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マン・レイの代表作、写真作品として史上最高の16億円で落札

裸の女性の背中にバイオリンのf字孔をあしらったマン・レイの有名な写真作品、《Le Violon d'Ingres(アングルのバイオリン)》(1924)が、5月14日に1240万ドルで落札(約16億円、手数料込み)。オークションにおける写真の史上最高落札価格を記録した。

マン・レイ《Le Violon d'Ingres(アングルのバイオリン)》(1924) Christie's

同作品が10分近くにおよぶ競り合いの末に落札されたのは、クリスティーズ・ニューヨークのシュルレアリスム美術品オークションだ。エイドリアン・マイヤーがオークショニアを務めたこの競売では、クリスティーズの写真部門担当、ニューヨークのダリウス・ハイムズとパリのエロディ・モレル=バザンとの電話を通して参加した2人の入札者が激しく競り合った。

入札額は想定以上につり上がり、モレル=バザンと連絡を取っていた入札者が予想最高額の700万ドルを大きく上回る1050万ドルで決着をつけると、会場に拍手が巻き起こった。

レイのミューズ、キキ・ド・モンパルナスを撮影したこの写真の中でも、今回落札されたものは希少なオリジナルのプリントと考えられる。写真専門家によれば、ネガが作られたのと同時期にプリントされたものであることから価値が高いという。

これまでオークションで写真作品が付けた落札価格の最高記録は、2011年にクリスティーズで競売されたアンドレアス・グルスキーの風景写真《Rhein II(ライン川 II)》(1999)の430万ドル。今回の落札額はこのほぼ3倍に達し、記録を大幅に更新した。マン・レイの写真作品としては、17年にクリスティーズ・パリで開催されたオークションで《Noire et Blanche(黒と白)》(1926)のオリジナル版が300万ドルで落札されたのがこれまでの最高額で、今回はけた違いの落札額となった。

オークションに先立ち、クリスティーズの写真部門の専門家であるハイムズは、「市場に出回るのは前代未聞」と評していた。

今回の《Le Violon d'Ingres》は、シュルレアリストのサークルと深い交流があったニューヨークのファッションバイヤーでアートコレクターのロザリンド・ゲルステン・ジェイコブスとメルビン・ジェイコブス夫妻が所蔵していたもので、夫妻は1962年にマン・レイから直接この写真を購入している。長年メイシーズの重役を務めたロザリンド・ゲルステン・ジェイコブスは、2019年に94歳で亡くなった。(翻訳:清水玲奈)

 ※本記事は、米国版ARTnewsに2022年5月14日に掲載されました。元記事はこちら

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