アメリカ女性歴史博物館の初代館長、セクハラ対応問題で就任前に辞任。ワシントン・ポスト紙の暴露記事を受けて
スミソニアン・アメリカ女性歴史博物館の初代館長に任命されていたナンシー・ヤオが、前職のセクハラ対応をめぐる問題で就任を取りやめた。アメリカ女性歴史博物館は、2020年12月に追加経済対策法案が成立したことを受けて設立準備が進められている。
ヤオが、創設準備中のスミソニアン・アメリカ女性歴史博物館の初代館長の職を辞した背景には、前職のアメリカ華人博物館(略称MOCA)の館長在任中に起きた不祥事の対応に問題があったというワシントン・ポスト紙の報道があった。
スミソニアン協会が発表した声明によると、同協会傘下にあるアナコスティア・コミュニティ・ミュージアムのメラニー・アダムス館長が臨時館長を務める。現在の臨時館長であるリサ・ササキは別の管理職ポストに異動することになったが、詳細は発表されていない。アメリカ女性歴史博物館の新しい常任館長の人事は現在検討中だという。
スミソニアン協会はまた、7月5日にワシントン・ポスト紙に宛てた声明の中で、ヤオの退任は「家族の問題に専心する必要があるため」だと説明している。
ヤオの任期は6月からの予定だったが、4月のワシントン・ポスト紙による調査報道を受けて見直しが進められていた。この報道は、ヤオがMOCAで館長を務めていた10年近い期間に、職場でのハラスメントが日常化していた事実を詳述したもので、ヤオが直接的に問題を助長していたとの証言も複数伝えられた。
記事によると、複数の元職員が年下の女性職員に対するセクハラ問題を通報した結果、その報復としてMOCAから解雇されたという。それを不服として起こされた3件の不当解雇訴訟では、MOCAとの和解が成立している。
訴訟で加害者として名前の挙がった男性職員2人は勤務を続け、そのうち1人は、のちにヤオが昇進させている。ヤオは職員の解雇が報復行為だったとの疑いを強く否定し、和解はMOCA側の不正行為を示唆しない条件で成立したとされている。
スミソニアン協会のロニー・G・バンチ3世長官は、ヤオの任命時に発表したプレスリリースでそのリーダーシップを称賛し、「ナンシーの実績と経験、スキル、リーダーシップは、スミソニアン・アメリカ女性歴史博物館の創設を実現し、アメリカが国家としてどのような存在であるかの強固で完全な物語をクリエイティブに伝えるために、極めて重要なものとなるでしょう」と述べていた。
2020年、ヤオはMOCAのコレクション・アンド・リサーチ・センターの火災で損傷した何千もの美術品の膨大な修復作業を監督し、全米の博物館・美術館館長から称賛を浴びた。一方で、ニューヨークのチャイナタウンのコミュニティとは敵対関係にあり、その一部は、近隣の刑務所建設に賛同する見返りに、当時ニューヨーク市長だったビル・デブラシオから助成金を受け取ったとして彼女を非難。ヤオはこの疑惑を否定している。
さらに、MOCAの共同会長でチャイナタウンの大地主でもあるジョナサン・チューが、コロナ禍で世界的に反中感情が高まった時期に、テナント料支払いで苦労していた地元のレストランの移転に着手したとして、活動家による抗議活動が起きた。2021年には、あるアートコレクティブのメンバー19人が、抗議のためにMOCAから作品を撤去し、ヤオの辞任を要求している。
ヤオは、ワシントン・ポスト紙への書簡で、「(訴訟の)申し立てをするのに証拠は必要とされない」とし、「結託し、詮索し、捏造した」情報を流す人たちを軽蔑するとして、和解は「迷惑行為の解決」のためだったと主張。職員の解雇については「予算が逼迫したため」だと説明している。
US版ARTnewsはMOCAにコメントを求めたが、記事掲載時点で返答は得られていない。(翻訳:清水玲奈)
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