略奪品論争がさらに過熱? メトロポリタン美術館所蔵の古美術品1000点以上が不正売買に関連
メトロポリタン美術館所蔵の古美術品に関する新たな調査で、「文化財売買に関わる犯罪で起訴された、あるいは有罪判決を受けた」人物に関連するものが1000点以上確認された。近年、同館の所蔵品に含まれる略奪品をめぐる論争が激しさを増す中での発表だ。
3月20日に国際調査報道ジャーナリスト連合(以下、ICIJ)が、イギリスを拠点とする非営利団体Finance Uncoveredと共同で発表した報告書によると、メトロポリタン美術館(以下、メット)が所蔵する古美術品の中には不正取引されたものが1109点あり、そのうち309点が展示されていることが判明した。また、文化財の輸出が長年禁止されている国の古美術品も含め、発見された国からメットの所蔵品になるまでの詳細な履歴が分かるものは全体の半分以下だった。同館の記録によると、禁止令が出された後に展示から外されたものもあるという。
ICIJによる調査報告の5日前には、メットが所蔵する南アジアの古美術品のうち、悪名高い美術商サブハシュ・カプーアが関わった77点以上のリストを、インドのニュースメディア、インディアン・エクスプレスが伝えた。カプーアは今年、インドで強盗と古美術品窃盗の有罪判決を受けている。なお、インディアン・エクスプレスの報道は、ICIJおよびFinance Uncoveredの協力で行われたもの。
文化財の不正売買撲滅活動を推進する団体、Antiquities Coalitionのエグゼクティブディレクター、テス・デイビスはICIJにこう語っている。「メットは世界中の美術館の風向きを変えられる存在です。メットが不正取引の事実を闇に葬るとしたら、アート市場に残る悪弊を正すことに希望を持てるでしょうか?」
ICIJとFinance Uncoveredによる最新の調査では、メットが所蔵する美術品のうち、その物品が正当な手続きで輸出されたことや所有者の詳細を記した来歴のないものが数百点に上ることが明らかになった。たとえば、メットの目録にある250点を超えるネパールやカシミール地方の古美術品の中で、どんな経緯で発見された地を離れたか記録が残っているのは3点のみだ。ICIJは、この2地域に注目した理由を、「ネパールとカシミールでは大規模な略奪が行われているにもかかわらず、国際的な報道が少ないため」としている。
近年、略奪文化財の返還を求める声が高まる中、メットが所蔵する古美術品の出所についてはニューヨークおよびアメリカ国外の警察当局が改めて精査中だ。マンハッタン地区検察局は2017年以降、同館から古美術品を押収するための令状を少なくとも9件発付・執行している。2022年だけでも6件の令状が発付されたが、その対象はエジプト、インド、地中海地域から略奪された遺物30点以上におよぶ。
メットの広報担当者はICIJへの声明の中で、同美術館は「責任ある収集活動に努め、所蔵品となる全ての物品が、取得時における法的条件などの厳格な方針を満たすことの確認に労力を惜しまない」とし、次のように述べている。「収集に関する法律やガイドラインが時代とともに変化していることから、メットの方針と手続きも変わってきている。所蔵品の来歴については、世界各国の関係者との協力も含め、継続的な調査を行って新しい情報を適切に扱ってきた実績がある」(翻訳:石井佳子)
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