「今後、人骨は展示しない」──ペンシルバニア博物館が倫理指針を見直し
ペンシルべニア大学付属のペンシルべニア博物館(ペン博物館)が、所蔵の人骨の展示と取り扱いに関する方針を更新。今後は人骨を露出した状態で展示しないことを決めた。しかし、容器に収められたミイラは展示する可能性がある。
今回の決定について、ペン博物館のクリストファー・ウッズ館長は地元メディアのWHYYニュースに、「人間の尊厳と、子孫のコミュニティの希望を優先します。 私たちは、これらを美術館の運営方法の最前線と中心にしていきたいと考えています」と話している。
同館の展示には人骨のレプリカが使用されているが、教育プログラムも、この最新の方針に従ってレプリカを使用することになる。ウッズは、「上級クラスに限り、審査を経て、実際の人骨を使用します」としている。
ペン博物館には、物議を醸した人骨が数多く収蔵されている。1985年にウェスト・フィラデルフィアのムーヴで、地元警察が「MOVE」と呼ばれる黒人過激派グループの自宅と本部に爆弾を投下。そのとき死亡した大人6人と子ども5人の遺骨の一部は、35年以上にわたって同館に保管されている。この出来事が、黒人が大多数を占めるMOVEと警察の間のにらみ合いを引き起こしている。
2021年、MOVEは同館所蔵の遺骨に関する報告書を発表し、提訴した。遺骨が誤った取り扱いをされていることが明らかになったため、同館は2人の人類学者を解雇した上で方針を変更した。報告書は、遺骨と本国送還問題の専門家を雇うこと、遺骨の背景を説明する常設施設を設置することを勧告。さらに、ペンシルべニア大学に対し、所蔵品と収集方法を見直すよう求めている。
裁判所の承認はまだ下りていないが、同館は来春、フィラデルフィア在住の黒人23人の頭蓋骨を埋葬する予定だ。
MOVEの報告書が発表される前、ペン博物館は、19世紀の黒人や先住民の頭蓋骨1300点以上が含まれるモートン・クラニア・コレクションを所蔵していたことについて謝罪し、調査を開始した。
博物館に所蔵される人骨に焦点を当てた委員会は、スタッフの増員などリソースを増やすことを提言した。そうすれば、1989年のアメリカ先住民墓地保護・送還法(Native American Graves Protection and Repatriation Act)がまだ適用されていない遺物の本国送還を準備する際に、博物館の助けになるという。
主要博物館のほとんどは、人骨の倫理的取り扱いに関する方針を定めているが、ペン博物館は、今後人骨を展示しないと公言している数少ない施設のひとつである。
ワシントンD.C.のスミソニアン、パリの人類博物館、ケンブリッジのハーバード大学など、多くの施設が同様の問題に取り組んでいる。フィラデルフィアでは、病気や不調に冒された人骨のコレクションを所蔵するミュッター博物館が、その所蔵品の多くを再検討の対象としたことで、専門家の意見が分かれている。(翻訳:編集部)
from ARTnews