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ジョージ・ワシントン大学で中国反体制派のマンガ家による北京冬季五輪ポスター検閲問題が物議

ジョージ・ワシントン大学(ワシントンD.C.)のマーク・S・ライトン学長は2月初め、学生の問題提起を受けて、政治風刺で知られる漫画家で中国の反体制派であるバディウツァオ(巴丢草)のポスターを撤去すると発表。その後、学生たちから激しい抗議が起こったため、すぐにこの方針を撤回した。

中国の人権侵害などを訴えるバディウツァオのポスター Courtesy Badiucao

ポスターは、2022年の北京冬季オリンピックを題材に、ウイグル族やチベット、香港への弾圧など、中国の人権侵害を批判する内容になっている。

ライトン学長は、当初このポスターへの懸念を示した学生に送ったとされるメールの中で、「個人的に不快感を覚えた」とし、「責任者の追及に努める」と書いている。バディウツァオは、このメールのスクリーンショットをツイートし、「中国共産党による虐待行為を暴露したことを不快とする理由の説明」を要求していると述べた。

2月7日に行われた米国の保守系雑誌、ナショナル・レビューのインタビューでバディウツァオは、「有名大学の学長が私のアートを理解できないほど見識に欠けていることは、恥ずべき事態だと思う。国際情勢やオリンピックにまつわる人権問題を知らないはずがないのだから」と述べている。

ポスターは一見、アイススケートやスノーボードなどの競技で活躍するオリンピック選手がごく普通に描かれているように見える。しかし、よく見るとカーリング選手が滑らせているストーンはコロナウイルスだ。また、スケート選手の靴のブレードで香港を象徴する花の紋章が切り裂かれて血が滴り、アイスホッケー選手はチベットの僧衣を着た人物をスティックで刺している。2009年からオーストラリアに亡命しているバディウカオは、ジョージ・ワシントン大学の学生たちからポスターの一件を知ることになった。

ライトン学長は2月7日、大学関係者に向けて声明を発表。「学内の正式なルートを通じて、中国人コミュニティに対する偏見や人種差別を助長するのではと懸念する多数の声」が寄せられたため、「性急な対応になった」と述べ、自身のメールでの返答と、ポスターを撤去した大学スタッフの判断を「誤り」と認めた。

ジョージ・ワシントン大学構内に展示されているバディウツァオのポスター Courtesy Badiucao
ジョージ・ワシントン大学構内に展示されているバディウツァオのポスター Courtesy Badiucao

ライトン学長はまた、次のように加えている。「その後、学内の研究者たちから、ポスターは中国系オーストラリア人のアーティスト、バディウツァオの作品で、中国の政策を批判したものだと聞いた。今は全容を理解したうえで、ポスターは人種差別的なものではなく、政治的な主張であると考えている。大学での調査は行われておらず、ポスターを掲示した学生に対して大学が措置を取ることはない」

しかし、バディウツァオは7日、ナショナル・レビューの追加取材に対し、ライトン学長の声明に完全には満足しておらず、「より誠意ある謝罪」を望むと述べている。さらに、「米国の人々が、人道や人権を脅かす中国政府の犯罪的行為への批判をためらわないこと、人種差別という的外れな非難を恐れて沈黙するのではなく、何が本当の人種差別か認識できるようになることを願っている」と語った。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年2月8日に掲載されました。元記事はこちら

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