認めたくない真実:アーティストを不当に扱うギャラリーはブロックチェーンで淘汰されるのか
読者から寄せられたアートに関する質問に、ニューヨークを拠点とするアート事業のコンサルティング会社「Chen & Lampert(チェン&ランパート)」の設立者2人が答える連載です。
質問:“ちょっと聞いてほしい。ウチのギャラリーはブロックチェーンで壊滅的な打撃を受けるだろう。他に誰も指摘する人がいないので、この際はっきり言う。中堅ギャラリーの経営者なら、キャッシュフローが課題なのは誰もがわかっていることだ。やっと作品が売れても、その売り上げは未払い金の支払いに充てられることが多い。つまり、アーティストのところに金が回るまでには時間がかかるというわけだ。もちろん、最終的にはアーティストに作品代金を支払うが。だが、聞くところによると、ブロックチェーンは瞬時に決済を行うんだとか。コレクターが代金を払うとすぐに、取引参加者全員に支払い手続きが行われる。それじゃマズいんだ。決済方法がブロックチェーンや暗号資産に置き換わる未来が本当に訪れたら、ウチのようなギャラリーは潰れてしまう。我われのような店がなくなったら、ギャラリーのエコシステムはどうなることか。無個性な大手だけになってもいいのだろうか? でも、このままいけば、そうなることは明らかだ。”
あなたの質問の率直さには拍手を送るが、その浅ましいビジネスのやり方はいただけない。アーティストを公平に扱わず、支払い期限を守らない。こうしたやり方だけが、あなたのような中堅ギャラリーを生きながらえさせているのだろうか? 巨大ギャラリーや怪しげな暗号資産を擁護するものではないが、あなたが既存の決済方法にこだわっている理由は、アーティストを不当に扱い続けるためだけのように思える。であれば、ブロックチェーンと暗号資産は、未払い請求書の山を抱えるギャラリストよりもアーティストに有利に働くだろう。
大手ギャラリーしか生き残れないという主張は、ビジネスプランの欠陥をごまかすための言い訳にすぎない。痛みを伴うかもしれないが、作品が売れたら、事前に取り決められていた代金をアーティストに適時に支払う道徳的・法的義務がある。儲けた金はあなただけのものではなく、当然ながら、あなたの借金や経営判断の失敗を埋め合わせるための裏金でもない。もし、アーティストを公平に扱うことでギャラリーが傾いてしまうのなら、そろそろ自分自身や周りの人々に対して、持続可能な経営ができていない事実を認める潮時ではないだろうか。
小規模なギャラリーでも、順調に作品を販売し、関係者全員に期限内に支払いを済ませているところはいくらでもある。オープニングの二次会のタダ酒で酔っ払ってばかりいないで、こうした真っ当な仕事を見習ったらどうか。何よりも優先すべきは、経営の健全性とギャラリーの存続だが、これはあなただけの問題ではないことを肝に銘じてほしい。空腹を我慢しているアーティストたちだって、あなたのギャラリーが存続することを望んでいるはずだ。財政難だと正直に打ち明けてみれば、支払いに時間がかかることを理解してくれるかもしれない。とはいえ、キャッシュフローが滞っていることを公の場で書くほど間抜けなギャラリストは、店を閉じて当然だろう。自分の身元がバレないことを祈ってくれ。
質問:“片田舎の二流美術館に勤めている退屈なキュレーターをフォローバックしないと失礼にあたるのだろうか? 彼女は巷によくいるタイプで、確かにクールな展覧会をいくつか開催しているし、私に興味を持ってくれるのは光栄だ。でも、投稿のほとんどは子供の写真か、お菓子作りのことで、私にとっては赤の他人の無意味な内容でしかない。とはいえ、こんなつまらないことで誰かを冷たくあしらうような態度を取るとか、取り返しがつかない失敗はしたくない。”
認めたくないかもしれないが、アート関係者だって、ちょっと引いてしまうようなソーシャルメディアの投稿をするものだ。それに、子供を持つキュレーターだっている。お菓子作りは高尚な芸術ではないが、焼き立てのシナモンクッキーなら、既視感のあるウィリアム・ケントリッジの展覧会に勝るとも劣らない。もし、あなたがこの女性の企画を評価していて、辺ぴな場所で働いていることに目をつぶれるのなら、フォローバックしても損はないだろう。何なら、最初の1枚に「いいね!」を押し、即ミュートすればいい。全く「いいね!」をつけないと、嫌な奴だと思われてフォローを外されるかもしれない。そうなれば、あなたは最悪のアートフレンドということになるのだから。(翻訳:野澤朋代)
このコーナーへのご相談は、こちらのアドレスまで。[email protected]
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月23日に掲載されました。元記事はこちら。