《最後の晩餐》じゃない? パリ五輪の開会式で物議を醸した演出に対し、美術史家が異なる解釈を提示
パリ2024オリンピック開会式の一部演出をめぐり、保守層から「宗教の冒涜」だとして非難の声が上がっている。それに対し、オランダの美術史家が新たな見解を示した。
7月26日に行われたパリ2024オリンピック競技大会の開会式における一部演出が、キリスト教を侮辱しているとして、カトリック教会や保守的な政治家たちの非難の対象となっている。
物議を醸しているのは、開会式の中で行われたドラァグクイーンたちが長いキャットウォークをヴォーギング(*)しながら歩くパフォーマンス。この演出がレオナルド・ダ・ヴィンチの《最後の晩餐》(1495)を参照していると解釈する人々の中でも、イーロン・マスクや米連邦下院議長のマイク・ジョンソンら保守派による「キリスト教への冒涜」と非難する発言が、ソーシャルメディア上で拡散されている。
多くのオーディエンスは、キャットウォークの中央で星の冠をかぶったパフォーマーがキリストを表しており、周りのダンサーは12の使徒を象徴していると考えているが、赤い絨毯が敷かれたキャットウォークは、ダ・ヴィンチが描いたテーブルとは大きく異なる。また、出演者の数は12人の使徒よりも多い上、演者の一人が身に着けていた星の冠は、キリストではなく聖母マリアを描く際に用いられるモチーフであることから、ダ・ヴィンチの作品と一致しているとは言いがたい。
開会式のパフォーマンスでは、ローマ神話のワインの神バッカスが登場しており、《最後の晩餐》を参照していないのではないかと主張する人もいるようだ。
こうしたなか、オランダの美術史家ワルテル・ショーネンベルクは、ヤン・ファン・ベイレルトの《Le Festin de Dieux》(1635)との類似性を指摘した。この作品は、キリスト教の伝承ではなくローマの神々の祝宴を描いている。とはいえ、ファン・ベイレルトがダ・ヴィンチの絵に影響を受けた可能性は否めない。
トマ・ジョリーが芸術監督を務めた開会式では、ほかにも映画『怪盗グルー』シリーズのミニオンたちが《モナ・リザ》を盗む映像など、さまざまなジャンルの芸術に目配せをした演出が組み込まれていた。
オリンピックの広報担当者は、7月28日に行われた記者会見で次のように説明している。
「いかなる宗教団体に対しても、無礼な態度を示す意図はもちろんありません。私たちは特定の団体を侮辱するのではなく、すべてのコミュニティと寛容な心を称えようとしたのです。私たちが思い描いていたことは実現できたと思いますが、今回のパフォーマンスを不快に思った方がいたのだとしたら、申し訳なく思います」
一方のジョリーは、CNN系列局のインタビューで、《最後の晩餐》が演出に影響を与えたことを否定した上で、「オリンポス山の神を参考に、多くの異教徒が集まる壮大なパーティをつくろうとしたのです。私が自分の私生活や仕事において、誰かを侮辱するような意図をもったことはありません」と語っている。(翻訳:編集部)
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