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アート・バーゼル・マイアミ・ビーチの新フェアディレクターが決定。バーゼルの組織変更に伴う役職増設の狙いは?

2年間にわたり専任のリーダーが不在だったアート・バーゼル・マイアミ・ビーチのディレクターに、ブリジット・フィンの就任が決まった。フィンは9月から指揮をとる。

ブリジット・フィン Photo: Nick Hagen/Courtesy Art Basel

ギャラリストとしてキャリアを重ね、地域のアートシーンにも貢献

フィンは、ギャラリストとして働くかたわらキュレトリアル・プロジェクトに携わるなど、アート界において幅広く多彩な経歴を持つ。ニューヨークで10年以上仕事をした後に出身地のデトロイトに戻り、テレーズ・レイエスと共同でレイエス|フィンというギャラリーを2017年に設立した。両者の合意により、レイエス|フィンは今月以降、段階的に活動を縮小する。

設立以来、注目すべきギャラリーとしての評判を築いてきたレイエス|フィンは、昨年および一昨年のアート・バーゼル・マイアミ・ビーチなど、複数のアメリカのアートフェアに出展してきた。同ギャラリーがアート・バーゼル・マイアミ・ビーチのポジションズ部門に参加した2022年、そこで行われたロサンゼルスのアーティスト、ニキータ・ゲイルの展示は、US版ARTnewsが選んだ同フェアのベストブースに入っている。

US版ARTnewsのメール取材に対し、フィンは、「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチは、20年以上にわたって南北アメリカにおけるアートのエコシステムの要となってきました」と答え、こうつづけた。

「北米と南米の物理的・文化的な接点で開催されるこのフェアが、世界中のギャラリーやアーティスト、アートコミュニティにとっていかに重要で、文化的な発見と交流のために欠かせない存在であるかは、いくら強調しても足りないほどです」

フィンは、地元デトロイトのアートシーンを支援するため、街のギャラリーや美術館、アーティスト・ラン・スペースなどが参加する「アートマイル・デトロイト」というオンライン・アート・プロジェクトを組織した。また、娘が患っているSTXBP1遺伝子の変異による難病の研究を支援するための資金調達の仕組み「Flourish」を立ち上げ、クリスティーズでのチャリティオークションなどを企画したことも。

レイエス|フィンを設立前は、2013年から2017年までニューヨークのチェルシー地区にある大手ギャラリー、ミッチェル=イネス&ナッシュで現代アートプログラムを率い、2010年から2013年まではインディペンデント・キュレーターズ・インターナショナル(ICI)で戦略企画・プロジェクトのディレクターを務めた(現在は同団体の理事)。アントン・カーン・ギャラリーでも、2007年から2010年まで複数の役割を担っていた。

また、ブリジット・ドナヒューやコリーン・グレナン(現在はメガギャラリー、ペースのシニアディレクター)ら数人のディーラーと共同で、ブルックリンのグリーンポイントで展示や出版を行うキュレトリアル・プロジェクト「クレオパトラズ」を設立。2008年にスタートしたこのプロジェクトは、ギャラリースペースの賃貸契約期間が満了した2018年まで続いている。

新設のフェアディレクター職に選ばれた理由

アート・バーゼルでフェアと展示プラットフォームを統括するディレクターのヴィンチェンツォ・デ・ベリスは、フィンを起用した理由をこう説明する。

「何よりも、ブリジットは同世代のギャラリーとアーティストから愛されています。それに加え、彼女は素晴らしいリーダーかつ思索家で、ギャラリーやアーティスト、アートコミュニティのための機会創出に深くコミットしています。彼女はマイアミ・ビーチのフェアディレクターとしても、その力を発揮するでしょう。ブリジットは、ギャラリーのエコシステムに関する広範な知識、南北アメリカのアートマーケットに関する深い理解、そしてこの地域のアート界における幅広い人脈を活かし、貢献してくれるに違いありません」

2022年のアート・バーゼル・マイアミ・ビーチ会場風景。Photo: COURTESY ART BASEL

フィンがフェアを率いるのは2024年からで、今年のフェアはデ・ベリスの指揮下で動くことになる。今年の出展者の募集は既に締め切られており、出展者リストは9月に発表される。

フィンはメールで、マイアミ・ビーチの新ディレクターとしての抱負を次のように述べている。

「もちろん、ディレクターとして本格的に仕事をスタートさせる前に、まずは吸収することが第一のステップになります。ギャラリーやコレクター、パートナー、そして地元や海外からの来場者のために、フェアとそのプログラムを現在そして将来にわたり発展させ続けるため、マイアミ・ビーチのチームや多くの協働者たちと緊密に力を合わせながら働けることを嬉しく思っています」

フィンが就任するアート・バーゼル・マイアミ・ビーチのフェアディレクターという役職は、今回新たに設置されたもので、マイアミ・ビーチのフェアはこれまでアート・バーゼルのアメリカ地域担当ディレクターが率いていた。そのポストにあったノア・ホロヴィッツが2021年7月にサザビーズに移籍して以来、同フェアは専任のリーダー不在の状態が続いていた。なお、ホロヴィッツは、2022年秋にCEO(これも新設された役職)としてアート・バーゼルに復帰している。

アート・バーゼルが組織変更で目指すこと

役職を増設している背景には、アート・バーゼルの幹部組織全体の変更がある。具体的には、それぞれのフェアに専属のディレクターを置き、アートフェアと展示プラットフォームのディレクターであるデ・ベリスがそれらを統括する体制が整えられつつある。ミネアポリスのウォーカー・アート・センターでキュレーターを務めていたデ・ベリスがアート・バーゼルに加わったのは1年前。以来、香港のフェアディレクターとしてアンジェル・シヤン=ルが、バーゼルのフェアディレクターとしてマイケ・クルーゼが任命された。なお、パリのParis+については、初開催の約7カ月前にクレマン・ドゥレピーヌが専任ディレクターに任命されている。

ホロヴィッツは、今回の組織変更についてメールでこう説明した。

「この体制により、世界の出展者と観客を惹きつけながら、地元や地域の文化に合わせた最高品質のフェアを各都市で提供することが可能になります」

アート・バーゼルは、香港フェアのディレクターとしてシヤン=ルを昇格させることを発表した際、長年同フェアを率いてきたアジア地域のディレクター、アデリーン・ウーイが留任し、11月に予定されているアートウィーク東京とのコラボレーションのような、地域全体における「アート・バーゼルの戦略的発展の舵取り」に注力することを明らかにした。また、現時点では、アート・バーゼルが新体制の一環としてアメリカ地域のディレクターを任命する予定はなく、新たなアートフェアを立ち上げる計画もないとしている。ホロヴィッツはこう強調する。

「私たちにとって一番のミッションは、最高のアートフェアを世界規模で展開することです。既存のオーディエンスと新規のオーディエンスの両方に魅力的な価値を提案することで、私たちのブランドを成長させていけるよう全力で取り組みます」(翻訳:野澤朋代)

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