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年収1300万円のアート業界「史上最悪」の仕事、あなたならやる? やらない?

ある日、ニューヨーク芸術財団の求人掲示板に、ある「アート・カップル」による求人募集が掲出された。ニューヨーク・タイムズに「史上最悪の仕事」と呼ばれたこの仕事とは?

『プラダを着た悪魔』の撮影風景より。2005年10月撮影。Photo: Arnaldo Magnani/Getty Images

前にある農家の人と話す機会があった。彼にとって、フェンスを直したり牛の乳を搾ったりと、一日中いろいろな仕事をこなすのが農家であることの一番の楽しさなのだという。確かに9時から5時までのデスクワークよりよさそうだ。しかし、バラエティに富んだ仕事をこなせるのは特別な人だけだ。

ニューヨーク芸術財団の求人掲示板に掲出された、ある「アート・カップル」による求人募集(ニューヨーク・タイムズはすぐさまこれを「史上最悪の仕事」と揶揄した)を芸術関係者やそれ以外の人々が嘲笑したのは、単にこの仕事をやりたくないから? しかし本当にそうだろうか。このエグゼクティブ・アシスタント職(兼旅行代理店、兼秘書、兼ベビーシター、兼ドッグウォーカー、などなど)に就くには大卒であることが条件だが、確かに、その学位なくしてこの仕事は務まらないかもしれない。

少なくともこの仕事を終える頃には、ハンプトンズの大邸宅やマンハッタンのペントハウスではないにしても、この仕事の立派な給料を元手に手に入れた、どこかの小さな家やマンションで自分の家庭を切り盛りできるだけのスキルは身についているはずだ。

求人情報を見る限り、給料は65,000〜95,000ドル(約880〜1300万円)。しかも、健康保険と401K(確定拠出年金)までついてくる。胸に手を当てて考えてみよう。今、これを超える条件の仕事の選択肢があるだろうか?

確かにこの仕事はとてつもなくキツいだろうが、雇い主がこのカップルでなくても似たようなものだ。ニューヨークでは、個人秘書を求める富裕層夫婦が山ほどいる。そして、こうした仕事に応募する人の多くは、芸術世界とのつながりが得られるものと幻想を抱く。しかし、過酷な労働と引き換えに芸術とのつながりを得られるのは魅力的ですらあるという考えは、今すぐ捨てたほうがいい。侮辱的だからだ。

この仕事への応募を検討する前に、「Companion to Elder Adults(高齢者のコンパニオン)」という仕事をおすすめしたい。この「Elder Adults」とはすなわち「アーティスト自身やアートのパトロン」であり、アート・カップルの仕事よりずっと、その後のキャリアに役立つはずだ。嘘だと思うなら、こう考えてみてほしい。年配のアーティストとの間に育まれた感動的な友情を、小説を書くことだってできるのだ。ベストセラー間違いなしだ。

しかし結局のところ、アート界の「史上最悪の仕事」やそれに類似する仕事についての話題は、すべて一つの質問──偉大なる文化的伝統の一部であるエリートに仕える確固たる下僕になりたいかどうか──に帰結する。最終的には無自覚な雇い主を裏切ったっていいわけだし、映画『プラダを着た悪魔』の主人公アンドレアのように(ただしアンドレアは感傷的すぎる)、悪魔との取引を最大限に利用すればいい。ただし、イケメンだけど支えてはくれないボーイフレンドのことは忘れること。ガールボスとして有名になってやろうじゃないか!(翻訳:編集部)

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