クリエイティブ業界のトップランナー5人が推薦! 注目のパブリックアート

パブリックアートは、それが存在する地域に暮らす人々/そこを訪れる人々にアートに触れ、作品が発信する問いやメッセージについて思考を巡らせる機会を等しく開いてくれる大切な存在だ。アート/クリエイティブ業界の第一線で活躍する5人に、それぞれに影響を与えた作品を聞いた。

札幌・モエレ沼公園

1. 岡本太郎《明日の神話》(1968-69)選者:北川フラム

渋谷マークシティ連絡通路に、計画的に描かれたようにピッタリとしている《明日の神話》は、数奇な運命を経て、東京有数のターミナルに展示されている。もともとアメリカの1954年の水爆実験で被爆した第五福竜丸と広島・長崎の原爆投下を重ねあわせて岡本太郎がメキシコのホテルのために周到な準備の末に作ったものだ。ホテル倒産後、行方不明になっていたが、修復され日本で日の目をみたもの(2008年)で、岡本太郎の背骨である沖縄の生活文化、東北の縄文と民俗学的な原始への共振が感じられる名作だ。

それはユーラシア大陸の環礁として米国と大陸半島の間にあって、ズブズブに沈没している日本列島の首都に持ち込まれたという必然性さえ伴っているように思われる。また、Chim↑Pomによるはり札(2011年)もこの作品の神話性をましている。

設置場所:渋谷駅(渋谷マークシティ連絡通路内)

北川フラム(きたがわ・ふらむ)
アートディレクター、アートフロントギャラリー主宰。1946年新潟県生まれ。東京藝術大学美術学部卒。「ファーレ立川アートプロジェクト」(1994)ほか、国内外の多くの展覧会、アートプロジェクトを手掛ける。アートによる地域再生の先駆的存在として知られ、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(2000~)、「瀬戸内国際芸術祭」(2010~)では自身が総合ディレクターを務める。


2. 栗林隆《Mountain Range》(2022)選者: 山峰潤也

栗林隆《Mountain Range》(2022) art produce : TAK PROPERTY INC.

東京ミッドタウン八重洲に忽然と立ち上がる岩肌。ビル群の中に突如として現れる自然物。そこには八重洲の土地の記憶が表現されたという地層の断面が見える。仕事のために行き交う人々が、足を止め、その作品を不思議そうに見つめ、また足をすすめていく。都会の生活にいきる人たちが忘れがちな、自然という存在を想起させる作品は、日常から離れて全く違う時間へと連れ出すアートの力を教えてくれる。

福島第一原発について考えながら、批評的な作品を作るのではなく、人々にエネルギーをあたえる“元気炉”というサウナ体験をさせる作品を作り出した栗林隆と、また別の側面を《Mountain Range》は見せてくれる。

設置場所:東京ミッドタウン八重洲(東京都中央区八重洲二丁目2-1)

山峰潤也(やまみね・じゅんや)
キュレーター、株式会社NYAW代表取締役。1983年生まれ。東京都写真美術館、金沢21世紀美術館、水戸芸術館現代美術センターを経て、ANB Tokyoの設立と企画運営に携わる。その後、株式会社NYAWを設立。国内外の展覧会のキュレーションやシンポジウムの企画を多数手掛けるほか、企業や行政の事業企画、雑誌やテレビの特集の監修、執筆や講演など、多岐にわたり活動。


3. THE TOKYO TOILET  選者: 齋藤精一

マーク・ニューソン作「裏参道公衆トイレ」(千駄ヶ谷4-28-1)

東京には、実はたくさんのパブリックアートがあるが、ここではあえて視点をずらし、建築をパブリックアートとして捉えてみたい。

たとえば、THE TOKYO TOILET PROJECTは東京のインフラの一つでもある公衆トイレを影の存在から最前線のクリエイティブとして進化させ続けているプロジェクトである。

トイレがアート? と思う方もいるかもしれないが、機能×アートの掛け算の思考がこのプロジェクトによって建てられた公衆トイレには溢れている。トイレに行きたくても行きたくなくても、様々な建築家・デザイナーによって高解像度に再解釈された東京の静かなランドマーク探しを楽しんでほしいと思う。

設置場所:東京都渋谷区内17カ所

齋藤精一(さいとう・せいいち)
パノラマティクス主宰。1975年神奈川県生まれ。コロンビア大学建築学科(MSAAD)で建築デザインを学んだのち、NYでの活動を経て03年に帰国。06年に(株)ライゾマティクス(現アブストラクトエンジン)を創業。アーティスト、クリエイティブディレクターとして活動するほか、行政や企業などの企画や実装アドバイザーも多数行う。25年大阪・関西万博 EXPO共創プログラムディレクター。


4. イサムノグチ「モエレ沼公園」(2005)選者: 中里唯馬

公園そのものが作品になっているというモエレ沼公園に、学⽣時の頃からずっと訪れたいと思っていた。それから20年以上の⽉⽇が経ち、ついに先⽇、念願が叶ったのだ。巨⼤な作品の上を歩き回っていると、全体像が⼀望できないほどの壮⼤なスケールにも関わらず、そこにイサム・ノグチという⼀⼈の⼈格を感じるという、不思議な体験に迎えられた。

そして、この場所は元々ゴミの埋⽴地だったそうだ。不要になった物たちは、⼈⾥離れた場所にひっそりと集められていることが多い。しかしここは地域の⼈々の憩いの場となり、元の景⾊が想像ができないほど、ダイナミックに⽣まれ変わっているのだ。こんな素敵な場所が世界中に溢れている景⾊を想像し、私はワクワクしながら帰路に着いた。 

モエレ沼公園(北海道札幌市東区モエレ沼公園1-1)

中里唯馬(なかざと・ゆいま)
1985年生まれ。2008年ベルギー・アントワープ王立芸術アカデミー卒業。2015年に自身のブランドを設立し、翌年、パリ・オートクチュール・ファッションウィーク公式ゲストデザイナーに選出される。最先端テクノロジーを用いた革新的な創作で知られ、2021年に創設したFASHION FRONTIER PROGRAMでは次世代クリエイターの育成や、社会課題に配慮したものづくりに取り組む。


5. レアンドロ・エルリッヒ《クラウド》(2011)選者:アンジェラ・レイノルズ

レアンドロ・エルリッヒ《クラウド》(2011)art produce : TAK PROPERTY INC.

初めてレアンドロ・エルリッヒの《クラウド》に出会った時のことは、今でも鮮明に覚えています。街で物思いにふけりながら歩いていると、その繊細で無形の存在に出くわしたのです。思考が停止し、動物のように彫刻の周りをぐるぐると回って、目の前の雲の存在を捉えようとする自分がいました。

もちろん、それは本物の雲ではありません。この作品は、複数のガラス板にセラミックインクでひとつひとつ装飾を施したものです。しかし、その仕組みを理解しても、この宙吊りの「雲」の魔法は薄れない。もはや、本物であることが重要でないとすら思わされるのです。この作品のもう一つの特徴は、「儚い」存在であること。何層ものガラスの重なり合いで見えてくる、触れられそうで触れられないその幻の雲は、我々の動物的本能を擽ぐり、ふとした瞬間にポエトリーを届けてくれます。

設置場所:飯野ビルディング(東京都千代田区内幸町2-1-1)

アンジェラ・レイノルズ
ペロタン東京ディレクター。14歳でモデルデビューし、ランウェイや雑誌、広告などで活躍。1999年から7年間、自身のルーツでもあるロンドンに拠点を移しモデルとしてのキャリアを深める。2006年に帰国後は、ジャーナリストとして国内外の媒体に寄稿。その後アートの世界に飛び込み、現在はモデル業と並行して、フランスのアートギャラリー、ペロタンの東京ギャラリーディレクターを務める。

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