「個人的なことは政治的なこと」──アジア系移民でクィアの写真家、曹梦雯のストーリーテリング【New Talent 2023】
US版ARTnewsの姉妹メディア、Art in America誌の「New Talent(新しい才能)」は、長きにわたり年1度行われてきた新進作家を紹介する人気企画。今年、そのひとりに選ばれた曹梦雯(ツァオ・メンウェン)は、クィアであり、アメリカに住む中国人という経験から、社会から疎外された人々の経験を見つめ続けている。
家族にクィアであることをカミングアウトするのは、多くのクィアの人々がくぐり抜ける極めて私的な体験だ。写真家でアーティストの曹梦雯(ツァオ・メンウェン)が、両親にカミングアウトしたのは2016年のこと。曹はビデオを作成し、FaceTimeのビデオ通話で両親に見せた。そのときの通話を録音したものが、《Here We Are》という作品になっている。
作品の鑑賞者は、曹とともにはらはらした思いで両親の反応を待つことになる。通話の最後に父親は、「受け入れることはできる。でも、正直なところ、私たちの考え方はまだ……昔ながらのものだ」と答える。そして画面が暗転する直前、母親はこう言う。「もし将来、好きな男性に出会えたらいいね」
中国・杭州生まれの曹は、現在ニューヨークを拠点に活動している。ニューヨークの国際写真センター在学中に制作したこの作品が、いわばアーティストとしての原点となった。その後も、アートとフォトジャーナリズムの境界をまたぐ作品を次々と発表。「I Stand Between」シリーズ(2017-18)では、アメリカの白人家庭に養子に出された東アジアや東南アジアの人々を対象に撮影とインタビューを行った。
親しみやすさと非日常性の共存が問うもの
《Here We Are》がセクシュアリティから生じる感情的な距離を取り上げているのに対し、「I Stand Between」シリーズは人種がテーマだ。いずれの場合も、曹は作品中の人物を、静かでありふれた日常の中で捉えることが多い。たとえば、「Liminal Space」(2017〜現在も進行中)などのシリーズ作品では、ソフトフォーカスで撮影した有色人種のクィアやトランスの人々のポートレートに一部色彩を加えることで、親しみやすさと同時に非現実的な雰囲気を醸成している。
US版ARTnewsの取材に曹は、「個人的なことが、実は政治的なことなのだと気づき始めました」と語った。「うそ偽りのない私的な物語を見せることで、想像もつかないような方法で人々の間に絆が結ばれるのです」
曹は、社会から疎外された人々の経験を表現したいという思いに突き動かされているが、ただ表現することが目的ではないとも強調する。彼女は自身のフォトジャーナリズム作品についてこう説明した。「自分のアート制作において最も関心を寄せているもの、つまりアジア系コミュニティの生き方、クィアのコミュニティの生き方、移民の生き方に関するストーリーを多く扱っている」
曹はさらに、アメリカの公共放送NPRやニューヨーク・タイムズ紙などのメディアでカメラマンとしても活動し、ジェントリフィケーション(低所得層の立ち退きなどを含む地域浄化的再開発)やアジア系移民に対する暴力などをテーマに撮影をしてきた。その作品は、ただ問題を目に見える形で提示するだけにとどまらない。社会における疎外は多層的に起こりうる問題だということを、曹は経験的に知っている。だからこそ、その作品にはいつも、人々の感情や経験が織り込まれているのだ。そして、見る人に作品が語るストーリーの細かいニュアンスを味わうよう誘っている。(翻訳:清水玲奈)
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