フローラ・ユクノビッチの絵が約210万ドル、レオノーラ・キャリントンが約170万ドル、ポーリーン・ボティの絵が約150万ドル、シモーヌ・リーの彫刻が約88万ドルと約75万ドル、シャラ・ヒューズの絵が約69万ドル、アンナ・ウェイアントの絵が約57万ドルと約49万ドルで落札された。

フィリッピーノ・リッピの弟子による《Depiction of the Madonna and Child(聖母子像)》、カンバスに油彩、金箔の額、20×17インチ COURTESY DAWSONS AUCTIONEERS, LONDON

家からお宝、ルネサンス期の絵画が32万ドルで売られ、介護費用に

90歳女性の自宅寝室にあった宗教画が、ロンドンのドーソンズ・オークショニアで25万5000ポンド(約32万1000ドル)で売られた。絵は「聖母子像」。15~16世紀に、イタリア・ルネッサンス期の画家フィリッピーノ・リッピの弟子が描いたとされる。リッピ自身の作かも知れない。リッピはルネサンスを代表する画家フラ・フィリッポ・リッピの息子で、ボッティチェリに師事し、メディチ家のお抱え画家だった。

絵の持ち主は認知症で、昨年老人ホームに入った。介護費用を賄うために自宅を売却することになり、家財道具を鑑定してもらっていた。女性はイタリア出身で、父から30年前にこの絵を相続していたが、価値は知らなかったという。売却益は女性の介護費用に充てられる。鑑定責任者は「天の恵みだ」と話している。

※この記事は、米国版ARTnewsに2022年6月8日に掲載されました。元記事はこちら



ジェフ・クーンズ《Balloon Monkey (Magenta)(バルーン・モンキー〈マゼンタ〉)》(2006-13)

クーンズの「バルーン・モンキー」、ウクライナ支援のため約1260万ドルで売却~クリスティーズ

クリスティーズは6月28日、ロンドンとパリで近代と現代アートのオークションを開き、計2億5000万ドル(手数料込み)を売り上げた。ウクライナ兵の医療支援のために同国出身の大富豪、ビクトル&オレナのピンチュク夫妻が出品したジェフ・クーンズの《Balloon Monkey (Magenta)バルーン・モンキー(マゼンタ)》は、1000万ポンド(約1260万ドル)で落札された。購入したのは欧州の別のメガコレクターで、アート界での更なる慈善活動の必要性を訴えた。
イブ・クラインの《Anthropométrie de l’époque bleue (ANT 124)》(1960年) COURTESY CHRISTIE'S

イブ・クラインの1960年の絵《Anthropométriedel'époquebleue(ANT 124)》は、最終価格2700万ポンド(約3340万ドル)で落札された。ルネ・マグリットの《Souvenir de voyage(航海のお土産)》(1962~63年)は落札予想価格500万ポンド(約600万ドル)の3倍以上となる1600万ポンド(約1970万ドル)で売却された。落札予想を大幅に上回った例には、アーニー・バーンズの《Main Street Pool Bar(大通りのプールバー)》(1978年)もある。最終価格は150万ポンド(約180万ドル)と、予想価格8万ポンド(約9万7000円)の20倍近かった。



ルネ・マグリット《Souvenir de voyage(航海のお土産)》(1962~63年)

女性アーティストでは、ヴェネチア・ビエンナーレで米国館ディレクターを務め、金獅子賞を受けたシモーヌ・リーの彫刻《Untitled V (Anatomy of Architecture series)(無題5〈建築の解剖学シリーズ〉》が推定最終価格72万4500ポンド(約88万ドル)で売却された。ガゴシアン所属のアンナ・ウェイアントの絵画《Ingrid with Flowers(花を持つイングリッド)》(2019年)は、40万3000ポンド(約49万ドル)と、見積もり15万ポンドの2倍以上で落札された。女性シュルレアリスト、レオノーラ・キャリントンの《Ferret Race (Stoat Race)(フェレットの競争〈オコジョの競争〉)》は140万ポンド(約170万ドル)で落札された。

※この記事は、米国版ARTnewsに2022年6月28日に掲載されました。元記事はこちら



フランシス・ベーコン《Study for Portrait of Lucian Freud(ルシアン・フロイドの肖像画のための研究)》(1964年) COURTESY SOTHEBY'S

ベーコンが描いたフロイドが5200万ドルで落札~サザビーズ

サザビーズは6月29日、近現代美術のオークションを開き、手数料込みで計1億4900万ポンド(約1億8200万ドル)を売り上げた。最高額はフランシス・ベーコンがルシアン・フロイドを描いた絵画《Study for Portrait of Lucian Freud(ルシアン・フロイドの肖像画のための研究)》(1964年)で、4300万ポンド(約5200万ドル)と、落札予想価格3500万ポンド(約4200万ドル)を上回った。他の人気作家は比較的低調で、アンディ・ウォーホルの自画像(1986年制作)が1270万ポンド(約1550万ドル)、クロード・モネの風景画が1170万ポンド(約1430万ドル)で売られた。


アンディ・ウォーホル《Self Portrait(自画像)》(1986年) COURTESY SOTHEBY'S

女性アーティスト作品の入札は好調だった。ブリティッシュ・ポップ・アートの創設者の一人で夭折したポーリーン・ボティ(1938~66)の絵《With Love to Jean-Paul Belmondo(ジャン・ポール・ベルモンドに愛を込めて》(1962年)は、120万ポンド(約150万ドル)で落札された。予想価格の50万ポンドの2倍以上を記録した。5人の入札者が競ったシモーヌ・リーの彫刻は落札予想30万ポンドの倍以上の61万7400ポンド(約75万2200ドル)で、シャラ・ヒューズの絵は予想価格20万ポンドの3倍近い56万7000ポンド(約68万7000ドル)で、ヴェネチア・ビエンナーレに参加中のクリスティーナ・クアレスの2017年の絵は52万9200ポンド(約64万1500ドル)で、それぞれ落札された。


アンナ・ウェイアント《Buffet(ビュッフェ)》(2020年)

また、ガゴシアンに移籍したアンナ・ウェイアントの絵《Buffet(ビュッフェ)》(2020年)は4人に競られ、46万6200ポンド(約56万8000万ドル)で落札された。落札予想額が10万ポンドと低かったため4倍以上になったものの、前月に出したオークション記録と比べると最終価格ははるかに安かった。

※この記事は、米国版ARTnewsに2022年6月29日に掲載されました。元記事はこちら



キャロライン・ウォーカーの《Afters(デザート)》(2016年) COURTESY PHILLIPS

予想価格の6~4倍で軒並み落札、女性アーティストの入札が好調~フィリップス

フィリップスは6月30日、ロンドンでオークションを開き、近現代美術で計1750万ポンド(約200万ドル)を売り上げた。同社は女性アーティストに傾注しており、31ロット中、最初の9ロットは女性作家の作品だった。

ロンドン拠点の女性フローラ・ユクノビッチの絵は170万ポンド(約210万ドル)と、落札予想価格の5倍以上で売られた。マリア・ベリオの絵《The Riders II(乗り手たち2)》(2012年)はロンドンとレバノンの入札者が競った結果、予想落札額の6倍となる80万9000ポンド(約98万1600ドル)で落札された。キャロライン・ウォーカーの2016年の絵《Afters(デザート)》は応札の結果、31万5000ポンド(約38万3200ドル)で売れ、6万ドルの予想価格の5倍以上となった。話題のアンナ・ウェイアントの2019年の絵画《Bath Time(入浴)》(2019年)は最終価格22万6800万ポンド(約27万4000ドル)となり、予想価格8万ポンドの3倍近かった。他の若手女性画家らの作品も軒並み、予想価格の6~4倍の高値で落札された。

※この記事は、米国版ARTnewsに2022年6月30日に掲載されました。元記事はこちら

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