ARTnewsJAPAN

毎年恒例メトロポリタン美術館・屋上庭園プロジェクト、古代エジプト美術と現代を融合させたローレン・ホールジーを起用

メトロポリタン美術館(ニューヨーク)は、毎年恒例となっている屋上庭園の展示企画に、ロサンゼルス在住のアーティスト、ローレン・ホールジーを起用すると発表した。ホールジーのサイトスペシフィックなインスタレーションは、5月17日〜10月23日まで展示される。

ローレン・ホールジー Photo: Russell Hamilton/Courtesy David Kordansky Gallery, Los Angeles and New York
ローレン・ホールジー Photo: Russell Hamilton/Courtesy David Kordansky Gallery, Los Angeles and New York

サウス・ロサンゼルスで生まれ育ったホールジーは、現在もそこに暮らしながら、地域の歴史を反映した没入型の建築的インスタレーションを制作している。彼女の作品は、古代エジプト美術や象形文字、1960年代モダニズム建築の要素とサウス・ロサンゼルスの物語を融合させ、地元のコミュニティと地域住民の新しい未来を想像させる。今回メトロポリタン美術館に登場する作品のタイトルは《the eastside of south central los angeles hieroglyph prototype architecture (I)(サウス・ロサンゼルス、イーストサイドの象形文字プロトタイプ建築〈I〉)》だ。

ホールジーは声明で次のように述べている。「メトロポリタン美術館の屋上庭園のインスタレーションは、現代のロサンゼルス中心部の物語と、古代エジプトのファラオたちの建築から想起される物語を融合させるという私のテーマを反映したものです。来場者が、直感的にそのつながりを感じてもえるよう願っています」

ホールジーの作品は、ロサンゼルス・カウンティ美術館で開催された「Black American Portraits(ブラック・アメリカンの肖像)」(2021年)や、ハマー美術館(ロサンゼルス)で開かれるビエンナーレ「Made in L.A.(メイド・イン・L. A.)」といった大規模な展覧会に出展されてきた。2018年の「Made in L.A.(メイド・イン・L. A.)」では、モーン賞(賞金10万ドル)を受賞している。2014〜2015年には、スタジオ・ミュージアム・イン・ハーレム(ニューヨーク)のアーティスト・イン・レジデンスに参加。2021年にはシアトル美術館のグウェンドリン・ナイト|ジェイコブ・ローレンス賞を受賞した。

2018年にはロサンゼルス現代美術館で個展が開催され、2022年の年末にはサーペンタイン・ギャラリー(ロンドン)での個展が予定されている。さらに、2019年からホールジーを扱っているデビッド・コルダンスキー・ギャラリー(ロサンゼルス)は、2022年春に開業するニューヨーク支店のオープン企画としてホールジーの展覧会を計画。メトロポリタン美術館の屋上庭園展示と同時に開催する予定だ。

メトロポリタン美術館のマックス・ホライン館長は、次のような声明を出している。「ホールジーのインスタレーションは、メトロポリタン美術館のエジプト美術コレクションをアフロ・フューチャリズムのレンズを通して見直すと同時に、サウス・ロサンゼルスの地域社会が体現するものを記録する力強い作品だ。過去を見据えながら、思索に基づく想像の領域を探求することで、ホールジーは市民空間や社会活動についての、そして建築と地域社会の関わり方の可能性を再考することについての、説得力のある意思表明になっている」

ホールジーは、メトロポリタン美術館の屋上庭園プロジェクトに選ばれた10人目のアーティストだ。過去にこのプロジェクトを担当したアーティストには、イムラン・クレシ(2013年)、ピエール・ユイグ(2015年)、フーマ・ババ(2018年)、アリシア・クワデ(2019年)、アレックス・ダ・コルテ(2021年)などがいる。ホールジーのインスタレーションは、メトロポリタン美術館での展示後、サウス・ロサンゼルスに巡回する予定だ。

現在、サウス・ロサンゼルスでは、ホールジーが委託された大規模な公共アート事業が進行している。さらに、アーティストとしての活動のかたわら、南カリフォルニアの農家から仕入れたオーガニック食品をサウス・ロサンゼルスとワッツ地区の住民に寄付するコミュニティセンター「サマエブリサング(Summaeverythang)」を設立、運営している。

アブラハム・トーマスとともに屋上庭園プロジェクトのキュレーションを担当しているメトロポリタン美術館の近現代アート部門長、シーナ・ワグスタッフは、声明で以下のように述べている。

「ホールジーは、近未来への扉を開くアクティビスト的ビジョンの持ち主です。古代の象形文字と自らのコミュニティの視覚的モチーフを組み合わせ、独自の絵文字的表現による生きた建築とも言うべきすばらしい作品を生み出しました。彼女の作品は、今まさに必要とされるパラダイムを提示するものであり、ラディカルなメッセージを運ぶ古代的かつ現代的な船であり、米国や世界に広がる生活体験の不平等を正していくものを提示しています。それは、真実と正義を特徴とする新しい文明の重要な原則を提案するものと言えるでしょう。死後の世界を信じた古代エジプト人のように、ホールジーは自分の作品に意味のある来世を期待しているのです」(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年3月14日に掲載されました。元記事はこちら

あわせて読みたい