ロシア・エルミタージュ美術館が英雄のモニュメントを教会に返還。「現在は宗教的意義を重視」
ロシアの英雄、アレクサンドル・ネフスキーの棺を収めていた世界最大の銀のモニュメントが、エルミタージュ美術館からロシア正教会の大聖堂に返還されたと、アート・ニュースペーパーが報じている。
アレクサンドル・ネフスキーは、13世紀に戦争で功績を挙げた英雄だ。その後1549年、ピョートル大帝によってサンクトペテルブルクの守護聖人に選ばれ、彼の石棺を設置するための大聖堂が建設された。1743年には、エリザベス女王の命で、宮廷肖像画家ゲオルク・クリストフ・グルートにより、棺を収める銀のモニュメントが制作された。
高さ約5メートルになる、バロック様式のモニュメントの側面には戦いの場面が浮き彫りにされ、蓋の上には王冠と折れた剣が載せられている。その頂上には、盾と天使が刻まれている。
このモニュメントは1922年、旧ソ連が勢力を拡大する中で破壊の危機から救うため、展覧会の開催を口実にエルミタージュ美術館に移された。現在までの約100年の間に何度も破壊の危機が訪れたが、その度に同館は守り続けていた。
エルミタージュ美術館のミハイル・ピョートロフスキー館長は今回の返還について、「地政学的な観点から、モニュメントが大聖堂に戻ることは、国の運命と社会平和の維持に必要だと思っています。これまで何十年ものあいだ、遺物は宗教的意義より芸術的価値を重要視してきましたが、現在は逆です」と話している。
エルミタージュは、延長オプション付きで、49年間の貸与の契約を大聖堂と結び、文化省およびロシア正教会のキリル総主教がこの取引を承認している。現在、モニュメントはロシア博物館基金の所有物であるため、大聖堂側は保存のための条件を遵守する必要がある。
ピョートロフスキーは、「文化財が安全に保存されるか否かは、物理的な条件ではなく、博物館の管轄であるか、そうでないかなのです」と付け加えている。(翻訳:編集部)
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